第6話 失意の底で

「はあ……はあ……」


身体の痺れがようやく取れてきてゆっくりと立ち上がる。


「一旦帰ろう……」


前を見上げると、もう奈緒の姿は見えなかった。



学園に戻ったが授業を受けられる気分ではなかったので早退し、部屋のベットに倒れ込む。


「……俺は何をしていたんだろう」


最後に別れを告げられた時の奈緒の冷たい表情が頭から離れない、

妹にあんな顔をさせてしまった罪悪感やらショックやらで心が潰れそうだ。


『約立たずのお兄ちゃん』

「ははっ……そう思われてたのに気づけないから役立たずなんだろうな……」


結局、俺は妹を守る事も止める事も出来なかった。

役立たずの俺は何も出来ず、逃げるように眠りにつく……



「……あ、今何時だ?」


目を覚ますと部屋に朝の光が差し込んでいる。

時計を確認すると次の日、殆ど丸一日寝込んでいたようだ。


「学校は……そういや休みか」


幸いにも休日だったので無断欠席にはならない。

起き上がる気力も無く、休みをいい事にダラダラと寝続ける。


………………そしてどのくらいの時間が過ぎたのか、眠り過ぎで頭痛がする。


水の一杯でも飲もうとようやく俺はベットから立ち上がり部屋を出た。


「頭痛ェ……」


動かさなかった肉体が悲鳴をあげているのに対し、精神は過敏に目覚めており

周囲の会話等が良く聞こえる。


「なあ、知ってるか?今度の学内対抗戦の話」

「ああ、知ってる。セイラ・リドゥーが黄色組のリーダーになったんだろ?」

「!」


セイラ……奈緒の事が噂になってるのか?

そう思った時、俺は既に話を聞きに声をかけていた。


「おい、セイラがどうしたんだ?」


「ん?お前は……ああ、ノーティスか。いやね、今度の学内対抗戦の話は分かるだろ?」


「もちろん。平民達の赤組、商人達の青組、そして貴族の黄組に分かれた

戦争を模した団体戦……目玉は組のリーダー達による1体1の決戦」


「その通り、それじゃ組のリーダーの決め方は分かるよな?」


「赤組は立候補と投票、青組は授業内の模擬商売で最も儲けた者、

黄組は実家が一番立派な奴がリーダーになる」


「それなんだよ、普通なら黄組のリーダーが変わるなんて有り得ないんだよ。

家柄で決めてるんだから」


「でも……それをセイラは乗っ取った」


「ああ、前リーダーのエリトが退したから後釜として座ったらしいんだけどよ……なんか怪しくね?卑怯な手でも使って、エリトを無理矢理降ろしたんじゃないかって噂も有るくらいだ」


確かゲームではエリトが黄組のトップで、

セイラはその中の一人に過ぎなかった。


本来なら、赤組のトップを急遽務める事になった

主人公がセイラを返り討ちにするのだが……


「そういや、今年の赤組リーダーって誰だっけ?」


「まだ決まって無いな、なんせ今年は青組も黄組も強烈らしいから……

誰も負け戦の大将はやりたく無いんだよ」


「そうか、ありがとう」


そう言って俺はその場を立ち去った。



「……」


食堂で一杯の水を飲んで落ち着く。


改めて周囲の聞き耳をたてると皆が皆、

セイラのリーダー乗っ取りの話題で持ち切りだ。


もう俺の知るゲームの世界とは大きく変わっていて、

これからどうなるのか知る事は出来ない。


だが、想像はできる。あいつは『何をやっても幸せになる』と言っていたから。


「セイラさんはエリトさんを脅して辞退させたって聞きましたよ〜」


「え〜私は決闘でエリトさんを叩きのめして辞退させたって聞きましけど」


真偽の分からない噂が飛び交う、いつもの俺なら無視していただろう。


しかし、この噂が自分の妹にまつわるものなら話が変わる。


聞きたくもない悪い噂が次から次へと耳に飛び込む。


「奈緒が悪の道を走るのを黙って見ているのか?俺は?」


そうだ、そんな事をしてていいわけが無い。

俺がこの世界ですべき事が理解できた。


「待ってろよ、奈緒!」


俺は赤組リーダーに立候補するために職員室へと足を向かわせていた。



次回、ようやく主人公覚醒。

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