じゃあ、早速魔王に会いに行きましょう

「なんでいんの?」

『ほっほっほっ!!!ぬるいな小娘!!儂を誰だと思っておる!!』


杖だけど、ドヤ顔して言っているのがよく分かる。

まあ、腐っても聖女の杖ってやつだよね。

それなりの魔法が使えるのは当たり前ってことか。


「……投げても戻ってくるんじゃ、やっぱり灰にするしかないわね」


ゆっくり体を起こしながら、再び杖に手を掛けようとすると、杖が手の届かない距離まで後退った。


『いやいやいや!!待て待て待て!!お主を聖女として認める!!』

「そんな嫌々に認めてくれなくても結構だけど?」

『いや、あの、認めさせて下さい……』


その言葉を聞いて、バレないように口角を上げた。


ふん。勝った。

最初からこうして大人しくしてれば良かったのよ。


とりあえず、城から追い出される事はなくなった。

あとは、この口煩い杖をどうやって従わせるかだけど……中身が年寄りなだけに一筋縄ではいかなそうだ。


まあ、そこは後々という事で、先にやる事はただ一つ。


「よしっ、じゃあ、魔王の所に行こう!!」


窓の外を指さし、意気揚々と言いのけたら杖が頭に飛んできた。


『お主は馬鹿かーーーーー!?』


あまりの衝撃に涙目になりながら蹲っていると、杖爺の小言が始まった。


『お主は儂の使い方を神から聞かされなかったのか!?』

「いや~、あの神様から聞いたのって杖爺に認めてもらえぐらいで、あとはひたすら頭抱えてた印象しかないもん」

『……お主、神になにをしたんじゃ?』


何で私がやらかしたていで話してんの?凄い失礼な杖だよね。


やらかしたと言えば、神様の肌に彫り物彫りたいって言ったぐらいだし。

そのぐらいどうって事ない普通のことじゃん?

彫り師は彫りたい肌があればその衝動に勝てないのよ。これはもう職業病。仕方の無い事。

ってか神様はなら管轄している人間の頼みぐらい聞いてもいいと思うんだけど……ほんとケチだよねぇ。


『……お前の相手をした神には同情するな。これを聖女として召喚した奴の顔が見てみたいものじゃ』


杖の癖に溜息吐いてんだけど。

ってか、その台詞、神様も言ってたな。


まあ、そこはさておき、どうも杖爺の言い方じゃ認められただけではすぐに魔王の所へ行けないようだ。

私としては早くあの人に会いたいんだけど、相手は魔王。

攻撃されないとは言いきれないし、杖爺の力が衰えないとも言いきれない。


いくら魔石が付いていようとも中身は爺さんの杖爺。このまま討伐に行っても大丈夫なのか?ポッキリ折れたいしない?そっちの方が心配になってきた。


「ねぇ、杖爺。世代交代って知ってる?」

『なんじゃ!?儂はまだまだ若造なんかには負けんぞ!?そもそも、若いからと言って──……!!』


それ、うちの爺ちゃんもよく口にしてたけどそういう爺ちゃんに限って怪我したりすんだよ。

そして、こういう自信のある爺さんに限って頑固。人の言うことを聞きゃしない。


「あぁ~、分かった分かった。とりあえず、私はこの後何をすれば魔王あの人に会えるの?」


今だにブツブツ文句を言っている杖爺にこの後の事を聞いた。


『よかろう。まずはお主の体力を高める。魔王とあいまみえる前にくたばってもらっては困るからの。国王に頼んで、騎士を一人付けてもらえ。本来なら儂が鍛えてやるところじゃが、まだ目覚めたばかりで本調子ではないのじゃ』


『いや~、残念じゃな』なんて言っているが、ただ単に年で体が動かないんじゃないの?と、口に出そうになったが、これ以上杖爺の機嫌を損ねるのは面倒だと思い黙っておいた。


そして、国王様の元へ行き、杖爺のことを話しつつ私の体力づくりの為に騎士を一人貸してくれとお願いした。


国王様は当然杖爺の声は聞こえないから半信半疑だったが「ルイ殿が言うなら……」と、騎士を一人手配してくれることになった。


私はどんなイケメン騎士が来るかワクワクしながら部屋で待っていた。

どうせ教わるならイケメンがいいでしょ?

それに、騎士の筋肉質な体。いいよねぇ~。

あの筋肉に映えそうな絵は……


ニマニマしながら想像していると、ドアがノックされた。


「はぁ~~い!!」


意気揚々とドアを開けて、目の前に立っている人物を見て固まった。


(何故……こいつが……)


相手も私の顔を冷ややかな目で見ている。


私に冷ややかな目を送るのはこの国でただ一人。

国王の長男様だ……

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