・香ばしいふわふわの経験値のバターロール - ゲルタ136 -

「お待たせしました、ご注文の品ですっ!」


 トネリコ亭は女主人のゲルタさんが1人で経営している。

 もうお婆ちゃんに入りかけの年齢で、真っ白な白髪の中に色あせた赤毛が混じった風貌をした人だ。


「いらっしゃい、急かしちまって悪かったね、コムギ。何せ急なお客さんでねぇ」

「外から人がくるなんて珍しいですね」


「町の方でダブついた商品をうちの村に売りにきたみたいだよ。はっ、遙々ありがたいことさ」


 今でこそそんな小太りのおばちゃんだけど、昔のゲルタさんは凄い美人だったと村長さんが言っていた。


 今でも昔は超ナイスバディだったんだろうなって名残が、胴体の方にたっぷりと残っている。


「触るかい?」

「さ、触りませんよそんなのっっ?!」


「あっはっはっ、羨ましいだろう?」

「そりゃ、羨ましいですけどっ!!」


 ゲルタさんはあたしが運んできたトレイを軽々と持ち上げて、厨房の奥に運んでいった。

 それから席を借りて少し待つと、またゲルタさんが戻ってきた。


 ゲルタさんはもうバターロールを半分もつまみ食いしていた。


「な、なんだい、このパンはっっ!?」

「ぁ……お口に合いませんでしたか……? あたしは――」


「アンタッ、母親を越えたんじゃないかいっ!? こんなに美味いパンは生まれて初めてだよっ!」


 あまりの剣幕だったから不評かと勘違いした……。


 でも正反対だった!

 嬉しくて、あたしはゆるゆるにニヤケてしまった……!


「もうっ、そんな言い方されたらビックリするじゃないですかーっ! はぁ、よかったぁ……えへへへー♪」


 けど驚きはそれだけじゃなかった。

 ゲルタさんがパンを全部平らげると、さっきのファンファーレが彼女の頭の上から響き渡った!


 でもゲルタさんは、音に全く気づいていないみたいだ。

 どうなってるんだろうって目を凝らしてみたら、またあの不思議な文字が浮かび上がってきた。


――――――――――――――――――

【酒場女ゲルタ】

 【LV】2→6

 【解説】胸囲は驚異の136cm

――――――――――――――――――


 えっと……。

 別に知りたくない情報も見えてしまった……。


 嘘……あれって、そんなにあるんだ……。


「どうかしたかい?」

「えっ!? ううん、別になんでもっ! あ、でも、力がみなぎるような感じとかしない……?」


「そうっ、よくわかったねぇ!? アンタのパンを食べたら、なんだか急に体が軽くなってきたんだよっ! これって、何か特別な物でも入っているのかい?」

「それが全く……。あ、じゃなくて、ちょっとだけ秘密の工夫がしてあるんです……っ」


 って言っておかないと、疑われちゃうかな……。


 魔物をやっつけられるほど強くなったようには見えないけど……。

 毎日食べ続けてもらったら、どんどんレベルも上がって、それでどうにかなってくれたりしないかな……。


「アンタは本当に気だてのいい子だね……。これで忙しいパン屋の身でなかったら、あたいもアンタにこの酒場を任せられるんだけどねぇ……」

「あはは……さすがに過労死しちゃいますから、遠慮しておきますね……」


 酒場女なんてあたしには絶対できっこない。

 逃げるようにゲルタさんに愛想笑いを浮かべて、やっぱり羨ましい気がする大きな胸囲に目を送ってから、村のみんながちらほら集まってきたトネリコ亭を出た。


「136cmかぁ……。若い頃は、村長さんも鼻の下伸ばしてたんだろうなぁ……」


 村長さん、嘘か本当か、昔は都で拳闘士をしていたって言っていた。

 それが本当なら村長さんのレベルって、いくつくらいなんだろう……。

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