第15話 兄妹の会話

再び生徒会室前までやってきた、行く手を阻む門番エリトはもう居ない。

奈緒に会えるはずだ。


コンコンコン。

乾いた音だけが廊下に響く、反応は無い。


「……うーん?」


扉に耳を当ててみると、僅かだが椅子の軋む音など人の気配は感じられる。

無視されているのか……


そうは言ってもこのまま何もせずに帰る訳にはいかない。

あ、そうだ。


「確か持ってたはず……お、あったあった」


俺が取り出したのは生徒手帳、そのメモ用ページを一枚破り、ペンを取る。

これに俺の言いたい事を書いて扉の下から差し込めば、

読んでもらえるかもしれない。


「さて……何を書く?」


言いたい事は色々有る。謝罪、説得、雑談、本当に色々と浮かぶが、

まず言うべき事を言おうと思った。


(前世でお前が考えてる事とか苦しんでる事に気づけなくてごめん。

俺らの両親の事とか色々と落ち着いて話したい事はあるけど、

一つだけ言わせて欲しい。

お前が何をしようと、お前が望んでくれたら俺は味方になる)


「読んでくれよ」


余白までフルに使った用紙をドアの隙間から差し込む。

しばらく待ったが押し返されては来ない。


受け取ってくれたと信じて、その場を後にした。



何回か、来客が有った。

しかし私は全て無視した、誰かと話せる気分じゃない。


さっきから兄の事で頭が一杯なのだ。

私の見立てなら兄が勝つ事なんて有り得なかった。


能力はエリトの方が高かったし、喧嘩なんて一度もした事の無い兄がああまで迷い無く剣を振れるなんて思って無かった。


何よりも、エリトは卑怯な真似を平気でできる男だった。

実力が拮抗していたとしても何でも出来るエリトの方が強かったはずだ。


(真っ当に生きる方が馬鹿を見る)


心の中に根付いた考えにヒビが入ってしまった。

そしてそのヒビは迷いを生んでいく。


(私は……間違ってるの?)


そう思った時、三回のノックが聞こえた。

思わず息を潜める。

しばらくそうしていると、ドアの隙間から何かが入ってきた。

あれは……紙?


ノックの主が去っていく音を聞いてから、紙を回収する。

それは兄からの手紙だった。

捨てようとも思ったが、結局迷ってる内に読み終わってしまう。


「なんで……?」


内容は謝罪と……これは、何だ?

前世の事について謝るのは共感は出来ないが理解はできる。

お人好しな兄がそう言うのは納得だ。


だが、味方?……味方って何だろう。


「私の味方なんて必要無いのに、やろうとすれば私一人でも戦えるんだから」


気づくとペンを手に取り、返事を書いていた。


(貴方は優しいし、善良な人です。

私に関わらなくても貴方は生きていけるはずです。

だから、私なんかに構わないで下さい)


前に街で怒鳴り合いにをした時にも感じた、

正体不明の感情が強くなっているのをセイラは感じていた。


その感情は一般的には家族愛と言う。



次回から日常回に見せかけたストーリー回。

セイラに「違う、そうじゃ無い」と思った人は

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