第36話 トロピカンランドへ行くpart5

「愛花ちゃんがいなくなった……?」


俺は思わずスマホを落としそうになった。


「あたし、さっきトイレに行ったの。それで帰ってきたらいなくなっていて……」


未来は泣きそうな顔をしている。


俺が初めて愛花ちゃんと会った時、公園でおっさんに誘拐されそうになってたな。

まさか……ここで誘拐された?


「あたしが目を離したから……愛花が……少しの間だから大丈夫だと思って……」


ワンピースの裾をぎゅっと掴んで、未来は震えていた。


「あたしのせいだ。まだ5歳の子を1人にしたから……」


未来は責任感が人一倍強い。

自分をすごく責めているんだ。


「大丈夫だ。ちょっと遊びに行っちゃっただけさ。一緒に探そう。きっとすぐ見つかるよ」

「……本当に?」

「ああ。きっとね」


俺が言ってることに根拠はない。

それは自分でもわかっている。

だけど、俺は未来を安心させたかった。


「よし。探そう」


俺は並んでいた列を抜けて、元いた席に戻った。


……どこに行ったんだろう?

フードコートの近くで、愛花ちゃんが行きそうなところはないか。

俺はトロピカンランドの地図を開いた。


「未来。今日のショーって、何やるんだっけ?」

「えーと……アンパンウーマンだと思う」


俺はスマホの時計を見た。

今、13時半。

アンパンウーマンのショーが始まっている。


「もしかしたら、ショーに行ってるのかもな……」


ショーは野外ホールでやっている。

フードコートの近くにある。

しかも、愛花ちゃんはアンパンウーマンが大好きだ。

録画したアニメを何度も見てたし。


「野外ホールに行ってみよう」

「うん!」


俺と未来は野外ホールへ走った。

手を繋いで、一緒に。


野外ホールは、大きな丸い屋根の下に、舞台がある。

観客席にはたくさん人がいる。

ちょうど、アンパンウーマンとバイキンウーマンが戦っていた。


俺と未来は一番後ろから見渡した。


「あ!ケータ、見て!」


未来が指差した。


麦わら帽子を女の子が前の方にいる。

ピンクのリボンをつけた麦わら帽子……間違いなく愛花ちゃんだ。


俺と未来は走って前の席まで行く。

ショーの最中だから白い目で見られたけど、そんなこと気にしてる場合じゃない。


「愛花!」


未来が愛花ちゃんを抱きしめた。


「ママ!どーしたの?」

「心配したんだよ……愛花がいなくなったって。もし何かあったらどうしようって……」


未来は泣いていた。


「愛花ちゃん。ダメだよ。勝手にいなくなっちゃ……」

「パパ、ママ。ごめんなさい」

「……未来、とりあえず座ろう。ここだと迷惑だから」


俺は未来の肩を抱いて、席に座らせた。

愛花ちゃんが無事でよかった。

まあ……後でこってりお説教しないといけないけど。


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