骸骨魔導士の下克上~ダンジョンの最下層で追放され骸骨モンスターに転生した魔導士は、婚約破棄の為に追放された聖女と大魔導士へと成り上がる〜

月下文庫(ゲッカブンコ)

1章 追放された『魔導士』、骸骨に転生する

第1話 なんで俺、意識が残ってるんだ?

 高難度ダンジョン『ヴィステリア』。

 そんなダンジョンに新たな魔物が生まれていた。


 何のことは無い冒険者の死体が腐り骨となった後に魔物へと変わっただけだ。


 ボーンキャスター。

 生前に『魔導士(キャスター)』だった者の未練が体に宿り、死して骨となった後にダンジョン内を徘徊する……よくある話だ。


 ただし、あくまでも未練が宿っているだけに過ぎず、知能など無く、力も大した事は無い。


 あくまでも大量に相手をすれば面倒であるという事を除けば、例え下位の冒険者であっても負ける事は無いだろう。


 しかし、ボーン系のモンスターの増殖は高難度ダンジョンであればあるほど後を絶たない。何故なら、それだけダンジョン内で死ぬ者が多く、そこで死んだ者達がボーン系へと変貌してしまうからだ。


 そして、この高難度ダンジョン『ヴィステリア』でのその数は計り知れない。

 だからこそ、ボーン系が一匹増えたところで何も変わりはないのだが―そんな中で、異様とも言える存在が居た。


「―いい加減、この姿にも慣れてきたな」


 そう言うと、ボーンキャスターは自分の手を見ながらボーン系らしからぬ自然な動作で顎をさする。


 周囲で徘徊しているボーン系の魔物達は冒険者が来るまでは体をフラフラとさせているだけに過ぎず、このボーンキャスターのように人間的な行動を起こす事はない。


 そんな他の魔物達へ目を向けたボーンキャスターは壁に腰掛けたまま、出るはずのないため息を出すように肩を落とした。


「いやはや、一時は完全に死を覚悟したが……人間、いざという時は何とかなるもんだ」


 そうして、そのボーンキャスターは自分が死ぬ直前の事に思いを馳せる。

 半年前、彼は完全に死んだ―はずだった。

 だが、人として死んだはずの彼はあまりにも魔力が多過ぎた為、死んだ後にボーン系へと変わった後も意識を失う事はなかったのだ。


 彼の名はクラディス。

 半年前、パーティのリーダーに裏切られ、この高難度ダンジョン『ヴィステリア』に置き去りにされた『魔導士(キャスター)』だった。





(―ああ、俺は死ぬのか)


 自分を襲おうとしてきたモンスター達を全滅させ、仰向けになったクラディスは心の中で死を覚悟していた。


 ここへ落とされてから数日。

 体を動かす事も出来ず、飲み物や食べ物を入手する手段も力も―もう彼には残っていなかった。


(……最後くらい、好き放題魔法を撃てたし……まあ、ロクな人生じゃなかったが、俺には良い最後かもな)


 それを最後に、彼は意識を失い―しかし、それからしばらくして彼は不思議な感覚に見舞われた。


(……そういえば、死んだ人間はダンジョン内で未練がましくボーン系になっていくんだったな。俺には大した未練もないが……俺もボーン系に転生して魂は別のところにでも行くのか……)


 体を好き勝手に動かされるのは嫌だが、死んだ後はどうでも良いだろう。

 そうして、まるで揺り籠に揺すられるようにして体を預けるが―


「―あれ? なんで俺、意識が残ってるんだ……?」


 次に目を覚ました時、クラディスはボーン系の姿のまま驚いたようにそう口にしたのだった。

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