第5話 こ、これは奇跡の力じゃないですか!
私がじゃがいもを切る動きに合わせて、文字表示にしてもらった、れべる? というものの数値がどんどん上がっていく。
すぐさま、間を置かずに次のレベルに上がった。
『ぱぱぱぱーん。おめでとうございます。またスキルポイントが1増えましたよ。次は何にしましょう。おすすめは《浄化》ですが、スキルポイントが3必要になるので今はまだとれません。ポイントを貯めてもいいですが、新しいものを取るのもおすすめです』
「そうなんですね。なら……」
私は目をつぶった。
ポイントを貯めて《浄化》をとるのもいいけれど、その前にずっと気になっていたスキルがあるのだ。
「次は《塩生成》をとってもいいですか?」
『わかりました。あなたに《塩生成》を授けましょう』
パァァッと、今度は《塩生成》の銀貨が光る。
『これであなたは、塩を作れるようになりました。試しに、そこに落ちている石を拾ってごらんなさい』
「えっ。石……!?」
どうやって作るのかずっと気になっていたんだけれど、まさか石を持ってこいと言われるなんて。
怪訝に思いながらも、私は近くに落ちている卵大ほどの石をひとつ手にとった。
「あのう……これをどうすれば……?」
『それをまな板にのせ、わたくしを使って切るのです』
「リディルさんで石を? 刃が欠けてしまいませんか!?」
『何を言うのです。わたくしがたかだか石などに負けるはずがありません。金剛石だって切れますとも。さぁ、切るのですララ』
「は、はい!」
私は急いで、まな板に石を載せた。それからごくりと唾を呑んで、言われた通り石にスッと包丁を走らせる。
すると――。
「わわっ!? じゃがいもを切るよりも簡単に切れる!」
てっきりガツンという嫌な手ごたえが帰ってくるかと思いきや、石はじゃがいものようにサクサクと切れてしまったのだ。
しかも刃に触れた灰色の石が、瞬く間に白い物体へと姿を変えていく。見間違えでなければ、これはやたら綺麗な岩塩だ!
試しに少し手にとって舐めてみると……うん、やっぱり塩!
「す、すごい……!!! 石が塩に変わっちゃった……! 奇跡だ……!」
私、今日は「すごい」しか言っていない気がする。でも本当にすごい! だってこの力があれば、一生塩に困らないんだよ!? それに、他にも「砂糖生成」があるってことは……!
私はごくりと唾を呑んだ。それから、ふとあることを思い出す。
「あっ、そうだ。これだけ塩があるなら、もしかして……」
ふとあることに思い至って、私は顔を上げた。
それからベアウルフの血抜きをしているラルスさんのところに向かう。
「っかしいっスね。なんでこのベアウルフだけこんな変な切れ方しているんスかね――」
「あの、ラルスさん、ちょっといいですか?」
私が声をかけると、ベアウルフを解体中のラルスさんがぎょっとしたようにこっちを向く。
「どうしたんスか、ララさん。今解体しているところなんで、女性にはちょっと刺激が強い光景かもしれないスよ」
「大丈夫です。動物をさばくのはキラーラビットでよくやりましたから、ベアウルフも全然平気です!」
「え。ララさん、キラーラビットさばいていたんスか? 強いスね……」
ラルスさんにちょっと引かれた。
でも、そういう反応は慣れているから大丈夫!
実家にいた頃も「男爵令嬢が狂暴なキラーラビットを捕まえてさばくんですか!?」ってよく驚かれていたもの。
それよりも……。
「あのう、ベアウルフの肉って、そんなに臭いんですか? 私、食べたことないんです」
私が興味津々で聞くと、ラルスさんが「ああ」と呟いた。
「とにかく臭いっスね。……もし平気なら、嗅いでみまスか? 血抜きしたのにこれっスよ」
言いながら、水で洗ったらしい一枚の分厚い肉をべろんと差し出す。
とたんに、まだ顔を近づけてもいないのに、ムッとする強烈な獣の臭いが鼻腔をついた。
ううん、これは確かに……臭い!
念のため鑑定してみたけれど、『ベアウルフの肉:正常。日持ち残り二時間』と書いてあって、やっぱり痛んでいるわけではなさそうだ。
眉間にぎゅっと皺を寄せた私を見ながら、ラルスさんが言う。
「一応ローリエとかっていうハーブが、臭み消しの効果があると聞いて使ってみたこともあるんスけど……それぐらいじゃ全然臭い消えなかったっスね」
「タイムや、他のハーブはどうでしたか?」
「さあ、その辺りは……。自分、他の人よりは器用なのを買われて炊事係を押し付けられ……じゃない、やっているっスけど、正直あんまり詳しくはわかんないっス」
どうやらラルスさんの本業は騎士の方で、専門の料理人というわけではないらしい。
それを聞いた私は、ある提案をした。
「なら……ラルスさん。このベアウルフのお肉、ちょっと私に任せてみてもらえませんか?」
「ララさんにっスか? 構いませんけど」
「ありがとうございます!」
私は腕まくりをすると、早速リディルさんを握って、強烈な異臭を放つベアウルフ肉を見つめた。
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