第29話 よく分かんないけど、気持ち良いいいい!!

 突然の超イケメン転校生・久遠くおん皇輝こうきが来て、一限目。

 イケメンでありサッカー部のエースというお株を奪われつつある中村君が、久遠にサッカー勝負を仕掛けた。


 一対一で交互にPKをしていく形だ。


「あははっ、サッカーするのも久しぶりだから緊張するなあ」

「るせえっ! んなのはどうでも良いからさっさと構えやがれ!」


 先行の中村君がボールから距離を取り、久遠はキーパーとして構える。


 顔面偏差値では久遠が勝っているようにも見えるが、中村君はああ見えて18歳以下の日本代表にも選ばれている。

 日本でも屈指のストライカーのはずだ。


 果たしてどうなるか……。


「──っらあ!」

「!」


 中村君の蹴ったボールはゴールネットの右上に見事に突き刺さる。

 中村君の先制だ。


「相変わらずすげえな!」

「ああ、全国の中村は伊達じゃねえぜ!」

「かっこいいー!」


 中村君の友達、また根強く彼を応援する女の子達が声を上げる。


「……っし!」


 かくいう俺も、声は上げないが控えめにガッツポーズをした。

 中村君を応援してるのではなく、ひかりと親し気にしていた久遠に負けてほしいのだ。

 

「おら、どうした! これを止めたら俺の勝ちだぞ!」

「うーん、思ったより強力だったなあ」


 両者は交代。

 サドンデス方式の為、ここで中村君が止めればそのまま勝ちだ。

 だが、それでも久遠は余裕を見せたまま。


「さっさとこいや、ごらぁ!」

「そう焦らなくても」


 そう言いながら、久遠はボールからだけ下がった。


 助走はそれだけでいいのか?

 まあいい、とにかく止めろ、中村君!


 だが久遠が放ったシュートは、とんでもない威力だった。

 

「ほっ!」

「──!!」


 ギュルルルッ! ……パサッ。


「「「……え?」」」


 な、なんだそれえええ!?

 久遠が蹴ったボールは、あわやネットを突き破りかねない勢いでゴールし、やがてその勢いを止めた。

 

