第5話 学園のアイドルの眩しい横顔

 ひかりに付いて行った先、誰もいない校舎裏。

 周りに誰もいないのを確認したところでひかりが振り返る。


「この辺なら大丈夫そうね」


「う、うん……」


「ん? どうしたのよ、何か言いたげね」


 ひかりのこちらの様子を覗くように伺ってくる。

 ひかりが鋭いのか、俺が分かりやすいのか。


 俺は、自分が不利になるかもしれないと分かっていながら、その心のもやもやを明かすように口を開いた。

 

「よ、良かったのかよ……。その、俺なんかといるところ見られて」


「はい? 言ってる意味が分からないんだけど?」


「だからその、俺みたいな、い、陰キャといるところを見られて!」


「……は?」


 ひかりは本当にぽかーんとした表情の後、


「あっはっはっは! 何それ、バッカみたい!」


 腹を抱えて大笑いした。


「ちょ、な、なんで笑うんだよ!」


「なんでって、そりゃ賢人が面白い事言うからでしょ!」


「お、お前なあ。俺だって、ひかりの事を考えて……」


「考えて、何?」


「!」


 ひかりは、俺に少し顔を近づけて大人びた表情で尋ねてくる。

 口角を少し上げて上目遣い、これ反則だろ。


「まったく、何を気にしてんだか。わたしの交友関係はわたしが選ぶ。そんなのは言わせておけばいいのよ」


「そ、そうか……」


「それともなに? あんたはわたしとは話したくないって? 傷つくなあ」


「そ、それはない! 決して!」


「あははっ! 必死かよ! でも、それなら良いじゃない」


「う、うん」


 昨日から話してて分かる、やっぱり変わったなあ。

 小学生の時は、俺の後ろを付いて来るだけだったのに。


「あんた絡みで変な噂立てられようと、どーでもいいわ。わたしは好きに過ごすだけだしっ。そんな面倒な奴らは放っておけばいいのよ」


「そっか……」


 すげえなあ、人の目を気にせずに本当に自分の好きなように生きてる。

 こんなところが、カースト最上位たる所以なんだろうなあ。


 だが、ここで流れが変わる。


「でも、もうちょ~っと話しかけてきてくれても良いんだけどなあ。昔はあんなに仲良かったじゃん」


「!」


 俺の事を試すかのような、「んー?」という少しニヤリとした表情を浮かべるひかり。

 くっ、つくづく可愛いな……!


 それでも、その笑顔の中に昔のひかりが少し垣間見えたような気がして、俺も返しやすかった。


「いやいや、ハードルたけえよ」


「えー、そんな風に思ってんの? わたし、別に変わらないけどなあ。てか逆に、何が変わったって言うのよ」


「いや、それは……」


「ん?」


 目線が合わないように、なるべくちらっとひかりの顔を見る。

 美人になったなんて、言えるわけねー。


「ふふっ、まあいいわ。それよりちゃんと話があったのよ」


「そうなのか。話って?」 

 

「そうそう。エージェントとの事でね。早速協力してほしいことがあって──」


 ひかりはしゃがみ込み、スマホを使って話を始める。

 話を聞きながら、横目ではその可愛い顔をまたじっと見てしまっている。


 必然的に距離が近くなったことで、いかにも女の子というような、ひかりの柔らかな香りがすぅっとただよってくる。

 うむ、これは良い匂い。


 こんな距離で女子と話したのはいつぶりだろう。

 それも相手は学園のアイドル。


 ああ、俺にもようやく春が来たか。

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