仲違い


俺達は村の入り口に向かった。

セラさんと会うときはいつも村の入り口で、

そこから俺達の家に一緒に戻る。


「いやぁ、それにしても

 あいついくらなんでも

 諦めが悪すぎないか?」


「そうですね。私の容姿は

 確かに優れていますが、

 私だけに執着する理由が分かりません。

 私の代わりなんて

 いくらでもいるでしょう」


「いや、それは流石に言い過ぎじゃないか?」


なんだかんだでいって、

ヤンクのあのポジティブ?

に関しては普通に凄いと思っている。

マリーがヤンクと話してるところは

見たことがないし、

隠しているのだとしたらそれまでだが、

俺だったらもう諦めていたはずだ。

何度でも向かってくる姿には

少なからず憧れがある。

そうだ!!俺が寝坊するのは

この違いじゃないか?


「……兄さん…………兄さん…………」


俺は寝坊する度に心のどこかでは

しょうがないと思ってたり、

もう無理だろって諦めていたり、

寝坊することを当然のように思っていたかもしれない。

俺もヤンクみたいに失敗したことは、

なかったかことにするか、忘れるか、

唯諦めずに挑戦し続けようっ?!


俺は左から何かに叩かれ、よろけた。

何だ?左頰がじんじんする。

まさか……ヤンク、お前またか?!

お前、せっかく俺がちょっと

見直してたってのに

ポジティブもいき過ぎるのはだめだろ。

そう思いながら叩かれた方を見る。

目を向けるとマリーが俺にビンタしていた。


「…兄さん……あ、やっと反応しましたね。

 セラさん、兄さんが帰ってきました」


「そうだね。フレイ?

 こんなに可愛い2人を置いて

 自分の世界に入ったら駄目じゃないか」


その隣にはセラさんもいる。


「え?俺寝てました?」


「いや、寝てた訳じゃないけど

 反応がなかったんだ。 

 ていうか、私とフレイの仲なんだから

 敬語はやめてよ」


「えっ、ああ、分かったよ」


「よろしい。それじゃあ早く

 家に行かせてもらおうか」


そう言ってセラさんは歩きだしたので、

俺達は続いた。


「そういえば、何でセラさんが

 「さん付けもやめて」

 ……セラはあそこにいたんだ?

 俺は意識がなかったからしらないんだ」


「兄さん、心当たりがないですか?

 セラさんが来ることになった原因」


マリーに言われて思い返してみるが、

全く心当たりがない。

その様子を見ていたマリーが

ため息を吐いて言った。


「今の時間って何時だか分かってますか?

 時計がある訳じゃないので

 大体でいいです」


「いや、全く」


即答するとまたため息を吐かれた。

逆に何で時計もないのに時間わかってんの?


「……多分あと1時間で昼です。

 あってますか?」  


「うん、凄いね。合ってるよ。

 正確にいうとあと50分だね」


「私達が家を出てから村の入り口まで

 10分もかかるなんてことはないです」


俺達が家を出たのが10時15分で……

今は……11時10分……は?


「何で1時間経ってんの?」


「だからその話をしてるんですよ」 


あー。そういうことか。

全然俺達が村の入り口に来ないから

セラからこっちに来たってことか。


「セラ、ごめん」


「いやいや、私はそんなこと気にしないよ。

 ちょっと時間はかかったけど、

 ちゃんと会えたんだ。問題ないよ」


セラはあんまり気にしてない……のかな?

とにかく許してくれて安心した。 

さて、そろそろ家に着くはずだ。


家に着いてすぐセラが言った。


「やっぱりここは落ち着くよ。

 まるでここが私の家みたいだ」


「私はセラさんがずっとここで

 暮らしても構いませんよ」


「私もそうしたいんだけどねー。

 それが無理なんだよ。理由は皆知ってるだろ?」


「ああ、ここが火消しの村だからだ」


この村が火消しと呼ばれる理由がある。

この世界ではいくつかの属性がある。

大雑把にいうと、

火、水、木、光、闇の五つ。

さらにここから派生していったりする。

例えば、土は木の派生だったりする。

そして火は邪神を信仰する奴らにとって

争いだとか戦乱とかを意味している。


火消しはここから由来した名前だ。

この村は戦ったことがないらしい。

魔物は発生しにくい場所にあり、

盗賊が襲うほど物資もない。逆に村を潰すと

騎士がやってくるのでデメリットが大きい。

要するに戦いに来るほど価値が

この村にない。

争い、乃ち火を起こさない村。

これが理由だ。


だから、セラみたいな商人は

ここに売りに来ても、

売れる物の範囲が狭いし、豊かじゃないので

そもそも売れる数が少ない。

だから商人も滅多に来ない。


この村は良くも悪くも閉鎖的だ。

別に村の人達がそうしてる訳じゃないけど

こればかりはどうしようもない。


「私だってこの村じゃ商売しにくいから

 あまり来たくないんだけど……

 ここにはフレイとマリーがいるからね」


「それじゃあ、俺とマリーを連れてってくれないか?」


「私はいいよ。それにしても嬉しいことを

 いってくれるじゃないか」


良かった。セラは俺達を受け入れてくれた。

セラもあんな風に言ってるけど

ニヤニヤしてる。

セラも俺達がついてくるのを

喜んでくれてるだろうか?


「……兄さん何をいってるんですか?」


マリーに遮られた。これは予想外だった。

マリーもてっきり

この村から出たいもんだと思ってた。


「俺達は別にこの村に留まる理由がない。

 もちろん父さん達には報告するけど」


「ですが、この家はどうするんですか?

 私達がいなくなったら誰もいなくなります。

 泥棒入り放題ですよ?」


「この村のことを忘れたのか?泥棒なんて出ない」


「……そこまでこの村を、

 離れたいですか?」


「離れたい訳じゃない。

 さっきも言っただろ?

 ここにいる理由がないんだって。それに、

 俺はセラと

 一緒にいろんな場所を見てみたい」


「それじゃあこれで最後です。

 何で私も一緒なんですか?」


「マリーが心配だからだ」


俺がそう答えてからマリーが沈黙して、

話し合いが進むことはなかった。




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