第37話

 東の最果て──ドズル砂漠。

 見渡す限りに続く砂の海と、常に吹き荒れる砂嵐。


 その過酷な環境も然ることながら、そこに巣食う魔獣も非常に凶悪だ。

 特に砂の下で蠢く巨大な蛇竜蠕虫ドラゴン・ワームは現在のプレイヤーでは討伐困難と評されるほどで、それが無数に生息している時点でこの場所はゲーム内で最も危険度の高い地域と言えよう。


 そんな魔境とも呼べるドズル砂漠には、たった一つだけプレイヤー向けの施設が存在していた。


 その施設の名は〝最果ての監獄〟という。

 その名の通り、悪事を働いたプレイヤーが死亡時に送還される監獄であった。

 犯罪行為に走ったプレイヤーは、デスペナルティであるログイン制限が明けてもすぐに通常のゲームプレイに戻れるわけではない。

 彼らはこの〝最果ての監獄〟で一定期間の奉仕活動に従事しなければならないのだ。


「……本当に無能なヤツだな。せっかく育てた盗賊団を潰しやがって」


 牢獄の中で項垂れるガイに対して、彼の実の兄──ハイガは侮蔑の目を向けた。


「す、すまねぇ……兄貴……!」


 実の弟に向けるものとは思えないほどに冷たい眼差しを受け、ガイは身を竦めた。


「つ、次は上手くやるからさ⁉ 頼む、許してくれ……」


 檻の中で平伏しながら謝罪するガイ。

 だが、ハイガは一切表情を変えずに冷たく答えた。


「次……? 馬鹿か、そんなものがあるわけ無いだろう。お前は雑用係に降格だ」

「そんな……」

「除名されないだけマシだと思え。身内じゃなければとっくに追い出してるところだ」


 ハイガは突き放すように言うとガイに背を向けた。


「ま、待ってくれ兄貴! 次は……次はちゃんとするから……!」

「もう面会時間が終わる。そうでなくとも、これ以上お前と話すことはない」


 ガイが檻の隙間から手を伸ばして引き留めようとするが、ハイガは振り向きもせずにその場を去っていった。


「ちくしょう……」


 暗い牢獄の中、一人残されたガイは悔しそうに呟いた。


「クソ……俺だって……」


 ソウルブレイド内でもかなりの規模を誇るPKギルド──灰の牙。

 その頂点に君臨するのは、彼の実の兄であるハイガだった。

 徹底した実力主義者であるハイガに認められるべく、ガイは必死に努力してきた。

 寝る間も惜しんでクエストを進め、己のソウルギアを強化し、闘技場のランキングにだって食い込んだ。そうして彼は幹部にまで上り詰めた。


「アイツの邪魔さえなけりゃ……」


 ガイの脳裏には、とあるプレイヤーが浮かんでいた。

 自分から全てを奪い取った憎き男の顔だ。


「アイツだけは絶対に許さねぇ……」


〝最果ての監獄〟の奥底で、ガイは静かに復讐心を燻らせた。

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