緋東結紀と異質のアリス⑥
気まずい空気が流れる中、遥日がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「ごめんね、お待たせ。……どうかした?」
「いや、なんでもないっす。
それより、俺はどうすればいいですか?」
「結紀くんのサポートを。
とりあえず、まずは……町の人に話しかけてみようか」
「マジっすか」
普通に話せばいいのかと頷いていると、力は有り得ねえと呟いて頭をかいていた。
変なことを言われた気がしなかったので結紀は、力の行動が不思議だった。
力の言葉の意味が分からなくて首を傾げていると、力がぽつりと呟いた。
「治療する時はアリス世界の住民に話しかけるなんてことしないんだよ。
そんなことしたら即存在がアリスにバレて終わる。
ほんとに有り得ねえ事なんだって」
アリスに存在が確認されたら危ないのは分かるが、結紀は前の世界で普通に話しかけている。
それでも結紀を捕まえるためにアリスは来なかった。
「……お前、なんで異質のアリスって呼ばれてるか自覚あるのか?」
「そういう名前としか……」
「はあーーーなるほど。
お前が如何にこの業界に不向きかわかったわ」
「よく分かんないんだけど」
ダメだこりゃと何度か言いながら力は結紀の肩を叩いた。
急に言われても結紀自身が何も分かっていないのに分かるはずがない。
力はため息をついたあと、なんも知らないんだもんなと呟いて話しを続けた。
「俺達にはそれぞれの能力に名称がある。
透は白うさぎ、俺はイカレ帽子屋。
大元の能力はそれに区分わけされていて、その中で特化する力とかが変わる」
力は近くにあった木の棒で砂の上に不思議の国と大きく書いた。
「例えば……透は白うさぎだからアリス世界と現実世界を繋げるんだけど、
それは白うさぎの能力を持つやつならみんな使える能力なんだよな」
うさぎの絵を描いてそれを丸で囲む。
丸で囲んだ所から線を伸ばして、移動距離、穴の距離と書いた。
「白うさぎから世界を繋げられる。
だけど、その能力は個々の強さによってまた変わる」
移動距離の下にアリスの傍と書いて、穴の距離にアリスの近くと書いた。
「例えば、一度世界を繋げたらアリスの傍から離れられなくてずっと繋げてなきゃダメだったり、アリス世界に繋げるドアはアリスの近くじゃなかったらダメだったりするやつも居る」
力の説明を聞いていて透のことを思い出した。
確か力は透はずっと穴を開けっ放しな訳じゃないと言っていた。
つまり同じ能力でもそれぞれで使い方が違うということなのだろう。
「つまり運動能力の違いみたいなもんだよ。
だけど、それを多少の違いで表せないようなやつもいる」
力はうさぎの絵からさらに線を伸ばして、特殊と書いた。
「白うさぎの中に、アリス世界を繋いだ瞬間にその中に居る人が全員分かる奴とか、
アリスが近くにいなくても好きな所で能力を使えるとか、そういう奴がいる。
そいつらは白うさぎの中でも特殊な白うさぎと呼ばれる」
力は結紀のことを一度見てから、更に外側に異質と書いた。
「異質は、その全てに当てはまらない能力のことだ。
遥日さん、白うさぎに異質って今まで居ましたっけ」
「……んーと、現実世界で好きな所に飛べる人が居たはずだよ。
文献で読んだ」
現実世界で好きに動けるのは憧れるが、白うさぎはアリス世界と現実世界を繋げる能力のはずだ。
そこまで行ってしまうともう一種の超能力ではないだろうかと思い至った所で、結紀は自分に異質とつけられているのが思い当たった。
一括りの能力からさらにはみ出したのが異質だとするのなら、結紀の能力はかなり特殊なものであると考えた。
答えを待つように力を見ると、力はゆっくり頷いて言葉を続ける。
「……不思議の国の能力は、アリス世界でしか使えない。
だから、現実世界で使える者や派生全てに当てはまらない者は異質と呼ばれる」
「え、でもおれは現実では使えないよ?」
思わずそう言ってしまえば力は呆れたように笑った。
「そもそもさあ、アリスなんて不思議の国はないんだよ。
アリスは治療される側の人間のことを指すんだ。
だから、お前の能力はそもそも派生全てに当てはまらない」
力は持っていた枝を捨てると、真剣な眼差しで言った。
「お前は全ての前例に当てはまらない。
だけど、出来ることは不思議の国と殆ど同じだ。
患者ではないのに、患者と類似する能力を持っている。
それを異質と言わずしてなんて呼ぶ?」
「……えーと、つまり。珍しいってこと?」
足元に書かれた絵を消しながら、珍しいどころじゃねえよとぽつりと呟いた。
アリスの能力とほとんど同じものを使えるのはきっと珍しいのだろうと思い言ったのだが、力からすれば珍しいで片付けられる問題では無いようだった。
「……あの男に目を付けられてもおかしくないんだよ、お前」
「あの男って?」
「
先程もその名前を聞いたが、結紀は会ったことがないのでどんな人物なのか分からない。
しかし、二人揃って同じ人物の名前が出てくるということはこの業界では王戸家の人間と言うだけではなく、相当警戒されるほどの人物なんだろうと思った。
「……大丈夫だよ。泉のことは僕に任せて」
「遥日さんがそう言うなら任せます」
渋々だけど、今は頷いておくという表情でそう言った力はそれきり何も言わなかった。
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