第14話 何かの気配

「——ねぇピジー?」

「なに?」

「蓮人さんの家を出て、どこに行くの?」

「ただの暇つぶしだし。って言うか、あんたこそなんでついて来るの?」

「だって、ピジーが心配だったから」

「……あっそ」



 午後一時頃。少し身長の低い少女二人が、大きなビルなどが立ち並ぶ場所を平然と歩いていた。

 片方は少しピンク色の髪。もう片方は少し青っぽい色の髪。他人とすれ違うたびに、「なんだこの子……?」といった視線が向けられるが、二人はそんなことを気にせずに歩いていく。

 髪の色、端整な顔立ち、真っ白な肌——まさしくフランス人形のように奇麗であった。

 この二人は——妖精である。『妖精界』という場所からやってきた、人間ではない何か。この二人の目的は、自分の世界を怪物から守ること。

 だがしかし、妖精たちで何とかできるわけではなかった。そのため、『人間界』へやってきて、人間の力を借りて自分の世界を救おうというのが、二人の考えである。


「それにしても、人間界って平和だねー」

「さあ、それはどうかしら?」

「え?」

 フェアリーがなんとなしにそんなことを、隣で歩いているピジーに問いかけると、少し怖い目でそう言ってきた。

「そんなこと言ってる暇あるの?」

 歩みを止め、ピジーはフェアリーに詰め寄りそう言う。

「う……た、たしかにそう、だね。ごめん」

 フェアリーはそう謝り歩き出そうとする。

「……怪物が、この世界にいるかもしれないのに」

 フェアリーの腕をガシッと掴み、低い声でそう呟く。

「ご、ごめんって!……それよりさ!ぴ、ピジーはどこに行こうとしてるの?」

 掴んでいた手を優しくどけると、すぐに話題を変えようと必死になる。

「……お腹、空いた」

「あ、あぁ……」



「ふぅ……落ち着いた」

 対面に座っているピジーは、ハンバーグを食べていた。

「よ、良かったよ」

 フェアリーは少し冷や汗を垂らしながらそう言うと、自分の手元に視線を落とした。

 そして鼓動を落ち着かせるように深呼吸をすると、目の前にあるサラダを一口食べた。

「フェアリーはご飯食べなくていいの?」

「えっ、あ、うん。蓮人さんの家で食べてきたから」

「……いつも蓮人蓮人って、好きなの?」

「へ?……ち、違うよ!い、一応寝泊まりさせてもらってるわけだし、ね!?」

「……ふーん」

 疑いの目でハンバーグを食べながら見てくるピジー。

 フェアリーはぽっと赤くなった顔を隠すように、窓の外に視線を移した。

 

 数秒後。


「な……ッ!?」


 フェアリーの表情が、一瞬にして驚きへと変わった。

「なに、なんかあったの?」

 その表情がピジーにも見えていたのか、ハンバーグを食べ終え同じく窓の外を見てみる。

「?なにもないけど」

「う、嘘だ……ぜ、絶対にいたよ」

 恐怖のあまりジリジリと後ろに下がるフェアリー。

「だから何が?」

「黒い怪物だよ!」

「…………は?」

 その場で勢いよく立ち上がり、ピジーの顔に迫ってそう言ったフェアリー。

 対してピジーは、ポカーンとした表情を浮かべていた。

「…………っ」

 フェアリーはこれ以上言うのはやめて、ゆっくりと席に座り水を飲んだ。

「い、今のは……絶対、そうだ」

 と、フェアリーが不安のような、恐怖を感じているような顔をしながら、小声でそう呟いた。

「はぁ、美味しかった。ごちそうさま」

 顔を上げると、対面では満足そうに笑みをこぼしているピジーが。

「…………見間違えだ、うん。絶対、そうだ」

 自分にそう言い聞かせるよう、何度もつぶやきながら頭を横に振る。

「そ、そろそろ帰ろうよ。ね、ピジー?」

「あ、うん。じゃあ、お金は払ってね」

「は、はぁ!?な、なんで私が!?」

「いいからいいから、ほら行ってきて」

「…………」

 何も言い返せず、蓮人からもらっていたお金を会計の時に使ってしまった。

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