第5話 xxをやって見ませんか?

カールside



 正直、ボルジア家に行くかどうかでちょっと迷った。


 マジック★トラップの設定資料では、ハミルトン公爵家とボルジア公爵家は仲が悪いことで有名だと紹介されている。


 しかし、約一年半後に始まる本来のシナリオだと、カールである俺とボルジア家のエリカがキモデブ状態で魔法学園で出会い、みんなに嫌われながら手を携えて主人公のヒロインズたちに悪さをしていく。


 二人のキモデブによる鬼畜プレーはユーザたちの脳裏にしっかりと焼きついたらしく、みんなが口を揃えてある海賊漫画に出てくるカイなんちゃらと大きなママンのコンビをのようだと舌を巻く。


 だけど、俺とエリカはいずれ主人公たちによって殺される運命である。


 要するに俺は悪役貴族でありエリカは悪役令嬢という立ち位置になる。


 でも、俺は悪いことをするつもりなんか毛頭ないし、ダイエットをしてスローライフが送りたい。しかし、同じ悪役であるエリカを放っておくわけにはいかない。


 彼女も辛い過去を背負っているのだ。


 そこで、一緒にダイエットをすることで二人とも破滅フラグから回避することができるというのが俺の算段だ。


 なので俺はハーフエルフであるティアナを連れてボルジア家に来たわけだが……



「「……」」

「「……」」


 いかにも強そうなイケメンな赤髪の人と黒髪のイケメンが鍛錬服を着たまま俺を睨んでいた。


 ゲームではあまり登場することはないが、カールの過去の記憶をそのまま引き継いだ俺はわかるのだ。


 エリカの兄であるヨハネさんと、エリカの専属執事であるスカロンである。


 まあ、わからんでもない。


 だって、もともと家ぐるみで仲悪いし、そもそも俺の体が問題だ。


 二人はおそらく200kgは軽く超えるであろうこの巨体を見てドン引きしただろう。実は馬車に乗ってこの屋敷へ行くのも一苦労だったんだ。やっぱりこの体は不便だな。


「それで、ハミルトン家の長男がなんの用だ」


 明らかに警戒の視線を向けてくるヨハネさん。


 とても鋭い視線に俺は肩をすくめるが、口を開く。


「エリカさんと一緒にダイエットがしたくて、やってきました」


「「?!?」」


 俺の言葉を聞いて二人は目を丸くした。


「やっぱりこのままだとまずいというか、ダイエットしてもっとましな人生を送りたいんですね」

「ならなんでわざわざここに来たんだ?一人でやればいいだろ」


 ヨハネさんは問い詰めるように訊ねてきた。


 俺たちがデブであることは貴族社会ではよく知られている。


 ちなみにこのエロゲーは外見至上主義みたいなところがある。ゆえに俺の父とエリカの母は、あまり俺たちのことを公にすることを避けるのだ。

 

 エロゲーの世界の中で外見の酷い人はたいてい悪役であることはもはや常識といって差し支えなかろう。


 そんな評判悪い俺が直接ここに来たんだ。

 

 ヨハネさんの反応はある意味当たり前である。

 

 自分の妹を他人に会わせたくないという気持ちは多少なりともあろう。


 でも、このまま引くわけにはいかない。


 彼女が殺される可能性もあるのだ。


 痩せて普通の人生を送ってもらうべきだ。


 それに、


 やっぱりこういうのは


「一緒にやった方が楽しいと思いませんか?」


「「っ!!」」

 

 二人は身体を一瞬ひくつかせた。


 そして、さっきから俺に不思議な視線を向けてきた黒髪の執事であるスカロンがヨハネさんに向けて耳打ちする。


 耳打ちが終わり、やがてヨハネさんは俺から目を逸らし、口を開く。


「入れ」

「あ、ありがとうございます」


 俺は礼を言ってティアナと一緒に屋敷の中に入る。


 途中でスカロンがティアナのちょっと尖った耳を見て小首をかしげたが笑顔を浮かべて俺たちを案内してくれた。


 確かにおかしな組み合わせではある。


 キモデブと綺麗なハーフエルフ。


 幸い、二人ともティアナに対して差別的な態度は取ってない。


 キモデブすぎる俺の外見に圧倒されてティアナの存在感が薄くなったのだろう。

 

 俺たちはエリカの部屋の前に案内された。


 スカロンさんは親切な表情のままだが、ヨハネさんは俺をめっちゃ睨んでいる。ちょっと怖すぎて俺が苦笑いを浮かべると、スカロンが口を開いた。


「エリカ様、ハミルトン公爵家のカール様がお見えです」

「ハミルトン公爵家だと!?しかもカールさん……」

「はい」

「な、なんできた?」

「えっと、それはですね……」


 俺はスカロンさんにこれ以上話さないように手で制止した。


 自分の言葉で伝えるためである。


 俺はドアに向けて言葉を発した。


「エリカさん、一緒にダイエットしましょう!」


 と言ったが、彼女は出る気配がない。


 さらに数秒が経つと、ヨハネさんが物憂げな表情で短くため息を吐いてきた。


 自分の妹のことだ。おそらく思うところがあるだろう。

 

「エリカは基本シャワー浴びる時とお手洗い行く時以外は外に出ないぞ。ここにいる専属執事のスカロンの話も聞かない」

「そうですか……」


 ヨハネさんが諦念めいた表情で話した。


 やっぱり、無理があったのか。


 いや、諦めてたまるものか。


「エリカさん!俺もずっとデブです。だから一緒にやればうまく行きますよ!」

 

 だが、反応がない。


 どうしよう。


 このままだと、エリカがデブのままで破滅フラグまっしぐらだ。


 もう綺麗事なんて並べられない。


 想定範囲外だが、俺は本心を言葉にした。


「エリカさんを放っておくことなんてできません!絶対痩せて、俺はイケメンになってエリカさんは綺麗な女性に生まれ変わるんですよ!」


「「……」」


 俺の訴えにヨハネさんとスカロンの目が丸くなった。


 そして、


 ドアがやっと開いた。

 

 やっと姿を現したエリカ。


「なっ!エリカ!?嘘だろ……」

「エリカ様!!!」

 

 彼女はち切れんばかりの体で寝間着を着ている。


 長い赤い髪と真っ白な皮膚。エメラルド色の瞳。


 他は俺と似たり寄ったりで、正直に言うと、お世辞にもいい感じとは言えない。

 

 俺と同じく200kgは超えてしまいそうな外見である。


 しかし、今そんなことはどうでもいい。


 俺にはプランがある。


 転生前の俺は運動が大好きだった。


 しかも、俺の横にはティアナがいる。


 彼女は共通魔法が実にうまい。


 ちょっと力を借りるとしよう。


 と考えていると、エリカは俺の姿をじっと見ていた。


 自分と同じタイプの人を見ているせいか、彼女は俺を避けることなく口を開く。


「ダイエット、本当にするんですか?」

「はい!」

「私、やってみたんですけど、ダメでした……」

「不安がらなくてもいいですよ。俺にいいアイディアがありますから!」

「いいアイディア?」


 

「サッカーをやってみませんか?」









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