第4話 干渉者

「…………」

「ヒューヒュー♪」


学園都市ユートピアは様々な施設が集まっているものの、区画はキレイに

整理されているため人の死角になるような場所は殆ど無い。


しかし彼……ジャイクスは鈍い男のようで僕につけられていることに全く

気づいていない。さすが知力ステータス7(最低値)の男……


「いよお、待たせたな!」

「!」


ジャイクスがそう言って足を止めたのは中央広場だった。


ここはほぼ全ての場所に繋がっているうえに噴水という目立つ目印もあるので

普段なら人で溢れている場所だ。


ただ、今は授業中だからかジャイクスともう一人の女しか人は存在しない。


「……」(ニコッ)

「おう!早くいこうぜ!」


(クソッ……遠すぎて女が誰なのか

分からないし声もジャイクスのしか聞こえない)


目を凝らしていると二人は足ばやに何処かに向かっていった。

俺も最低限見失わない程度に後ろをついていく。


「……」

「おう、そうだろ?俺様のパワーは学園一だからな!」


ジャイクスはずいぶん上機嫌な様子で一見普通のデートにしか見えない。


帰るか……そう考えた時二人は公園で立ち止まり、ベンチに腰掛ける。

そして女の姿をハッキリと視認することができた。


(……?あんな奴いたか?)


女はラベンダーのような紫のショートカットで、

服装は学園指定の黄を基調としたセーラー服。


これだけ見れば普通の生徒に見える、おかしいのは彼女は俺が

知らない人間という事だ。


「ははは!セイラが喜んでくれて良かったよ」


(……!まさか、悪役令嬢のセイラか?)


あの髪色が当てはまる人間は作中で一人、悪役令嬢セイラだ。


彼女は主人公が最初に倒す一章のボスで我儘にして粗暴、

気に入らない事があるとすぐに親の権力を振りかざすロクデナシで主人公に因縁

をつけた挙句返り討ちにあい失脚する……


というキャラのはずなのだが、視界にうつる彼女は髪型など違う点が多すぎる。


「あんな道端の木を切り倒すのなんか朝飯前だぜ!」

「ふふ、ほんとうにありがとう」


……木を倒すと聞いて思い浮かぶのは今朝の話だ。

主人公が住んでいる村に続く道が倒木で塞がっていた。


セイラが指示して……?確かに主人公が来なければセイラは破滅しないだろう。

だが、そんな事を先読みした行動なんて俺のように未来を知ってないと……


「……」

「……あ」


ふと顔をあげると、彼女はいつの間にかこちらに顔を向けている、目が合った。


「ジャイクスさん、私ちょっと予定を思い出しました。先に学園に戻っててくれませんか?」


「おう!またデートしようぜ!」


「もちろん」


ジャイクスは去っていく、そしてセイラはこちらに向かってくる。


「どうもこんにちは。貴方は確か……シャドウ・ノーティスさん

でしたね?先程から私達をつけていたようですが何の用でしょう?」


(……全部お見通しって感じだな)


落ち着いた口調で語りかけてくるものの滲み出る圧力に気圧され、

乾いた舌を何とか回す。


「ああ、少し聞きたい事があってね……」


「聞きたいこと……」


「君、君がトーシャ村への道を倒木で塞いだ犯人なのか?」


「……でしたら、何か?」


「やっぱお前がやったんだな。なんでそんな事を?」


「それを話す義理は私に有りませんよ?逆にお聞きしますが……なぜ貴方は私にそんな事を聞くのですか?貴方にはトーシャ村の道を塞がれたく無い理由が有るように見えませんが……」


まずい、こいつの言う通り俺には彼女の行動を咎めるまっとうな理由が無い。


まさか転校生が来たらお前にとって邪魔になるから

なんてゲームの事を言う訳にはいかないし……。


考えあぐねて何も言えないまま時間が過ぎていく。


「ふふ、あはは!」

「!?」


返答に困っていると突然セイラが笑いだす。

なぜ笑っているのか分からず、余計に混乱していく。


「最初はちょっとビックリしたけどさ……今気づいたよ、貴方の正体」


「え?」


「私があの転校生に来られると困ると分かるのは、この世界の未来を知ってる人だけ……?そうでしょ?」


(その通りだ……やはりコイツはこの世界の事を知っている)


「その考えてる時に前髪を弄る癖、見た目が変わっても中身は

変わらないんだね」


「!」


左手を見ると、確かに俺は無意識の内に前髪を手で弄っていた。

だけど、その癖はシャドウ・ノーティスのものでは無い、俺……生野不諦の物だ。

それを知ってるコイツは、まさか。


「ようやく気づいた?!」


そう言って彼女は右頬だけを上げて笑う、その特徴的な笑い方。

忘れるはずが無い。


「お前、奈緒か?」


その癖は、俺が最期に庇ったはずの妹、生野奈緒しょうの なおのものだった。

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