 中村君のシュートも相当なものだったが、久遠は言わずもがな。

 素人目に見てもまるで威力が違った。


「あー、強く蹴り過ぎちゃったか」

「てめぇ……!」

「んー、まだやる?」

「! ったりまえだ!」


 売り言葉に買い言葉。

 中村君は勝負を続行するが、正直結果はすでに目に見えてた。


 そうして予想通り、次の攻防で雌雄しゆうは決する。


「くそがっ!」

「結構強かったよ」


 髪は乱れ、悔しがって地面に四つんいになる中村君と、汗一つかいていない無造作に整った茶髪の久遠。

 中村君に期待してたんだけどなあ……残念。


 そんな中で、久遠にひかりが寄っていく。


「ちょっとあんた、悪ふざけも大概に──」


「久遠!」


 だが、ひかりの言葉をさえぎって中村君がまたしても声を上げた。


「二対二だ! さっさと用意しやがれ! おい本多!」

「おっけー、俺も黙っていられないしな」


 中村君は勝手にそう言いながら、同じくサッカー部レギュラーの本多君を呼ぶ。


「んー、良いんですか? 先生」

「構わんぞ、面白いじゃないか」


 久遠が体育教師に尋ねるのもすぐに了承。

 ったく、この先生は。


「じゃあ僕はー……君で」


「へ?」


 そんな中、久遠が指名したのは、なんと腕組みをしながら後方で眺めていた俺。

 これには周りもなんとも微妙な雰囲気。


「え、あんな奴?」

「なんでここであの陰キャ?」

「ハンデならアリだけど……それでも、えぇ?」


 うむ、相変わらず周りのひそひそ話にはそこそこ傷つく。

 それでも久遠は俺を変えないよう。


「んー、ダメかい?」


「いや、俺はいいんだけど……逆にいいの?」


「君じゃなきゃダメみたい」


 何言ってんだこいつ。

 とにもかくにも、変える気はないようだ。


「じゃあこっちは本多、てめえは如月を入れてやるぞ!」

「いつでもいいよー」


 中村君は相変わらず強めの口調、久遠はゆったりした感じで、試合はすぐに始まってしまった。


 どうやら、コートを使った一点先取らしい。

 でもサッカーなんて分かんねえぞ、俺。


 それでも、


「ほっ、ほっ」


 久遠が一人で華麗かれいにリフティングをする。

 それもただのリフティングではないようで、体でしっかりとボールを守っている。


「おい本多! そいつに好きにさせんな!」

「ああ、わかってるけどよ!」


 その証拠に、あの強豪サッカー部レギュラー二人を以てしても、久遠のボールがまるで取れない。


「如月君がガラ空きだよ!」


「!」


 そして、久遠が俺にパスをした。

 

 山なりに飛んでくるボール。

 やべっ、どうすればいいんだよ!


 だが、まるでボールがゆっくりと近づいてくるような感覚の中で、自然と自分の中から湧き出るものがある。

 なんだこれ!


「──!」


 目の前に来たボールに対して、使っていないのに魔法を引き出されるような感覚。

 さすがにズルだからと使うつもりがなかった魔法だが、その感覚に抗えず、ほんのちょっと『身体強化』を発動させてしまった。


 ズドォォォン!


 俺の右足から繰り出された、久遠と同等レベルのシュートがゴールネットをはちきれんばかりに揺らす。


「「「……!」」」


 その様子に周りは一瞬息を呑み、


「「「うおおおお!?」」」


 一気に盛り上がった。


 女子は控えめだが、サッカー部を主とした運動部連中が俺を囲う。


「お前、なんだよ今の!?」

「久遠に続いて如月君もか!?」

「頼むからサッカー部に入れって!」


 勢いに押されて、俺も喋れなくなってしまう。


「ちょ、ちょっと……!」


 そこに後ろから近寄ってきて、こそこそ話しかけてくるのは中村君。


(おい、魔法それはずりぃだろ)

(いや、本当に使う気はなかったんだけど……)

(そうなのか。お前も完全にコントロール出来てないって話だったな)

(そうなんだよ)


 これは誤魔化しではなく本心。

 中村君も、まさかこの勝負で魔法を使うとは思ってなかったみたいだ。

 

 そして、


「ナイスゴール。しびれたよ」


「う、うん」


 高身長イケメンの久遠が出してきた拳に合わせ、グータッチを交わした。


「……」


 今の瞬間をふと思い返す。

 あれがゴールの感覚。


 ……うん、なんかよく分かんないけど、気持ちいいいい!!


 魔法が勝手に発動したのは置いといて、気持ち良くなってしまうのであった。





 そんなこんながありつつ、放課後。

 ひかりに話があると聞かされて、屋上へやってきた。


 すると、


「まったく、初日からやってくれるわね」


「そう言わないでよ、ひかり」


 すでにいたのは、ひかりと久遠。


「あ」


 そういえば思い出したぞ、この二人は仲良さげなのだった。

 久遠が気持ち良くゴールさせてくれたことには感謝しているが、ここは聞いておかなければ落ち着かない。


「こほん。そのー、二人は知り合いなの?」


 俺の問いに、ひかりは呆れたように言った。


「そうよ。サッカーなんかで派手に異能使ってくれちゃって」


「え、異能?」


「うん。こいつは同業者。わたしや賢人と同じエージェントよ」


 ひかりが親指で久遠を指すと、彼はにっこりと笑顔を見せる。


「そういうこと。てことでよろしく、如月君。いや、賢人君でいいかな?」


「よ、よろしく」


 あー、なるほど……。

 

 久遠がひかりと知り合いなこと、俺をチラっと見てきたこと、日本代表顔負けのシュート力……。

 色々と、点と点が繋がった瞬間であった。

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