玉座奪取式しりとり⑤

 先に動いたのはカルラとソフィアであった。


「いくよっ!」


 しかし、駆け出し二本を相手にするのは武器も何も持っていないカルラ。

 ソフィアはロキの横を駆け抜け、奥の扉へと向かっていく。

 しかし、そんなソフィアを無視してロキは剣を振るうことで相対を始めた。


「いいのかな、ソフィア様を放置して!」

「いいも何も、行ったところで何もできないからね」


 振り下ろされた剣の側面をカルラは器用に拳で叩いていく。

 ドレスがはためこうともお構いなし。続け様に振り下ろされる剣を丁寧に捌いた。


「おっかしいな、普通武器を持っている人間には委縮しちゃうものじゃないの?」

「私、こういう方面は得意だから!」

「ほんと、兄さんに同調するわけじゃないけど、うちの騎士団にほしい……よっ!」


 きっとギャラリーでもこの場にいれば大盛り上がりしていただろう。

 何せ、剣を扱う人間に対して素手で渡り合っているのだから。

 防戦だけではなく、時には蹴りや拳を叩きこむために振るっていく。ロキもロキで丁寧に柄や身を捻ることで対処していくが、攻め切れないのは見れば分かるものであった。

 しかし、その内の一振がカルラのはためくドレスを裂いてしまう。


「あ、ごめん……って、やっぱりドレスの下に着るよね、もう一枚」

「流石にこんな遊戯ゲームにドレスだけだと捲れた時……そ、そのっ! 下着とか見られたら嫌だし……」


 破れた下にはもう一枚服が見えていた。

 考えれば当たり前。激しく動くこともある秤位遊戯ノブレシラーでドレス一枚など下着を見せてもいいと言っているようなもの。

 レディーとして、安易に肌を見せない配慮は当然であった。


「でも、一応これからは気をつける……よっと!」


 カルラが拳を振るっていないにも関わらずロキは咄嗟に身を屈めると、今度は背後からナイフが空を切る。


「やぁ、お帰り」

「はい、ただいま帰りました」


 合流、正真正銘の二対一。

 ロキは一度飛んで距離を取り、仕切り直しを図る。


「ソフィア様、扉は?」

「残念なことに、やはり交換でしか開錠できないものでした」

「となると、一度私達は下がって交換しに行った方がいい感じですかね?」

「そうしたいのは山々ですが……」


 チラリと、ソフィアはロキの方を向く。


「私は拳であの剣を対処するのは難しいでしょう。それに、逃がしてくれるとはとても思えませんから」

「でしたら、私が相手をしましょうか? 多分、今やった感じなら……うん、いける」

「では、そうしましょう」


 ジリ、と。

 ソフィアが一歩後ずさる。

 すると、ロキは何かを感じたのかすぐさま距離を縮め始めた。

 カルラはソフィアとの間に割って入るように相対し、ソフィアが入り口に向かって駆け出す。


「ははっ、交換できる『物』を探しに行こうとしてるね!?」

「レディーが背中を向けた理由を詮索するのは野暮だよ! サクくんなら絶対にそういうのはなんだかんだいって聞かないから!」


 横薙ぎに振るわれた剣の側面を叩き、胴体めがけて蹴りを放つ。

 それを避け、ソフィアの向かう方向へ足を向けようとするものの、カルラは位置を考え再び正面へと立った。

 行かせない―――そして、思うように行けない。

 数十秒も時間が経てば、ソフィアの姿は扉の奥へと消えていってしまう。


「行っちゃった……まぁ、君を倒せばゆっくり相手にできるしいっか」

「私を倒せればいいですね!」

「確かに、想定を超えてカルラ様の実力は強かった。この遊戯ゲームにしたのは失敗だったなとは思ってるよ」


 でもね、と。

 ロキはカルラが疑問に思った隙を見て横を駆けだした。


「なっ!?」

「この遊戯ゲームだからこその勝ち方だってあるんだよ!」


 ロキがこの部屋に縛られていることをカルラは知らない。

 ソフィアが部屋を出た時点で阻止する術はないのだが、知らないカルラは「追いかけに行った」と考えてしまう。

 だからこそ、ロキが入ってきた入口へ向かった理由に気がつかない。


 慌てて追いかけるカルラ。

 目の前を走るのはロキ。その少年の後姿を追いかけていくうちにようやく違和感に気がつく。


(向かっているのは入り口だけど、ちょっと体勢がおかしい……?)


 駆け抜けようとしているのであれば、状態は起き上がっているものだ。

 しかし、ロキは少し前屈みになっており―――何か、に見えなくもない。

 そして、ロキ達は寸前のところまで入り口に辿り着く。

 正確に言えば、部屋の前に転がっている赤い扉へ―――


「そういうこと……ッ!?」

「君がこの扉の所有者だって分かっているからね!」


 ―――『物』を一つも所持していない場合、参加者は敗北となる。


 今、カルラは素手で戦ってはいるものの、所有している『物』は『扉』だ。

 もし『扉』が壊されてしまうようなことになればカルラは『物』を失い、強制的に退場させられることになる。


(やられた! もうっ、私の馬鹿ァ!)


 一歩、たった一歩の距離が詰められない。

 割って入ろうとするにも少しばかりロキの方が前に出ており、先に手を出せるのはロキであった。

 これがこの遊戯ゲームだからこそ可能となる相手の倒し方。

 肉弾戦ではカルラに分があるからこそのもの。


 ロキはカルラの焦りを無視して剣を扉に向かって斬り込むように振り上げる。

 だが―――


「……危ないですね」


 ガキィッ! と。

 直前でソフィアのナイフが剣の進行を阻止する。


「戻ってきたんだ」

「えぇ、途中見えてしまったロキ様の目的が分かってしまいましたので。おかげで宝探しは一時断念です」


 後ろからカルラの蹴りが放たれる。

 それをまともに受けてしまったロキは部屋の中を転がされた。


「ソフィア様、いいんですか……?」

「あとで私が一対一で戦ったとしても、あの技量を見る限り魔法を封じられたこのルールの中では恐らく倒せないでしょう。ですので、


 だからこそ時間がない。

 一刻も早くロキを倒して、『く』を合わせられる『物』を探す。


「それでは仕切り直しです、カルラ」

「はいっ!」


 こうして、二人はもう一度ロキに向かって地を駆けた。

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