第23話 継いだ思い

……記憶を逆再生するように、俺は一から思い出して、奈緒に語る。


「……俺達の父親は生まれた時から

『お坊ちゃん』と呼ばれるような人間だった。


父さんの父親……つまり俺達の祖父は結構有名な飲食会社の社長で、

自分が立ち上げた会社を息子に継がせようとしたらしい。


その結果、父さんは人を道具として扱うような方法を小さい頃からずっと

叩き込まれ続けた。英才教育って奴だな……。


でも、父さんは爺さんの教えにずっと疑問を持ってたらしい。

『人には人の人生があるのに、それを好き勝手に操ろうなんて我儘だ』


そう言って、父さんは地方から上京してた彼女……

俺達の母さんと駆け落ちした。


母さんの故郷近くに引っ越して、色々苦労もあったけど幸せにやってたらしい。


ところが、爺さんはそれを許さなかった、

日本全国を自ら飛び回って、父さんを探し始めたんだ。


その噂を聞いた父さん達はもちろん焦ったよ。

当時、母さんのお腹には俺が居たから無理な行動は出来なかった。


で、結局どうなったと思う?」


俺はここで奈緒に問いかける。


「どうって……普通に考えれば爺ちゃんが父さんを見つけたんじゃないの?」


俺は首を横に振って否定する。


「爺さんは死んだんだよ、どこかの町を歩いていた時に後ろから刺された。

犯人は爺さんの会社で精神を病んで辞めた何十人かの内の一人だったらしい。


当然、その事件のニュースが流れた時、父さんは驚いたそうだ。

でも何処かで納得もしていた。


『他人を傷つけるような人生送ってるといつか必ず返ってくる』


そう悟って、父さんは俺にこの話をしたんだよ。


自分の息子に、他人を傷つけて、最後には全てが返ってくる

不幸な散り方をする人生を送って欲しく無かったから


そして今は、俺がお前にそう言う人生を送って欲しく無いからこの話をした」


奈緒は納得しているのか、していないのかよく分からない顔をしている。


「さっきのイロウだってそうだろ?他人を奴隷みたいに扱ってたら、

たまたま俺がアイツ本人を追い詰めて、たまたまアイツの奥の手を

奈緒が潰すなんていう奇跡みたいな破滅が起きた。


もし、アイツが他人を尊重する生き方をしてれば

そんな奇跡は起きなかっただろうに」

「……」

「俺は、奈緒にそんな人生を送って欲しく無いから止めようとしてる」


……カロー親子に倣って自分の考え全てを正直に伝えてみたが、

何か変えられたのだろうか。


「……お兄ちゃんの言う事はある程度分かるよ。

でも、今この場で結論は出せない、

私の『何をしようと幸せになる』って言う決意はそんな軽くないから」

「……分かった、じゃあ結論が出たら言ってくれよ。

お前の考えが変わらなかったとしても、俺はまた別の方法で説得してやる」


……これ以上この場で出来る事は無さそうだ。

そう判断して俺はその場を離れようとする。


「……待って」

「なに?」

「今度のクラス対抗戦の決勝。それまでには結論を出す」

「……ふっ。分かった、楽しみに待ってるよ」


ノーティスがその場から去っても、

セイラは立ち止まったまま何か考え続けている。


(……お兄ちゃんの考えが分かった気がする、でも私の決意は……)


悩んでいると何か胸元に違和感を感じる。

何かと思って、手で探ると自分の書いた手紙が出てきた。


「……あ、もう関わらないでって書いた手紙……渡しそびれた」


手紙を読み返すと、あの兄妹の兄……カキの言葉が思い出される。


『僕にとってあいつはたった一人の兄妹で片割れみたいな存在なんです』


私の兄も同じような思いなら、関わるなと言っても無理な話なのかもしれない。

そう思ったら手紙の内容が馬鹿らしくなってきて、気づくと手紙を

ビリビリに破いていた。


ヒュー……ピラピラ……


手紙の破片は、風に乗ってどこかに消えていく。

初めから無かったように。


初めから無かったように消えたのはセイラの思いも同じだ。


(……対抗戦で待っててね、私なりの答えを出して向き合うから)



人から人へ受け継がれる思いは美しい。


やっと兄妹のすれ違いも解けてきて第三章完!

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