第3話

 校庭に人だかりができていた。みんなの目線の先には狼人間のようなものが立っている。それが怪人というもの。


 太郎は怪人は見たことはない訳でもなかった。一年生の頃に目の前で自分の自転車を盗まれたのだ。その盗んだ怪人はただ自転車のタイヤが好きすぎて、タイヤ怪人になってしまった男性の会社員。


 たまたまアンティーク好きな太郎の父親が買ってくれた自転車のタイヤに目をつけて盗んだところに居合わせてしまった。

 大事な自転車だったため太郎は追いかけたのだが逃げ足が早く嘆いていたらダブルゴーゴーが現れたものの他の戦隊も次々と現れ戦隊同士で自分達の手柄にするために喧嘩になってタイヤ怪人はその場を逃走した。

 後日認定戦隊に撃退されたのだが太郎の自転車はタイヤを外されて無惨な姿で戻ってきた。


 怪人がすごく憎い、のもあるが手柄のために喧嘩していた戦隊たちにも呆れていたのもある。


「あ、山部長と花奏かなでちゃんだわ」

 2人のもとに、とある人たちが走ってきた。蘭が言ってた山部長、一年生の女子部員花奏。

「蘭くん……この男子はあの童貞バンドの」

 見ず知らずの者、しかも女性の前でバンド名でなく童貞というワードを出されて焦る太郎。

「そうよ。私の幼馴染なの」

「マジか……僕ファンなんです。童貞じゃないけど君のつくる音楽は最高だったよ、解散が惜しいよ」

「はぁ、どうも」

 太郎はいきなりよう手を差し伸べられなおかつ童貞じゃないという傷口に塩を塗るような挨拶をされていい気分はなかったが握手はした。


 それよりも花奏という一年生が思いっきりアイドルフェイスで蘭は美人系だし2人でアイドル戦隊として売り込んだ方がいいのではと太郎はすぐ思った。が、怪人を見てビクビクして蘭にしがみついている。

 山部長がカバンから何かを出した。


「あれは……怪人ザック。人の不幸を養分としている怪人、もとはゴシップ記者で……人の噂で生計を立てていた人物らしい」

 と読み上げた。


 蘭が身につけていた腕時計もそうだし怪人の情報が表示されているスマホよりも少し大きめのハンディタイプのタブレットも新しいもの好きな太郎は惹かれてしまうし気になってしいまう。

「すごいなそれ」

蘭は太郎に見せつけるかのようにポーズを取る。


「でしょ。これは政府から支給されたもので認定されてない戦隊も持つことができてね、怪人データや怪人情報を発信してくれるのよ」

「政府、お金かけてるなぁ」

 太郎がそういうと山部長は

「まぁうちらみたいな非認定戦隊はリースなんです。外見のカバーを変えて中のソフトは更新、ハードは支給された3年前のもの。腕時計もスマホと連動するけど昔のもの、ベルトは買い替えしないと汗だくで臭くなるから……衣装は裁縫部がやってくれるけど他の備品は政府からのリース……リースも部費体してるんだ。おまけにベルトやケース替えは個人負担……」


「そりゃ部員も減るわけだ」

 確かに腕時計も本体とベルトのバランスがチグハグで買い替えたといっても安価なため少し劣化が見受けられる。

「それに生命保険代も高いんだろ……」

 蘭は頷いた。


「そうね、認定戦隊なら国からの補助で例え死んだとしても結構お金もらえるけど非認定戦隊は半額以下って言われてるし、それじゃ賄えないから別で戦隊保険に入ってるわ。物損事故が結構多いから……もちろん故意じゃないわ。怪人起因のものでも戦った私たちもいくらか払わないと壊された方もたまったもんじゃないのよ」

「そりゃ部員も戦隊も減るわな」


 という漫才のようやりとりを久しぶりに幼馴染同士でしてなんとなく太郎は蘭との距離をもとに戻りつつもあるが怪人の目の前にいる人物が見えた。


 車椅子が転がっていてその横には圭佑が横たわっていたのだ。もちろん下半身付随で動くこともできない。


「圭佑……しまったさっき僕と口論になっててお付きの人もいないのに1人で部室から出ていったばっかりだった……」

 山部長は申し訳なさそうな顔をしている。

「助けなきゃ。彼は動けないだろ。戦隊以前の問題だ」


 太郎は身を乗り出すが山部長に止められた。蘭は首を横に振った。

「タブレットにはあの怪人ザックはレベルが高すぎて今の私たちには無理だわ」

「……でも」

 そうは言いつつも目の前で倒れている圭佑が動けず助けを求めている姿を見ていると気高く止まっていた憎き奴の弱っている姿を見て今とてつもなく優越感を感じるのだが心の奥では何かちくちくするモノがある太郎。


 その時だった。鳴り響く音楽、学校の校内放送を利用したものであろう、スピーカーからけたたましい効果音が鳴り響いた。

 どこかしら戦隊のテーマソングみたいなものだ。周囲はざわめき怪人ザックは周りを見回した。その隙に制止されていた太郎は圭佑の元に駆け寄り、山部長と一緒に群衆の中に彼を運んだのだ。


 怪人ザックは雄叫びを上げた。養分が減ってお腹が空いているようで暴れ出した。間一髪。群衆は叫び声を上げ逃げ惑う


「何やってるのよ、太郎……危なかったじゃない! 逃げるわよ」

「だって弱いものいじめするのは許さないよ。蘭ちゃんだって戦隊だろ? なんで立ち向かわなかった? てかさっきの音楽はなんなんだ」

「そ、その……ごめん。正直怖かった。ダメよね、戦隊のくせして」

「いや、攻めてるわけじゃないけど。まぁみんなが怪我しなくて良かった」


 気を失っている圭佑を背負った太郎だが自分よりも背丈が高い彼は当然の如く重い。山部長にも手伝ってもらってなんとか校舎の影まで逃げ込むことができた。


 息切れをする太郎。するとさっきまで暴れていた怪人ザックの目の前に人影が。

「逃げ遅れた人でもいるのか」

「違うわ……よく見て」


 そこには全身タイツの赤と緑のものが立っていた。見たことがある、太郎はごくりと唾を飲み込んだ。


「……認定されている戦隊……ヨナオシジャーだ!」 

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