第40話 仲間だから

「はーっやっぱり俺だけじゃ勝てなかったか……」


いまだに頭が痛む中、よろよろと土俵から降りる。

俺とすれ違いに、マロンが土俵に上がった。


「くくく……ノーティスだってライトには勝てなかったんだ……

マロンなんて余裕だろ!」


向かいの席でラグロがそう言うのが聞こえる。

……馬鹿だねぇ。



「マロン!君なら勝てるよ。がんばれ! 」


(ノーティスは自分の言った通り、策に徹してくれた。

なら、私は私の役目を果たす! )

「……やってやるさ」


私はそう決意を固めて愛剣を見つめる。

……大丈夫。いつも通りだ。


「では両者前に……」

「ライトー!後一人だー!やってやれー!」

「……いくぞ」

「……うん、よろしく」


歯切れ悪く返事をしたライトは顔色が優れないように見える。

それはつまり、ノーティスの狙い通りになったという事だ。


「始め!」


「はああ!」

カンッ!


私は掛け声を挙げながら大剣を真っ直ぐに振り下ろす。

しかし、その一撃は彼のに握られた剣でガードされた。


「くっ……」

「どう……した……?」


さっきまでの彼なら私の攻撃を受けても、即座に切り返しただろう。

だが今の彼はそうしてこない。理由は分かっている。


(僕は今利き手じゃない、それに右足にも痛みで力が入らない。……まずいね)

「力が思うように入らないんだろう?」

(っ! 気づかれてる?)


心を見透かされた事に驚いたライトは一瞬だけ力が緩んだ、

マロンはもちろんその隙を見逃さずにより一層の力を大剣にこめる。


「きっと本来の私ならお前には勝てなかっただろうな……!

だが、今のお前になら勝てる! 彼はその為に策を貫いてくれたのだから」

(ああ、そうか。そういう事か)


ここでライトは自分がノーティスの術中に嵌っていた事に気づいたようだ。


(……今更気づいても遅いけど、確かに彼の立ち回りには違和感が多かった……)


「せいっ!やあっ!」

「ぐあっ!」


ライトはようやく押しきられ、三歩程後ずさった。

その後ずさりすら、右足の怪我のせいで不安定なものになって閉まっている。


「彼は……ノーティスは……お前を、

お前を倒す為だけに自分を捨て駒にしたんだ。その覚悟を無駄にはできない」


(僕を勝たせない為に……彼は捨て身で、後に響くような傷ばかり負わせにきてたんだな……致命傷になるような攻撃を全くして来なかったのはそういう事か)


「うおおおおぉ!」

カアン!

「うわっ!」


ふらついたライトにマロンは容赦なく追撃を入れる。

大剣の振り上げをライトはガードしようとしたが、

剣は大剣の一撃に耐え切れず吹き飛ばされた。


「終わりだ!」

ズバッ!

「ぐああああ!」

ドサッ!


そして無防備になったライトに大剣の横薙ぎがクリーンヒットする。

流石の彼も吹っ飛ばされて、仰向けに倒れた。


「……すまないな。次は全力のお前と勝負させてくれ」

「悔しいなぁ……僕の負け……いや、君達の勝ちって事か……」

「勝者!赤組!」



「うっそだろ!?ライトが負けた!?」


審判が俺達の勝利を告げ、最初に声を挙げたのはラグロだった。

彼はライトの負けを信じられないようだ。


「……そうだよ、ラグロ。次は君の番だ」


ライトはマロンに肩を貸されながら起き上がり、ラグロにそう言う。

……そう言えば向こうの大将はラグロなんだな。

最も彼に「大将」の名前が相応しい程の戦闘能力は無さそうだが。


「え……マジ……?」

「そうですよラグロさん。次は貴方ですよ」

「ちょっ、お前ら押すなって!」


無理矢理戦わされた恨みからか、

ラグロは仲間達に押されて無理やり土俵に上げられる。


「……うう、クソ……ライトが全員倒すはずだったのに……」


彼はぶつくさ呟きながら、へっぴり腰で剣を構えている。


「……では勝負……始め!」


一応戦う準備が出来たと判断されたのか、審判はすぐに試合開始の宣言をした。


「くっ……クソっ!」

カンッ。


ラグロが振り下ろした剣は難なくマロンが防ぐ。


「なんで……なんでお前らが勝ってるんだよ……おかしいだろこんなの……」

「……そうだな。お前の敗因はライトと仲間じゃ無かった事だ」

「は?」


未だに愚痴をこぼすラグロにマロンは諭すような口調でそう言う。


「お前はただライトの力に頼っていただけだ。そんなもの仲間とは言わない。

私達は仲間だ、互いに足りない部分で助けあい、協力した。

私達は二人だったから、たった一人で戦ったライトに勝てたんだよ」

「……仲間……」

キィン!


そこまで言ってマロンはラグロを大剣で押し返す。

みるみるうちにラグロは後ろに傾き、限界を迎えて弾かれたように後ずさり、

尻もちをついた。


「お前も大将なら覚悟を決める事だ……」

(クソっ……ライトなんて関係なく……俺はノーティスやセイラに

勝てる器じゃなかったって事か……)

「セイッ!」

ゴスッ!

「プゲッ」


脳天にマロンの大剣が振り下ろされて、

ラグロは妙な声を挙げてから白目を向いて倒れた。


「勝者!赤組!」


審判は俺達の勝利を告げる。

……ようやくだ、ようやく俺は奈緒と戦う資格を手に入れた。


「ありがとう!マロン!」

「ああ!」


功労者のマロンに礼を言う。

本当にありがとう。

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