10話 三日月

メールの着信音に揺り起こされた。


海風オンショアが運ぶ、ほんのり湿り気のある潮のかほりに絆されて、知らぬ間に眠ってしまったんだな。

そうだ、書きかけの一文に迷っていたんだっけ。ここの情景描写が少しばかり重いと。

窓越しの三日月のように、げる言葉はないものかと。


まあそれはいい、今はいい。

兎にも角くにも君からの便りに心が逸る。



『素敵な言葉が嬉しくて、いつも楽しみにしているんですよ』


なんと…………

にやけてしまった。


「脳裏になぜだかね、あのきゅうを背もたれに、のんびりと、天の川に釣糸を垂れるぼくの姿が浮かぶんだ。目深に帽子をかぶって」


『それではまるで、スナフキンね』


「ああ、君に褒られて嬉しくてさ。彼のように」


『孤高の詩人。……憧れ?』


「分不相応なのは承知の上だがね」


『あらあなたの詩、わたしは好きよ』


「ありがとう……」



『ふふっ、ところでさ……もうすぐ七夕よね』


「あぁ、そうだが」


『あのね、それでスナフキンはさぁ、釣り上げた魚にね……』


「んっ……?」





『……何をあげるのかしら』



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