第25話◆地理――ユーラティア王国とその周辺諸国

「はい、今日はここユーラティア王国とその周辺国についての講義だよ。今日の教師は俺、アベルさんだよ。横の赤毛は助手のグラン、地図を指差す係」


「はーい、地図を指差す係のグランだよー! って、それいる!? この講義、助手いる?」


「地図を正しく覚えるための大事な仕事だから、居眠りしないで間違えないように説明している場所を指示棒で指してね」


「お、おう。まぁ、冒険者として活動するには町や国の場所、各地の気候や情勢は正確に覚えておいた方がいいな。町からあまり離れない生活なら必要ないが、これから君達は冒険者として活動をしてこれまでより行動範囲がずっと広まる人が多いだろうから、ギルドの売店にも売っている地図を一つ買っておくことをお勧めする」


「そうだね、詳細な地図は高いけど主要都市と主要な街道や大まかな地形がわかる程度の地図ならそんなに高くないから、一つ買ってどこに何があるかを把握しておく方が稼ぎの良い場所を探すのにも便利だね」


「確かに冒険者になったばかりだと、地図の値段はちょっと買うのを戸惑う値段かもしれない。だが、結果的に遠くの町や稼げる場所を知ることによって、地図の値段以上の儲けにもなるし、知らない場所に行く時は地図がある方が楽だし安全だ。今すぐじゃなくてもいいから、町から離れる時は財布と相談して地図を購入するといい」


「はい、それじゃ本題に入るよー。じゃ、黒板に貼ってある地図に注目! このでっかい大陸――ここのでっかい陸地の部分ね、この西側の半分以上がユーラティア王国で、そのユーラティアの西の方、ここが王都のロンブスブルク――俺達が今いる場所だね。大陸が横長だからユーラティアも横長なんだ。

 ここにでっかい川があるでしょ? ここを境にこの東側はシランドル王国っていう国で、ユーラティアとは長年の友好国なんだ。両国間には北の山脈から南の海に流れ込むでっかい川があって大型の魔物もいっぱい泳いでいるからね、川越戦が困難で歴史上でも仕掛けた側がほとんど負けていて、近年ではもう戦争は全く起こってないんだ。戦争のためにここに架けられている橋を落とすのは両国に不利益だしね。

 川の上流の方の国境なら侵入しやすいんじゃないかって? うん、確かに川の上流は陸続きになっているね。でもここにはすっごく険しい山脈があって、ランクの高い魔物がうじゃうじゃ、人がまともに踏み込めないような場所で、標高も高いから年中雪が残っている地域なんだ。うん、そんなとこを通り抜けて侵攻しても戦争に勝てる気がしないよね。

 そんなわけで東のシランドルとそこそこいい関係で、王族同士も何度も婚姻を結んでいるんだ」


「シランドルはユーラティアと似たような気候の地域が多い国だけど、ユーラティアよりやや南に長い形をしていてその辺りは一年を通し気温の高い地域なんだ。その辺りは大きな熱帯雨林があってすっげーやべー魔物もいる地域もあるから、もしその辺りにいったらうっかり迷い込まないように気を付けろよぉ。

 結構デコボコとした地形の国で、特殊な気候の場所も多いな。シランドルの中東央部にはサルサル塩原という広大な塩の平原が広がっていて、独自の生態系ができあがっているんだ。もちろんサルサル塩原固有の魔物もいるぞ」


「シランドルはユーラティアと気候も文化もあまり大きな違いはないし、言葉も少々訛りが違うくらいでほぼ同じなんだ。さすがにシランドルの東の端とか南の端の方に行くと、違いは大きくなるけど交流に困るってほどじゃないんだ。

 シランドルはユーラティアと同様に力のある大きな国だから、整った町や街道が多くて旅がしやすいんだ。俺達が今いるユーラティアの王都は国の西側だからシランドルまでは距離があるけど、安全で快適な旅がしたいならお勧めだよ」


「シランドルとユーラティアの国境付近は織物業が盛んだから、そっちに行く機会があったら布製品を色々と見て回ってみるといいぞお。見た目もいいし付与素材としても優秀なんだ。

 それからシランドルはユーラティアに比べて獣人が多くて、観光地として栄えている獣人の町や村もあるぞ。あの猛毒の蛇王バジリスク料理を食べることもできる場所もあるんだ。あ、でも普通のバジリスクの肉なんかを普通に食ったら即死レベルだから、間違ってもその辺のバジリスクを捕まえて食ったりすんなよ」


