第16話 放課後呼び出しイベント

 午後の授業もぼーっと過ごし、放課後。


 昼休みに机に入っていた紙に応じるよう、屋上へと向かう。

 もしかしてこれ、呼び出しイベントってやつなのかな?


 陰の道を歩き続けてきたがゆえに、それが仮に良くないイベントだとしても、学校でのイベントはワクワクしてしまう。

 今までは、人の目に触れず、ただただ過ごしてきただけだったからなあ。


 ま、何か起きても、魔法があればどうにでもなりそうだし。

 注意するのは、怪我させないようにするだけかな。


 ガチャリ。


 普段は閉まっているはずの屋上は、強引に開錠された跡が見られ、俺はそろーりと屋上へ入っていく。


 すると、 


「来やがったか」


「……あの?」


 偉そうに腕を組みながら、宣言通り俺を待っていたのは、中村君だ。

 そして周りには、ラグビー部、相撲部などに見えるガタイの良い人たち。


 見覚えのない人もちらほらいるので、学年関係なく連れてきたのかもしれない。


「おい」

「はい、中村さん」


 中村君はそんなガッチリ体型の人達をあごで使い、下っ端の四人が俺の腕を持つ。

 そうしてそのまま、網状の所に叩きつけられ、ガシャン! という音が鳴る。


 だが、すでに屋上の扉は相撲部の同級生に封鎖されているため出られない。

 うん、まさに追い詰められた……ように見えるわけか。


「おい。確認するが、てめえが如月賢人だな?」


「そうです」


 同じクラスなのに覚えられていない……。


「そうか、よかったぜ。俺はイチイチ、モブの顔なんて覚えられねーからよ」


「はあ……」


 そう言いながら、中村君は俺を睨んだまま、ずんずんと顔を近づけてくる。


 やめてくれ、俺は男に興味はない。

 顔を近づけられるのは可愛い女の子だけで十分だ。


 あれか、サッカーの試合中に至近距離で言い合いする時の外国人選手なんかを真似ているのか?

 日本人のお前がやってもダサいからやめておいた方がいいぞ。


 顔は……くっ、イケメンだが。


「お前、俺の言いたいこと分かる?」


「分かりません」


「そうか、なら教えてやるよ」


 ガシャン!

 中村君は俺の耳元の柵を掴んで、俺に言い放った。


「てめえみてえなクソモブが、ひかりちゃんに近づくなってんだよ!」


 あー……なるほど。

 そういえば中村君、最近ひかりにフラれたとか聞いたかも。


 イケメンだから自意識を持ってるのだろうが、それは残念でしたね。


「別に、ひかりが誰に近づくかはひかりの勝手では?」


「あぁ!? てめえ、ひかりちゃんのこと呼び捨てにしやがって!」


「小さい頃からの仲ですので」


 普段こういうことは言わないようにしているが、先制パンチをもらってるんだ。

 こちらも言わせてもらおう。


「関係ねえ! 男でひかりちゃんを下の名前呼んで良いのは俺だけだ!」


 ついに我慢が限界が来たのか、中村君は俺を殴ろうとしてくる。


「はあ……」


「なっ! なんだっ!?」 


 だがその拳は、俺に迫った所でピクリとも動かなくなる。


 『魔力』の壁。

 俺が普段使う魔法は、この魔法のもとである魔力を操作して出している。


 だけど、こんな奴には魔法を使うまでもない。

 魔力を俺の前に張り巡らせるだけで、一般人の拳は容易に止まるのだ。


「てめえっ!」


 そんな状況に、中村君は痺れを切らしてお得意のキックを繰り出すが、これまた俺の目の前でピタリと制止。


「ど、どうなってやがんだ! ちくしょう!」


 さて、どうしようかなこの状況。

 魔法で何かしても良いのだけど、それで禍根かこんを残すのも良くない気がする。

 

 と、思考を巡らせていると、屋上の扉の向こうから音がする。


 ドンドン!


