02 境界線は死活問題だ

 昔、戦国時代と呼ばれていた時代があった。この民話はその時に起こった出来事が書かれてあるという。


 当時、まだこの一帯は自然豊かで、人々は町というよりは集落と呼べるほどの小さな集団の中で暮らしていた。

 普段はそこそこ仲の良い集落同士だが、山仕事の活動範囲に関しては時々いさかいが起きていた。


 そこで、付近の山の活動範囲を杭で区切って決めてしまい、豊作不作に関わらずその範囲内でのみ山仕事をすることになった。

 当然、今年はあちらの集落の方が山菜がよく取れるとか、木の生育がいいとか、そういう妬みもあったが、集落同士の表立った喧嘩は回避できた。


 さて、とある集落に木こりのげんという男がいた。区切られた活動範囲で山仕事にいそしむベテランであった。当時の平均寿命を越え、六十となっても足腰がしっかりしており、生涯働き続けるぞと笑う豪傑であった。


 ある日、源はいつものように山に入ろうとした。

 が、違和に気づいた。

 活動範囲を示す杭がこちら側にずれているのではないかと感じたのだ。


 いや、思い違いかもしれない。このところ近隣でいくさが始まるのではという噂もあり、生活に少し不安を感じているからだと自分に言い聞かせた。


 だが日に日に思い違いではないと感じるようになった。

 そこで彼は杭の近くの木にこっそりと印をつけた。

 数日後、印の奥にあったはずの杭が手前に移動している。

 これは隣の集落の仕業だと確信した源は、集落の長に話を持ち込み、隣の集落との話し合いとなった。


 隣の集落から話し合いに参加したのは長と、源と年の変わらぬ婆であった。

 婆の顔つきは険しく、眼光は見る者を射抜くほどの鋭さを持っている。


「……おぬしが、死婆しばぁ


 源は低くうなった。




「何その怖い名前っ!」


 息子の驚きっぷりに父親はうんうんとうなずいた。


「それまではよくある教訓につなげる昔話みたいな感じなのかなぁと思って読んでたんだけど、父さんもその一言で面白そうだって思ったんだ」


 それで話し合いはどうなったのだと目を輝かせる息子の期待に応えるように父親は話を続ける。

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