第4話 天上の輝き

「お嬢様!この事を子爵様に!」

「そうね!お父様もきっと喜んで下さるわね!」


そりゃぁ、サーシアの眷属と契約したなんて、

前代未聞の大ニュースだもんねぇ。

信じてくれたらね。


『無駄よ』

「ど、どうして?言葉を話す精霊なんて------」

『だから~それが無駄って言ってんのよ』

「どう言う事でございましょう?」


ん~~~

これはちゃんと説明しないと分からないよね。

精霊に順位があるのは前に言ったよね?

それに応じた法力が必要だってのも。


本来の人型特級精霊は人の言葉を話すの。

つまり今の人型は本物じゃ無いって事なのよ。

簡易版ってゆーか、量産型。

みたいな?

業務用と家庭用。

的な?


昔と比べるとね、人の持ってる法力が下がってるの。

本当は特級と契約出来るレベルじゃ無いのよ。

でも人型精霊と契約した聖女が何人かは居るのよね。

実はあれ上級精霊の類人猿タイプを人型に模倣もほうしてるの。

だから喋れないのよ。

もう五百年以上前からそーなの。

結構ヤバイ状況なのよ。


なんでそーなったか?

理由はあるんだけどね、ややこしいからまた今度ね。

とにかく応急処置として誤魔化してるわけよ。

聖女の存在が仮初かりそめの平和を支えているの。

居無いと困るのよぉ。


権力と権威の分離。

それが重要なの。

国家権力の暴走を抑えているのが聖女を頂点とした教会の権威なわけ。

そのバランスが崩れるとヤバイのよ。

もし聖女が居なくなってしまうと、宙に浮いた権威を権力が取り込んでしまうの。


権力と権威がひとつになるとね。

裏ヤル気スイッチが入って一気に自滅の道を走り出すのよ。

真夜中のハイウエィを盗んだバイクで明日無き暴走!

それを種族レベルでやっちゃうのよ。

ラリってんの?


高級精霊も言葉を話すんだけどね。

人の言葉じゃ無いのよ。

精霊語とでも言えば良いかなぁ?

よりシステムに近い言語。

コンピューターで例えるならアッセンブリ言語?

そんなやつ。

リンゴちゃんはそれを喋ってるの。

正確には、ある周波数の信号を発しているのよ。


それを言葉として理解するには高い法力が必要なの。

イリスはそれだけの法力を持ってるのよ。

じゃぁマリアンは?中級でしょう?

そう、本来なら無理。

でもイリスとマリアンは強い信頼関係で結ばれて、

互いに心が通じ合ってるからねぇ。

イリス経由で翻訳されて言語として認識が出来るの。

他の人には聞こえないよん!


「じゃぁ、お父様には聞こえないの?」

『まぁ無理ね』

「そんな・・・喜んで貰えると思ったのに・・・」

「お嬢様・・・」


『別に良いじゃん、そんなの』

「良く無いよ!」

『あら何?あんた、あのオッサンに認められたいの?』

「オッサン・・・」

『案外、俗っぽいのねぇ』

「そーじゃ無いよ!私はどーでも良いの!リンゴちゃんが!

リンゴちゃんが馬鹿にされるのは嫌っ!」


ハロルドの汚物を見るような視線が頭から離れない。

私の大切な精霊を、リンゴちゃんを、あんな目で見るなんて!

許せない!