「ちょっと! 開けなさい!」


 あれこの声、ひかりか?


「ちぃっ……」


 ひかりの事が大好きな中村君だ、当然彼もひかりの声には気づいてる様子。


「中村さん……」

「開けんな。バレたら嫌われちまう」


 扉を抑える相撲部に、中村君は小声で言った。


 ふむ、ひかりにバレるのが嫌なのか。

 それなら、


「うわぁっ!」


 屋上の見張り番をしていた相撲部が、どこ吹く暴風で吹き飛ばされた。

 一体、どこのどいつの『風魔法』なのだろう。


「バッ! なにしてやがんだ!」


 バンッ!

 そうして抑える者がいなくなった扉は、勢いよく開く。


「賢人! 大丈夫!?」


「ひかり。大丈夫だよ」


 すぐに俺を視界に捉えたひかりは声を上げた。


 そうしてこの状況。

 必然的にひかりの視線は、ギロリと中村君へ向く。


「中村、あんた……」


 あ、やばい、これガチでキレてる顔だ。

 こんなひかりを見たのは中学生以来かも。


「ひ、ひかりちゃん! 違うんだ! これは、その、こいつが!」


 中村君は必死に誤魔化そうとするが、ひかりは構うことなく大股で中村君に向かって歩いて来る。


 そして、中村君の目の前に立ったかと思うと、


「言い訳はそれだけ?」


「だからっ! こいつが──」


 パーンッ!

 話を最後まで聞くことなく、ひかりの容赦のない平手打ちが炸裂。


 うわあ、これ精神的にくるやつだ……。


「わたしに二度と顔を見せないで!」


「ひ、ひかりちゃ──」


「気安く呼ぶな!」


「……」


 そうして完全に上の空となった中村君は俺を離し、頬を抑えながらフラフラと屋上を後にした。

 そうなれば、残るは彼に付いてきた者たちのみ。


「なに、あんたたちも食らいたいわけ?」


「「「ひっ……」」」


 本気で怒っているひかりの前に、あの図体の人たちが怯えた顔。


「「「ご、ごめんねー!」」」


 俺に謝ったのか、そんな言葉と共に一目散に屋上から逃げて行った。


「ったく」


 手を腰に当ててそれを見送ったひかりは、あきれたような言葉を漏らした。


「大丈夫? 賢人」


「大丈夫だよ」


「良かったぁ。たまたま廊下でこの話を聞いたんだけど、わたしが外で異能を使っちゃダメって言ったから、どうしても心配になっちゃって……」


 そうか、それで来てくれたのか。

 それにしてもひかりが俺を心配とは……こんな嬉しい事はない。


「これもわたしが招いた事だし……本当にごめんなさい」


 中村君をフったことを言っているんだろうか。

 だとしたらそんなの、


「謝ることはないよ」


「賢人……ありがとう」


 少しうつむきながら謝るひかり。

 そもそも、中村君がこんな奴だと分かれば、ひかりを渡せるわけがない。


 ……それはそうと、この流れでやっちゃうか?

 いい、いってしまえ、今の俺なら出来る!


 俺は、思いきってひかりの頭をそっとでる。

 この綺麗な白めの金髪、つやつやだ。


「……! なに、この手」


「え、ああ、いやっ!」


 じろっと上を向かれた瞬間に、パッと手を放す。

 やっぱ調子に乗りすぎたか?


「……別に、嫌とは言ってないけど」


「ん、なに?」


 ひかりが珍しくボソボソっと喋ったので、よく聞き取れなかった。


「~~! なんでもないわ! 解決したならさっさと帰りましょ!」


「お、おう……」


 なんだよ、急に声を上げて。

 まあいっか、こうして無事に何も起きなかったし。

 

 だが、結果的に残ってしまった禍根。

 これは、後々のちのちに大きな事を生み出してしまう事を、俺はまだ知るよしもない。

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