第43話 ひかりの真の異能!

<賢人視点>

 

「……!」


 ひかりの放った氷が、俺たちに迫っていた炎を打ち消した。

 ひかりの異能は、炎を操る異能ではなく、空気の温度を操る異能……!


「賢人!」


 ひかりは、俺たちの周りに手を差し向けたままに叫ぶ。


「わたしも戦えるよ!」


 対して俺も、ひかりに向かって強くうなづく。


「ああ! 援護を頼む!」

「頼りになるじゃん! ひかり!」


 俺と背を合わせる久遠も、ニッと口角を上げる。

 ここからは、本当の意味で三人での攻略だ!


「生意気な!」

「小娘一人加わったって変わりはしねえ!」

「三人ともここで終わらせてやるよ!」


 それでもなお迫ってくる黒スーツの者たち。

 だが、それは防がれる。


「二人とも!」


 キィィィィン!

 ひかりが叫ぶと、俺と久遠の両端に氷の壁が出来上がる。

 

 これなら周りからの攻撃にも心配なく、ひかりの両壁の内側にいるひかりも安全!

 頼りになるぞ、ひかり!


「久遠!」

「おう、相棒!」


 なんだかこそばゆい呼び方をされたが、俺たちは氷壁の内側の敵を一気に叩く!

 人数が割かれれば負けることはない!


「「「おわああああっ!」」」


 氷の壁、こうすれば崩落ほうらくの心配もなかったのか!

 とは思うが、それではひかりの真の異能にも気がつけなかったので今はよしとする!


 ひかりと戦えるのは単純に嬉しいしな!


「はぁッ!」


 氷壁の内側の奴らを速攻で片付けると、壁に穴を開けて外側の奴らも倒す。


 そうして、


「これで全員……か?」

「多分ね」


 壁の外にいた奴ら、両側もそれぞれ倒しきり、この場は収まった。


「賢人! 久遠!」


 そこに嬉しそうな顔で寄ってくるのはひかりだ。


「どう! わたし役に立ったでしょ!」


「ありがとうひかり。本当に助かったよ」


「賢人君も魔法の制御ができないからね。これはひかりのおかげだよ」


「……!」


 俺たち二人の言葉で、ひかりは目一杯嬉しそうな顔を浮かばせる。


 正直に言えば、エージェントとしては今まで不甲斐ふがいなかったひかり。

 そんな彼女は、どこか俺や久遠に劣等感を感じていたのかもしれない。

 

 それが今じゃ頼りになるエージェントだ。

 氷も操作できると分かっていきなりこれとは、将来が楽しみなんじゃないか?


 だが、


「賢人君」

「ああ」


 久遠が指差した方向に目を向ける。


 いつまでも喜んでばかりじゃいられない。

 俺たちは急がなければならないんだ。


 久遠が追う大悪魔『グラエル』、それが目的へと辿り着く前に。





 『被毛会』がかくまっているのは、白くてふわふわ、もふもふな毛を持ったモンスター『フェンリル』。

 実際に匿われている場所までの道を知っている久遠に付き、どんどんと地下へと降りていく。


 先程戦闘をした約二十名は構成員のほとんどだったのか、あれ以降に敵は現れなかった。


 そして、長く続く通路を走っている時。


「!」


 先を行く久遠が「待った」のジェスチャーを示す。

 足を止めた俺は指示に従い、灯している光魔法『ライト』を奥に照らすと見えてくるものがある。


「あれが……!」


「そう、僕が前に見つけたものだよ」


 大きな鳥かごのようなもの。

 匿われていたのは、まさに幻獣『フェンリル』。


 白くて気持ちよさそうな毛並みを、その三メートルはあろうかという巨体にまとわせるオオカミのような姿。

 その神々しい姿は、今まで見てきたどのモンスターよりも幻想的で、目の前が現実かどうかすら惑わせる。


 それほどにファンタジーな存在だった。

 だがそれが、


「クゥゥゥン……」


 体は抑えつけられ、全く身動きが取れない状態で閉じ込められている。


 そして、


「遅かったじゃねえか」


「「「!」」」


 フェンリルの鳥かごの奥から突然、声が聞こえる。

 久遠と頷き合い、もうバレているなら、と思い切って前に出る。


「暗くて見えねえか。じゃあ、ほらよ」


 謎の声の主がパチンと指を鳴らすと、瞬時に辺りが明るくなる。

 どうやら、俺たちがいたのは研究施設みたいな場所のようだ。


「って、思ったより若い、若すぎるな。お前ら、本当にエージェントか?」


 サングラスに、口元を囲うよう整えられたひげ、例にれず黒スーツの着た長身の男。

 雰囲気で分かる、間違いなくこいつが『被毛会』のボスだ。


「お前がこの組織のボスか」


「ああ、そうだよ」

 

 久遠も察しているだろうが、念の為に聞いたのだろう。


「俺は闇では『アンブル』って呼ばれてる」


「アンブル……!」


 久遠が名前を聞いて反応を示す。


「知り合い?」


「いや、闇の取引では有名な奴でね。まさかこんなところで本人を目にするとは」

 

 なるほど、エージェントの耳に入るほどの奴だったってことか。


「そいつは嬉しいねえ。まあ見ての通り、最近はこいつ・・・を飼ってもうけてんだよ」


 アンブルが親指で指すのはフェンリル。


「こいつのはすげえ力を持っていてよ。良い素材にはなるわ、人体を異常に発達させるわ、もうウハウハなわけよ」


「人体を発達!? じゃあ組織の人間の異能も」


「そういうこった。あれも全部、こいつの毛による強制的な強化だ。まさか、炎や光を出せるようになるとは思わなかったがな」


 アンブルは好き勝手にフェンリルの毛を使い、悪巧みをしているみたいだ。

 その証拠に、


「クゥゥン……」


 フェンリルは体中に傷跡があり、本来凛々しいであろう気高き顔は怯えてしまっている。


 こいつには人の心がないのか?


「許さん……!」


 そう思った時、俺の足は自然と前に出ていた。

 

「賢人……」

「賢人君……」


「はっはっは! 一番モブっぽい奴が出てきやがった! こりゃ傑作だな!」


 俺を見た目で判断したのか、アンブルは頭をかき上げながら大胆に笑う。

 だが、もう遅い。


「何笑ってやがんだてめえ!」


「は? ──ごふぁっ!」


 最大限の『身体強化』。

 相手からは消えたように見えただろう。


 これまで幾度となく使ってきた『身体強化』だが、今回の拳は本気も本気。

 全力の拳を下から思いっきりぶつける。


「ごああああっ!」


 ドゴオオオ!

 俺が殴った方向、斜め上へと綺麗にぶっ飛んだアンブルは大きな音を立てて壁にめり込む。


 たしかに俺は、エージェントとしてここにきた。

 久遠を助けるため、久遠との協力体制を遂行するため、この最深部まで来た。


 だけど、より明確にこいつをぶっ飛ばしたい理由が、たった今・・・・できた。


「俺は可愛い動物が好きなんだよ!」


 傷つけられたフェンリル。

 その姿を見て、俺はいたたまれなくなってしまったからだ。

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