『ふふっ、嬉しい事を言ってくれるじゃないの。

心配しなくても大丈夫よ。その内、いやでも思い知るわ。』

「その内?」

『えぇ、あなたにやって欲しい事があるのよ。

それをサポートする為に私は来たの』

「えっと、何をすれば良いのかしら・・・?」


『世界征服よ!』


***


エルベ王宮の敷地の中に在る宮殿のひとつアロン宮殿。

主に舞踏会や宴会等に使われる。

今、この宮殿では降霊の儀を終えた貴族たちを招いての大宴会が開かれている。

王家主催によるこの会に招待される事は家門のほまれである。


基本的に伯爵家以上の高位貴族は順当に招待され、

その他の下位貴族や地方豪族、大商家等は功績や

話題性に応じて、その栄誉にあずかる。


何故我らが・・・

目もくらむきらびやかな内装に引けを取らぬ豪華な賓客ひんきゃくに気後れしてしまう。

あぁ、あそこに居られるのは大公家の・・・

その横は公爵家の・・・

あれが噂の近衛騎士団の・・・

田舎貴族には一生縁の無い雲上人だ。


何故我らが・・・繰り返し思わずには居られない。

まったく心当たりが無い。

王宮の使いが来た時は腰が抜けそうになった。

「ご家族お揃いでお越し下さいますよう」

そう使者に告げられたが、さすがにイリスを連れて来るのは躊躇ためらわれた。

ここで、こんな所で恥を搔くわけにはいかん!


「楽しんで居られるかな?コーランド卿」


ん?誰だ?知らぬ顔だ。

しかし高位の家門であるのは間違いなかろう。

失礼の無いように対応せねば・・・


「はい、お気遣いかたじけのう存じまする。

なにぶん田舎者ゆえ作法に抜かり無きかと冷や汗ばかりで御座います。

ところで私を御存じのようですが・・・」


「おぉ!これは申し遅れた!いやいや失礼つかまつった!

ゴドローフのサイモンと申す」

「こ!公爵閣下!」

「そんなにかしこまらずとも良いではないか。祝いの席じゃからの」

「お、おそれ入りまする」


ゴドローフ領主サイモン・ヘンベルツ公爵だと!

大貴族じゃないか!

元老院の重鎮じゅうちんだ!

いったいどうなっているんだ?

わけが分からん!


「実はの、そなたを招待するように手配したのは私なのだ」

「閣下が?」

「さよう、迷惑じゃったかの?」

「とんでもございませぬ!この上なき名誉にて」

「それは重畳ちょうじょう


閣下より降霊の儀を終えた家人たちにお祝いの言葉を賜った。

公爵家とよしみを繋ぐ事が出来るなんて夢のようだ!

だが何故?どうしても腑に落ちない。


「ところで卿よ、ひとり足らぬようであるが?」

「と、申しますと?」

「いや、もうひとり娘御が居ったであろう?」

「あいや!その、その者は~あの~体調が~」


イリスの事かっ!見られていたのかっ!

まさかそれで?笑い者にするつもりか?

余興のネタにでもと思われたのか?

こ、これがやんごとなきお方たちのお遊びなのか?

ハロルドは血の気が引いて行くのを自ら感じた。


「なんと!それはいたわしい事であるの。

では見舞いの品なと届けて進ぜようぞ」

「勿体なき事に御座ります、娘も喜びましょう」


なんだ・・・取り越し苦労だったか・・・

肝が冷えたわい・・・


「ふむ、して王都にはいつまで逗留とうりゅうかの?」

「はい、せっかくの都ですので後10日程は」

「さようか!では娘御がえたら当家に参るが良い。

ハイラム産の美味い酒が手に入ったのじゃ。

共に酌み交わそうぞ!」

「恐悦至極に存じます!是非とも!」


どうやら公爵閣下はイリスがお目当てのようだ。

お気に召したのだろうか?

それならばそれでも良い。

とんだ期待外れの厄介者だ、欲しいと仰せなら喜んで進呈しよう。

それで公爵閣下の覚え目出度めでたきに与かるならば

十二分に役に立ったと言うものだ。


「閣下、グリード殿下が御到着なされました」

「うむ、すぐに参る。では卿よ、後ほど家人を遣わす」

「承知いたしました」


で、殿下も御越しになるのか!

そんな場所に私は居るのか!

今更ながらここが王宮の中である事を思い出した。

足の震えが全身に伝わり、グラスを持つ手が覚束おぼつかない。

落としてはならぬっ!

指先に精神を集中させて、テーブルに置く。

よしっ!もう大丈夫!


陽の光を摘み取ったかのようなまばゆい輝き。

大天井から吊り下がる巨大なシャンデリアを、

薄目を開けて見上げる。

あぁ、これが天上界と言うものか・・・


ハロルドは我知らず、そっと手を伸ばした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る