第11話 そして岡山着。かもめは、さらに西へ。
列車は再び汽笛を鳴らし、西へと歩み始めた。
姫路でも、さらにいくらかの乗客が乗ってきている。岡山、広島、さらには九州方面に向かう人たちである。
当時道路網は今ほど整備されておらず、航空機も普及していなかった。必然的に、鉄道は陸路に限らず交通全般の王者として、君臨していた。
そのため、長時間列車に乗って移動することはごく当たり前の常識レベルの事例であり、苦痛とはさほど思われていなかった。
さらなる乗客を乗せ、列車は播州平野を相生からさらに西へと、少しずつ勾配を上り始める。まだ暑い時期でもないから、列車の窓はどこも閉められたままである。
列車はやがて山間部に。
明らかな上り坂だが、この新鋭蒸気機関車は、すいすいと登っていく。煙こそ少し多めに吐いているようではあるが、投炭技術に優れた機関助士の腕と熟練した機関士の運転技術は、ほとんど黒い煙を出さないまま快適に坂を上り切り、さらに西へと下り坂に快足を飛ばしていく。
やがて列車は兵庫県から岡山県に入る。下り坂もたけなわとなった頃、特別急行列車は県境の三石を通過した。そして大カーブを快走し、さらに西へと進む。
食堂車の案内が、日本食堂の女性スタッフによって再び車内に伝えられる。
昼食の時間帯には早い時期ではあるが、食堂車はすでに営業している。今日はそれなりの乗車率なので、遅めの朝食に、あるいは早目の昼食に、はたまた、珈琲タイムよろしく食堂車に移動して飲食を楽しむ客もいる模様。車内販売も、その食堂車を基地として、列車の全部と後部に向けてそれぞれ女性従業員が巡回し、飲食物はじめ何らかの物品を売り歩いていく。
吉井川を超え、さらに列車は岡山平野へ。
勾配区間さえも軽々超えてきたこの列車、さらにその快足を活かして田園地帯を快走していく。やがて列車は、岡山の手前の駅・西大寺(現在の東岡山)を通過。車窓の右側にいささか小型の列車が見える。西大寺鉄道の列車である。
ここから乗換えて西大寺方面に向かう客もいるが、この列車は仮にも特別急行列車であるから、この駅には停まらない。
列車は旭川鉄橋を渡り切り、岡山の市街地に。
岡山駅には、昼前の定刻に到着。
ここで機関士と機関助士の交代が行われる。
停車時間は、姫路と同じく、3分。
停車時間を終えた特別急行列車は、一路博多へと旅立って行った。
今この列車を牽引している機関車は広島で同型の機関車と交代し、下関まで行く。
下関から門司までの関門トンネルはステンレス製の車体をもつ電気機関車がけん引し、門司から先は、C59より少し小型のC57型が、終点の博多までこの列車をけん引することになっている。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
堀田氏と山藤氏はともに最後尾のデッキからホームに降り、改札口へと向かった。
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