「バジリスクってAランクでも上の方の魔物だからね、そうそう捕まえて食べるもんじゃないと思うよ。バジリスクとやり合えるくらいの冒険者ならバジ毒のやばさも知っているから、食べようと思わないと思うよ。

 バジリスクは蛇の王と呼ばれる猛毒を持った八本足のトカゲの魔物なんだ。その体全ての部位に猛毒があって迂闊に触れると触れただけでも毒を貰うし、視線には石化効果があるっていうものすごくやっかいな敵なんだ。何も対策をしていなくて毒への耐性のない者なら、視界に入る距離にバジリスクがいるだけで毒で死んじゃうくらいなんだ」


「バジリスクの毒は強力な毒だが、バジリスク素材で専用の防毒装備が作れるし、バジリスクの血液から専用の解毒ポーションも作れるからバジリスクの出る場所に行く時は絶対にそれらを準備しておくんだぞ。ってバジリスクじゃなくて地理の講義では?」


「そーだよ、グランがバジリスクの話なんかするからー。バジリスク料理は美味しかったね、また食べに行こうね」


「お前だってバジリスク料理の話に釣られて話が逸れていってるじゃないか。地理の話に戻せよ」


「く……誰のせいだと……。シランドルの東の端から海を越えた先にはチリパーハという島国があるんだ。この国はすごく遠いからユーラティアとは国交はなくて、言葉も全然違うんだ。

 それからシランドルの南にはプゥストゥイーニアという国土の大半が砂漠の国があるんだ。この砂漠にはたくさんの資源やダンジョンが眠っているらしいけど、この国はちょっときな臭い国でね、周辺の小国によく侵略戦争を仕掛けているんだ。

 まぁユーラティアとは海経由での交易だし、シランドルとプゥストゥイーニアの間には険しい山脈があってこちらも海経由でしか行き来がされてないから、あまり仲のいい国ではないけどすぐにどうこうある国じゃないね。でも文化も言葉も全然違うし治安も良いとはいえない国でランクの高い魔物も多い地域だから、行くとしたらちゃんと下調べをして準備をしっかりした上で行くことをお勧めするよ。

 じゃあ次は今俺達がいるユーラティア王国の王都ロンブスブルクから比較的近い西側の小国群の話をするよー。こっち側はちょっと複雑だからねー、難しい話だからって寝たらダメだよーってグラン? 今寝てなかった? 立ったまま寝てなかった?」


「ふ? ふぇ? え? 起きてるよ? アベルの話が長いからって、そんなすぐ寝るわけないじゃないか~。で、次は何の話だっけ? 南の海の向こうにある魔族の国の話だっけ?」


「やっぱ寝てたでしょ! 次は西方諸国の話だよ!!」






・ここはユーラティア王国の王都ロンブスブルク

 ユーラティア王国のある大陸は東西に横長で、その西側の半分以上がユーラティア王国の領土。

 王都はその西部地方にある。


・ユーラティア王国の東はシランドル王国

 間には南北に大河が流れており、これが国境となっている。

 大型の水棲生物が多く棲息しており、これを越えて攻め入るのは困難。

 川の上流、ユーラティア東北の国境付近は険しい山脈があり、こちらも人の足で越えるのは困難。

 このような理由で長い間シランドルとの間に戦争はなく、王族同士も過去に何度も婚姻関係を結んでいる友好国。

 シランドルはユーラティアよりやや南に長く、南部地方は一年を通して気温が高い。この辺りには広大な熱帯雨林があり、ランクの高い魔物が棲息している。

 デコボコとした地形のため、特殊な環境の場所もある。その代表がサルサル塩原という塩の平原。

 また獣人の人口比率が高く、各地に獣人の町や村があり観光業も盛ん。バジリスク料理が食べられるところもある。

 シランドル西部は織物業が盛ん。


・シランドルから東の海を越えた先にチリパーハという島国。

 文化も言葉も全く違う国。ユーラティアとは国交がない。


・シランドルの南にプゥストゥイーニアという国土の大半が砂漠の国

 国土の大半が砂漠で活用できる土地が少なく、それを補うため周辺の小国を侵略することのある国。

 ユーラティアとは海を隔てており、友好国ではないがすぐに戦いなるような状況でもない。

 シランドルとプゥストゥイーニアの間には高い山脈があり、二国間の国交は海路で行われており、こちらも今のところ戦争になるような気配はない。


・バジリスク

 蛇の王と呼ばれる、八本足の猛毒持ちのトカゲ。

 毒やばい。

 皮から対バジ毒装備、血液からはバジ毒専用の解毒ポーションが作れる





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