友達の話から始まる相談事
ロイスが顔に痣ができてしまった翌日の夜。
大事な枕を抱えている寝間着のカルラは一人、とある部屋へと訪れていた。
薄暗いランプが薄らと灯り、ゆらゆらと小さな影がいくつも揺れている。
「ねぇ、お母さん……相談があるんだよ」
カルラの顔はとても深刻そうだ。
口元を枕に埋め、落ち着かない様子で床に正座をしている。
「あらあら、カルラちゃんが相談だなんて珍しいわね~?」
その対面、露出の多いネグリジェのままベッドの上に腰を下ろす女性。
カルラと同じ艶やかな金髪を肩口まで切り揃え、綺麗でどことなく大人びた雰囲気を醸し出す顔立ち。凹凸のしっかりしているボディも合わさり、男を惑わせる色気を感じる。
この女こそ、カルラの母親でありロイスの妻であるマリアである。
「といっても、私のことじゃないんだよ。友達の話なんだよ」
「へぇ~、そうなの~?」
「どうしてもって言われたから、私はお母さんに相談することにしたの。私じゃ分からないからね」
「いいわよ~、可愛い娘のためだもの!」
おっとりした口調がここ―――マリアとロイスの寝室に耳に響く。
娘に頼られたからか、どことなく嬉しさが含まれていた。
「……実はね、その女の子にはずっと一緒にいた男の子がいるんだよ」
「うんうん」
「昔はぶっきらぼうで、たまに「イラッ」ってくることも多かったんだけど、しばらく一緒にいたら徐々に打ち解けてきて……気がついたら、その子は一番信頼してるって言っても過言じゃないぐらいの存在になってたんだ」
「そうなのね~」
「でもね? すぐにふざけてくるし、失礼なことばっかするし、毎日「好きだー」とか言ってくるし、困った子なのは変わらないの」
まるで自分のことのように語るカルラ。
マリアは笑みを浮かべながら、カルラの言葉に相槌する。
「その子は一番信頼してるって言っても、異性としてじゃなくて幼馴染とか家族みたいな感じしかないんだよ。でも、最近ね……なんか、その子と話してると不思議な感じがしちゃうようになったんだ」
カルラは深刻そうな顔をしたまま、自分の胸を押さえる。
「あの時……とあるパーティーでその子が他の女の子とダンスを踊ってるところを見ていたら胸がぎゅーって苦しくなったり、いつも当たり前だった行動が恥ずかしくなったり、無性に触れたくなる時があったりって……なんか、おかしくなっちゃったの」
「あらあら~」
「ねぇ、お母さん? これってなんだと思う? お友達の子って、どうしちゃったのかな?」
「そうねぇ~」
カルラは答えを知りたいと、真剣にマリアの瞳を見つめる。
マリアは頬に手を当て、何か考えるように少し目を閉じた。
そして———
「カルラちゃん……サクちゃんとの結婚式はいつにしよっか?」
「何言ってるの!?」
カルラの求めていた答えは、返ってこなかった。
代わりに返ってきたのは、何故か自分とサクが結婚するという話。
カルラは顔を真っ赤にし、動揺を隠し切れないままマリアに詰め寄った。
「ど、どどどどどどどどうしてサクくんの話が出ちゃうの!? っていうか、どうして結婚って話になるの!?」
「え? これってカルラちゃんがサクちゃんを男の子として意識しちゃったって話じゃないの~?」
「お友達の! 話って! 言ったんだよ!」
認めたくないからか、カルラは地団駄を踏む。
「でも、サクちゃんはいい子だと思うわよ~? カルラちゃんのことを大切にしてくれるし、頼りにもなるし、優しいもの~!」
「それは私が一番理解してるんだよ! でも、サクくんはあんまりデリカシーとかないし、すぐ「好き」って言ってくるし、たまに変態さんな時も―――」
「やっぱり、サクちゃんの話じゃない~」
「……ハッ!」
まんまと口車に乗せられてしまうカルラ。
マリアは「騙しやすい子で助かるわ~」と、笑みを浮かべながら失礼なことを思う。
「ようは、カルラちゃんはサクちゃんを意識し始めたかもってことよね~?」
「うぅ……!」
もう隠し切れないと思ってしまったからか、カルラは耳まで真っ赤にしてその場で蹲ってしまった。
「カルラちゃんの様子がおかしくなっちゃったのは、ソフィア様のパーティーが終わってからだし……じゃあ、カルラちゃんはその時に意識しちゃったのか~」
「…………」
「カルラちゃんはお父さんと一緒で剣一本だから、昔から頭のいい人が好きだったものね~! っていうことは、サクくんが
「うぅ~~~~~!!!」
どんどん掘り返され、
羞恥に羞恥が重なり、カルラは頭から湯気が出そうなほど朱に染まる。
そんな姿を、マリアは微笑ましい目で見ていた。
「ち、違うもんっ! 確かに、私はお母さんが言う通り頭のいい人が好きだけど—――たった一回勝っただけで惚れちゃうような安い女の子じゃないもん!」
「そうねぇ~、カルラちゃんはそんなに安い女の子じゃないものね~」
「そうなんだよ! だから私は別にサクくんのことは———」
「今までサクちゃんのいいところを見てきて、それから好きな一面を横で見せつけられちゃって好きになったから安い女じゃないものね~」
「~~~ッ!?」
どんどん追い打ちをかけられてしまうカルラ。
相談しに来たはずなのに、穴があったら入りたいという気持ちになってしまった。
そして———
『おじょー、ここにいるんですかー?』
不意に、入り口からそんな声が聞えてきた。
「ッ!?」
その声に、カルラは思わず肩を跳ねさせてしまう。
今、自分がどんな顔になっているか分からない。この熱しか感じられない顔のまま、話題に挙がったサクには会いたくない。
カルラは「入って来ないでっ!」と、頭の中で祈———
「入っていいわよ~」
「お母さん!?」
「んじゃ、失礼しまーす」
―――ろうとしたが、すぐさま母親の声によって遮られる。
マリアの顔を見ると、そこには子供らしいいたずらめいた笑みを浮かべていた。
「あれ、お嬢? なんか顔が赤くないっすか? も、もしかして―――風邪引いてるんじゃ!?」
「ひ、引いてないからぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
カルラは顔を隠したまま、物凄い勢いでサクの横を通り過ぎ寝室から出て行ってしまう。
出て行ってから「違うもぉぉぉぉぉぉぉん!!!」という叫びが廊下から響いてきた。
あんなに元気に動けるのであれば風邪ではない、それは理解したサク。
しかし―――
「マリア様、お嬢と何があったんですか?」
「ふふふ~♪ さて、なんでしょう~?」
楽しそうに笑い続けるマリア。
そんなマリアを見ながら、状況がいまいち呑み込めていないサクは首を傾げるのであった。
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