第32話 個VS群

「はい!以上で大規模呪文詠唱を終わります!いやーまさか氷魔法などを駆使して四月に巨大雪だるまを召喚するとは驚きでした!絶対記事にします!」


カイの実況を時報代わりにしながら、念の為時計も確認する。

現在時刻は11:05を指していた。


「もうそろそろか……」


いよいよ、本当にいよいよクラス対抗戦本番が始まる。

対戦は↓の順番で、一戦ごとに三十〜四十分程かけられるルールだ。

一戦目、赤組VS青組

二戦目、赤組VS黄組

三戦目、青組VS黄組


「連戦だからな……だからこそ青組には絶対勝たなくちゃいけない」


立ち上がり、軽い準備運動をして気合いを入れながら俺は呟く。


「……いよいよだな、ノーティス」


屈伸をしていると、前方からマロンが声をかけてきた。

……よく見ると彼女の褐色の肌には鳥肌がたっている。

豪胆な彼女でも緊張しているようだ。


「そうだね。思えば君とはこの対抗戦で戦って貰うために声を掛けて知り合ったんだよね……」


あの時は打算的な思いが強かった。

だが、共に学園生活を歩む内に

いつの間にか彼女を親友として見ていた。

人との縁というのは分からないものだな。彼女を見ながらそう思う。


「ああ、そうだったな……だから、これからの戦いは私だけの戦いじゃない。

ノーティスの見立ては間違っていなかったと証明するための戦いでもある。

期待には応えよう」

「うん、切り込み隊長は任せた」


彼女にそう告げ、次に僕はクラスメンバー達を纏める為に声を挙げる。


「よし!皆整列!もう一回だけ隊列確認しようか!」

「「「おう!」」」



「三十分休憩も終わり、いよいよ次から本番です!えー……赤組の皆さんと青組の皆さんは前にどうぞ!私も赤組として参加するので実況は先生にバトンタッチです!」


校庭の東側で俺達赤組はマロンを一歩前に立たせ、槍兵に一列を組ませて先頭にし、その他を二列目三列目に置いた隊列を組んでいた。


カイの実況に従って前に進む。

校庭の中心に近づくに連れて青組の様子が分かるようになってきた。


……どうも纏まりが無いように見える。

列はぐちゃぐちゃでかろうじて形を保っているといった様子だし、魔法使いが前に出ているのに対して剣士が奥に引っ込んでいたりする。


「……向こうは勝つ気無さそうだな」


そう、誰が見てもそう判断したと思う。


「ノーティスさん。油断しちゃ駄目ですよ」

「うおっ!カイ、いつの間に合流してたんだよ」


突然背後からカイの声が聞こえて思わず驚きの声を挙げる。

いつの間にか実況席から赤組の列先頭まで来ていたようだ。


「で?油断ってなんだよ」

「ちょうど一週間程前に青組には転校生が来てるんですよ。

噂によるとその転校生は剣も魔法もハチャメチャに強いらしくて」

「いやいや……そんな都合良く最強の転校生が来るなんてある訳……」

「いや、ノーティス。カイの言う事はあながち間違いでは無さそうだぞ?」


真剣な声色でマロンがそう言う。


「本当に?」

「何かオーラのような……強い気配を感じる。

その転校生はただ者じゃ無さそうだ」

「……わかった、最大限警戒しよう」


俺たちの中で一番強いマロンがそう言うと説得力が出てくる。

どんでん返しだけは避けよう。


「えー……皆さん。カイさんから実況代わりました。

それではそろそろ始まりの時間なんでね、

リーダーはお互いに挨拶してください」


転校生の話題で話してる間に団体戦始まりの時間になっていたようだ。

俺が前に出ると太った身長160cmほどの茶髪の男が前に立った。

……こいつが青組のリーダー?あんまりリーダーらしさが無いような……


「ククク……よろしくお願いします」

「……ああ、よろしく」


手汗に塗れた手と握手を交わし、挨拶を終える。

すると彼はすぐに隊列の奥に去ろうとした。


「あれ?君は戦わないの?」

「ふ……見ての通り俺は戦いが苦手で……」


団体戦は制限時間いっぱいでより敵を倒したチームが勝ちというルールだが、

特殊ルールとしてリーダーが倒されたらその時点で敗北が決定する。

だから戦闘が不得手なリーダーが奥に引っ込むというのは正しいが……


(ほんとうにコイツらは大したこと無い相手なのか?不安になってきた)


俺は不穏な気配を感じつつも、赤組の列の先頭に立つ。


「えー……それでは……」


教師が開始の声を挙げるのをその場に居た全員が今か今かと待ち、身構える。


「始め!」

「うぉぉおおおおお!」


開始の号令が挙がり、

青組の血気盛んな連中が雄叫びをあげながら、闘牛の牛のように突撃してくる。


「槍兵の皆!前に出て!」

「おう!」


すかさず俺は槍兵達に命令を出す。

俺の声に従った彼らにより、突撃してきた青組のメンバーは行く手を阻まれる。


「うおっ、槍はずりーだろ!剣が届かねぇ!」

「うるせぇ!リーダーの作戦だよ!」


そこかしこで槍VS剣の一対一が発生し、混戦に近い状態になる。


「……炎の魔力よ……えーい!」

「うわあ熱い!」


そして槍VS剣に後方からの魔法が割り込み、早々に戦いの決着が着いていく。

青組の数が半分程になった辺りで俺は叫ぶ。


「マロン!俺達は大将狙いだ!」

「ああ!」

「あの……私は?」

「カイは……まあ、好きにやってて!」


カイを置き去りにして、マロンと共に敵軍の間を縫うように突き進む。


「大将首貰ったぁ!」

「邪魔だ!」

バコン!

「ぐわあ!」


道中何度か俺狙いの青組に襲われたが、

その度にマロンが大剣を振るって吹き飛ばしていく。

おかげで特に苦労も無く、敵軍の最奥に突き進む。


「よぉ。青組リーダーさん……もう決着がつきそうだな」

「……ちっ。さすがといった所かな……」

「どうした?もう降参か?」


「ああ、そうかもな……そもそも俺達青組は商人の集まりでこんな対抗戦に参加させられる事自体が既に間違いでありだからこの結果はある意味当然というべきで問題なのはこの学園の教育方針そのものであり、だから俺達はそもそも」


「な、なんだ?急に長々と……?」

「……?……!ノーティス!危ない!」

ガキン!


と、木剣を使っているはずなのに金属のような激しい音が俺の背後から響いた。

何ごとかと振り返ると、マロンが何処からか現れた銀髪の男と鍔迫り合いの形になっていた。


「……時間稼ぎありがとう、ラグロ」

「終わったか。お前にしては遅かったな」


終わった?そう聞こえて、戦場を見渡す。


青組のメンバーはほとんど倒れている。

だが、倒れているのは赤組も同じだった。

彼が、一人で全員倒したのか?


「残念だったなぁ……ノーティス。俺達はライトさえいれば勝てるんだよ!」


……ライト?それって。まさか。

もう一度、俺を襲った男の容姿を確認する。

それは紛れもなく「ユートピア」の男主人公だった。

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