第4話

 力が欲しけりゃ、対価を払え。

 マモンがそう告げた後、俺の視界に見慣れないウィンドウが表示された。


「……なんだこれ?」


 表示されていたのは、課金をするための専用UIと説明文だ。

 チュートリアルでは無かった謎の画面。そこには、このように記載されていた。


『追加課金することで、マモンの能力を解放できます。ただし、最低課金額を満たす必要があります』


 追加課金?

 そんな機能があるとは初耳だが……。

 まぁいい。足元を見た仕様で少し腹が立つが、強くなれるなら初期投資するのも悪くない。

 アキラ曰く、このゲームで強くなれば金なんていくらでも稼げるらしいのだから。


 そう思いながら俺は画面の下部に視線を向ける。

 そこには先ほどの説明文にあった最低課金額が表示されていた。


『最低課金額・・・¥500,000』


 最初の課金額として提示されていたのは──50万円だった。


「ふざけんなっ⁉ なんでお前みてぇなナマクラに50万も課金しなきゃなんねぇんだよ⁉」


 思わず俺は怒声を上げた。

 何だよ、このぼったくり仕様!

 そんな金があるならウルちんに投げるわ!

 そもそもこんなクソゲーに課金するかよ!


『あーあ。俺様に対価を払えば間違いなく最強になれるってのによぉ……馬鹿なヤツだなぁ』

「馬鹿はお前だっつーの! 50万もありゃ赤スパを50発撃てんだよ! お前みたいなヤツに使えるかっ!」

『お前の言っている事はよくわからんが……そんなに大声出して良かったのか?』

「は? なに話逸らして……あ?」


 マモンに指摘されて、俺はようやく気がつく。

 前方に出現したチュートリアル用のゴブリンたちが、一斉に俺を見ている事に。


『──死亡しました。リスポーン待機時間:30秒』


 そこからの出来事は、もはや語るのも煩わしい。

 一方的にボコられ、死んだ。それだけだ。


『アッハッハッ……! 本当に馬鹿な野郎だ。さっさと俺様に対価を払っちまえば、あんな小物なんざ一掃できたのによぉ』


 リスポーンした直後に、浴びせられる嘲笑。

 なんで自分のソウルギアに馬鹿にされてんだよ、俺は。


「……お前に課金すりゃ本当に最強にしてくれんだろうな」


 だけど、ふとそんな言葉が俺の口からこぼれ出た。

 ジンジンと突き刺す痛み。永遠に終わらないチュートリアル。

 役に立たないどころか、主を小馬鹿にしてくるソウルギア。

 色んな状況が重なり、俺は少しヤケになっていた。


『あぁ? そんなこと聞くまでもねぇだろ』


 俺から何かを感じ取ったのか、マモンはねっとりとした歓喜を言葉に含ませて答えた。


『最強どころか、にしてやる』


 その答えを聞いて、俺は決意した。

 どのみち今のままではウルちんに投げ銭するどころか、アキラにゲームソフト代すら返せないのだ。


 ──だったら博打だろうがなんだろうがノッてやろうじゃねぇか!


「──少し待ってろ。すぐに用意してくる」


 そう言い残し、俺はログアウトした。



 ◇



 ──1時間後。


 俺は再び黎明の塔の石床に降り立った。


『早かったじゃねぇか。ちゃんと用意できたのか?』


 ログインした直後にマモンが勝手に顕現して語りかけてきた。


「あぁ用意してきたさ。それよりマジで強くなれるんだろうな?」


 そう言って俺は課金画面を呼び出した。

 そこには今し方入金したばかりの有料クレジットが、きっちりと反映されていた。


『疑り深いヤツだな。俺様が信じられないのか?』

「……」


 ぶっちゃけ後悔している。

 というのも、ちゃんとした消費者金融で借り入れできない俺は、個人の金貸し屋から借りる以外にない。

 この手のグレーな金貸し屋はヤクザか半グレが運営していると聞く。もし返せなかったら、と思うと不安で堪らない。


『安心しろ、損はさせねぇからよ。それに今さら躊躇う必要もないだろう? こうしてわざわざ金を用意してきたんだ。その時点でお前の心は決まってるのさ』


 マモンの言うとおりだ。

 俺はこいつの胡散臭い言葉を信じて、こんな危ない金まで用意してきたんだ。

 今さらビビんな俺。ウルちんのためなら、何でもできる男だろ!


「マジで頼むからな!」


 それだけ告げると、俺は勢いよく課金ボタンを押した。

 するとマモンの刀身が眩い光に包まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る