傍観する関係者
壇上に置かれた
その箱から薄くて淡い光が壇上奥の壁を照らしている。
淡い光は形となり、映像となり、いくつもの区切りを作って映し出していた。
壁に映るのは薔薇の花園。何人もの参加者の姿が忙しなく動いていた。
───現在パーティー会場。
「やはりソフィア様が勝つ」、「番狂わせが見たい」、「私も参加すればよかった」など。その話題は様々。
そんな中、会場の端、数脚並べらた椅子にロイスは時折映し出される娘の様子をワイン片手にジッと見守っていた。
「ここ、よろしいかな?」
ふと、ロイスの下に一人の青年が訪れた。
ミスリルのような銀髪を短く切り揃えた、笑顔がよく似合いそうな男。
そんな青年を見て、ロイスは立ち上がって会釈を一つする。
「カラー侯爵様ではありませんか。お久しぶりでございます」
「昔のように二コルとお呼びください。ロイス殿には剣を指南していただきましたし、師匠とも呼べる相手に畏まられるとむず痒いです」
「そうですか? では、二コル殿、と」
「もう少し砕いてもいいのですが……まぁ、いいでしょう」
どうぞ、と。ロイスは二コルを隣の椅子に促した。
「ザーラス殿はお元気ですか?」
「えぇ、父は元気にしていますよ。正式に家督を譲ったからか、今は母としょっちゅうバカンスです」
「ははっ、それはなによりでございますな!」
「元気すぎて困っていますよ。少しは息子を手伝ってくれればいいものを……」
二コルはため息を吐く。
しかし、露骨に嫌という雰囲気は感じられない。彼なりの冗談の一種だろう。
「それにしても、申し訳ございません。うちの妹が勝手に『決闘』などと」
「構いません、愚直に騙された娘に非がありますので」
「そう言っていただけると嬉しいですが、気が気ではないでしょう? 娘の人生を左右してしまうかもしれない余興ですから」
「ですが、それはそちらもでしょう? よろしいのですが、通行税の減額など」
「よろしくはありませんが……まぁ、正直な話をすれば一つの領地だけを減額するぐらいなら大した痛手ではありません。正直、ロイス殿の方が私よりも気が気ではないかと」
カラー侯爵家、現当主である二コル・カラー。
正式に家督を継ぎ、若くして侯爵家の地位を正式に継いだ者である。
過去に騎士であり当主であるロイスに剣の指南を受けていたことがあり、貴族社会では上下関係にあるものの、師弟関係だった相手。
そんな二コルが、ロイスに向けて申し訳ない顔をした。
「まぁ、正直に言うと気が気ではありませんよ。なにぶん、我が娘は私に似て剣一筋でしたから」
「……カルラ嬢はあまりこういう遊びは得意ではなさそうですからね」
「仰る通りです。それに、相手が『才女』とも呼ばれる二コル殿の妹となれば……」
ロイスも、カルラの実力は熟知している。
過去に一度も
このゲームに負けてしまえば、カルラは領地を離れソフィアの下に行かなくてはならない。
相手は『才女』と呼ばれるソフィア。貴族社会ではソフィアの噂は有名な話だ。
まだまだ甘やかせたいと思っていたロイスにとっては、あまり喜ばしいことではなかった。
「まぁ、ですが今回ばかりはなんとかなりそうです」
心配しているロイスの横で、二コルは呟く。
「私としても、勝手に始められた『決闘』には少々頭を悩ましておりまして。説教はしたのですが、ソフィアが楽しそうだったのですよ……よっぽど、ソフィア嬢を手に入れたかったのでしょうね」
「あの、二コル殿……なんとかなるというのは?」
「あぁ、そうですね―――このゲーム、どうやらうちの妹が負けそうです」
そう呟いた瞬間だった。
『きゃぁっ!』
『な、なんだ!?』
観戦していた貴族が悲鳴と驚きの声を上げた。
会場は一気にざわめき出し、楽しそうな団欒が一気に消える。
映像では一部だけが赤く染まる―――しかし、それも徐々に映像全ての花園を飲み込み、次第に真っ赤な光景しか映らなくなってしまった。
「こ、これは……ッ!?」
「へぇ……」
両者それぞれ違う反応。
ロイスは周囲の貴族と同じように驚き、二コルは感心したように頷く。
「やはり、このゲームにうちの妹の勝利はありませんね」
まるで、一人だけ現状を把握しているかのように呟く二コル。
そんな状況で―――
『サクくん、燃えてるよ? ほ、本当に燃やしちゃってもよかったの?』
『壊しても仮想空間だから問題ないんでしょう? だったら、問題ないですって。それより、さっさとソフィア様に会ってゲームを終わらせましょうよ』
映像に、一人の少女と一人の少年の姿が映る。
エメラルド色のドレスを身に纏い、そわそわしながら歩く金髪の少女。堂々と、焦りも見せず笑みを浮かべる燕尾服を着た少年。
他の参加者が突然燃え上がった火に戸惑い、動揺する中———ゆっくりと、屋敷に向かって歩いていた。
そして、その少年の手には薔薇の花束が。
一人だけ、勝利条件を満たすアイテムを手に―――
「ふぅ~ん……うちの妹が初めて土をつけられるのか。ソフィアは、それなりにできる女の子のはずなんだけど」
二コルは、その表情に笑みを浮かべ、
「……彼、何者なんだろうね」
瞳には新しい玩具を見つけた子供のような好奇心が映していた。
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