15話 溶き油

囁き


声にならない聲


喉の奥で生まれる甘い呻き



君のあせばんだ曲線を

ぼくの指が辿っていく


少し目を細めてみる


上弦の仄かな灯りが

ぼくを窓辺へといざな


洋上のグランドピアノ

君がかなでる 小夜曲ナハトムジーク


波打つ欲望よくが音となり

互いの身体に流れ込む


そうして

いつの間にか言葉は姿を消し

溜息となった呼吸を繰り返す



ぼくは君だろうか……


躰の中の感情たちが

次から次と熱を帯び色彩の中に融けていく


君はぼくだろうか……


貌も分からぬほどに

濡れた吐息に耳を澄ませながら瞳を閉じる



そうやってぼくたちはゆっくりと


互いの温もりの中に堕ちていった



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