【外伝・SSS(スペシャル・センス・サバイバー)】 〜欠けたなにかと交ざったもの〜

砂漠の使徒

第1話 本棚

「鈴木先輩! 借りてた本面白かったです!!」


「そうだろそうだろー」


 昼休み。

 弁当を食べた後、コーヒーを飲みながら漫画を読む。

 真くんの話は半分くらいしか頭に入ってきていない。


「まさか一話から主人公が死んでしまうなんて思わなかったです!」


「だよなー」


 あれは衝撃だった。

 展開早すぎるって。


「この本棚に置いておきますね!」


「おうー」


「今は同じ作者の……」


「……」


 本棚?

 違和感を覚えた。

 そこに本棚なんてなかったよな。


「あ!!!」


 思い出した!

 あれをここに持ってきていたんだ!!


「ど、どうしたんですか!?」


「それ、その本棚に置いちゃダメだ!」


 僕は立ち上がり、急いで止めようとしたが。


「え!? そんなこと言われても、もう……」


「しまった、手遅れか……」


 本棚から急速に吹き出した大量の煙が辺り一面を覆った。

 視界が真っ白に染まる。


「ごほっ、ごほっ!」


 そして、煙が晴れると。


「あれ、ここどこだ?」


「知らないところだね、佐藤」


「……あちゃー」


 やってしまった。

 こりゃ、始末書だな。


「え、佐藤って、まさかあなたは勇者佐藤さんですか!?」


 二人の男女が、どこからか現れていた。

 もちろん研究所の人間ではない。

 というか、女性の方はネコミミにしっぽがある。

 人間ではないな。


「お、僕のこと知ってるの? 嬉しいな」


「握手してください!」


「いいよ」


 仲良く握手をする二人。


「まてまて! そんなことをしている場合じゃない!」


「そうだよ、佐藤! どういうことなのか訊かなきゃ!」


 よかった。

 さすが勇者の奥様なだけあって、しっかりしてらっしゃる。


「ええと、まず……」


 どこから説明しようか。


――――――――――


「僕達は、本の中の登場人物で……」


「この、「置かれた本の登場人物を召喚する本棚」で召喚された……?」


「そうなんです。信じられないかもしれないんですが……」


 実験のために移動してきた本棚で、こんなことになるとは……。

 管理が甘かったな。


「信じられないけど……あの世界もゲームの世界だったし。今更本の中と言われても信じるよ」


「今は信じるしかないしね」


「ご理解が早くて助かります」


 万に一つでもありえないことだが、勇者佐藤が暴れ出したりしないかヒヤヒヤしていたから……。


「鈴木先輩、彼らはどうするんですか?」


「どうするもなにも、出てきたばかりで悪いが帰ってもらわないと……」


「きゃーーー!!」


 廊下の外で甲高い悲鳴が聞こえた。


「なんだ!?」


「先輩、行きましょう!」


――――――――――


「どうしました!」


「あ、あれ……」


 女性研究員が床にへたり込んでいる。

 彼女が指さす先には、半透明の青色のゲル状の。


「スライム……ですか!?」


 こんな動物はこの世界にはいない。

 それに、研究所のリストにも載っていない。

 そんな謎の生き物が突然廊下に現れたのだ。

 考えられる理由は一つしかない。


「あれは……君達の世界のものだね?」


「はい」


 だろうね。


「どうしてこんなところに?」


「ますますまずいな……」


 これは、一大事になりそうだ。


「佐藤さんやシャロールさんだけでなく、モンスターまで出てきちゃったんですか!?」


「そのようだな……」


 さて、どうするか。


「ここで退治を……」


 真くんが、白杖を刀に変えた。

 僕はそれを見て、慌てて止めた。


「おっと、真くん。それはいけない!」


「え?」


 わかってないな?

 もう一度、読み返して見たまえ。


「そこにシャロール夫人がいらっしゃるのをお忘れか」


「あ……ごめんなさい」


 気づいたようでなにより。

 そう、シャロールさんはモンスターを殺すのには絶対反対なんだ。

 平和的に解決しなければ。


「ふふ、いいんですよ! 私のやりたいことをわかってくれる人、好きですから!」


「……!」


 おい、真くんよ。

 君には有栖という彼女がいながら、今シャロールさんの「好き」って言葉にときめいただろ。


 いや、彼の浮気を問い詰めてる場合ではない。


「このままここに野放しにするわけにもいかない……ですよね?」


 そうですね、勇者殿。

 しかし。


「それなら、大丈夫です」


 なぜなら。


「あの本に触れれば、登場人物は元の世界に戻るようになっていますから」


「そうなんですね!」


「なので、真くん!」


「取ってきますね!!」


「よし」


 彼には急いでもらうとして。


「その間にお願いがあります、シャロールさん」


「あの子を連れてくればいいんですよね」


 さすがシャロールさん。

 話の流れがわかっておられる。


「はい。話術を見せてください」


「わかりました!」


――――――――――


「ぽよぽよ~」


 シャロール夫人がそう声をかけると、スライムはおとなしく床に置いた本に触れてくれた。

 すると、スライムの姿は一瞬で消えてしまう。

 本の中に戻ったんだ。


「これにて、一件……」


「おい、鈴木!! 町中で謎のモンスターが大量に出現してるんだが……心当たりがありそうだな?」


 先輩が、とても怖い顔で微笑むのだった。

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