少女との出会い

 皆さんこんにちは、鑑定を受けてから9年が経ち、10歳になったカルです。

 そしてこの9年間、僕何もしてません。せっかく転生したのだから最強になれ、とか魔力量が多いなら魔法の練習をしろとか思うかもしれない。

 だけど冷静に考えてみろ。魔力量が多いだけで特に適性があるわけじゃないんだよ。


「ファイアーボール」


 右手には異世界アニメでよく見る炎の玉が現れる。

 その瞬間。

 ──バン。

 こんな感じですぐ弾ける。水魔法でも風魔法でもすぐに弾け飛ぶんだよね。

 だから最強になるとか勇者になるとかは諦めたよ。

 誰かに魔法を教えて貰ったら少しは成長するかもしれないよ?

 でもさ?俺の家の周りに他の家がないんだよね。父さんと母さんも昼間は外に出てて教えて貰えないし。

 それにこの辺りは雑草とか木を切り倒してるからまだ綺麗だけど、30mぐらい家から離れたら草木が異常なぐらい生えてるからついていけないし。

 一応、鑑定受けに行く時に使った道は綺麗だけど、この家とその道を見失ったら戻ってくるのは難しいだろうな。


 さっきも言った通り父さんと母さんは昼間はずっと外に出てるから魔法を教わることは出来ない。夜に頼もうと思ったけど、日中働いてて疲れてるだろうから諦めた。

 1回でも成功させたらイメージが掴めるから出来ると思うけど、アニメみたいにいきなり成功させるのは無理だね。絶対に。

 それにこの魔力量を制御するのも難しい。アホみたいに魔力込めたら今住んでいる家どころか森すら燃えるかもしれん。

 俺の異世界ライフ、想像よりも楽しくない……。


 話を少し戻すけど、近所に誰もいないから友達どころか父さんと母さん以外話したことがない。

 だからこんなふうに独り言が多くなった。前世では独り言は全く言ってなかったぞ?

 それに体も変わったせいか、人格も多少変わったし。前世の俺はこんな明るくないんだけどな。


 そんなことを思っていると遠くから何かの足音が聞こえてきた。

 ──パカラッパカラッ

 馬か?珍しいな、魔獣はよく見るけど動物の足音なんてこの世界で初めて聞いたぞ。

 いや、馬だけじゃないな。なにか引っ張ってる音もするな。


 遠くにいたはずの父さんと母さんもこの家に近づいてくる馬を察知したのか一瞬で戻ってきた。

 なんで俺よりも遠いところにいたのに気づいてるんだ……。

 

「この辺に馬車が来るなんて珍しいな」

「ほんとね、人が来るなんて12年ぶりかしら」


 窓の外には父さんが腕を組み、母さんは右手を顎に当てて首を傾げている。

 あー馬車ってこんな音するんだな。めっちゃ乗り心地悪そうな音だな。

 てか12年前にここに来たヤツいたんだな。ここに来るやつは相当な変人だぞ。

 俺も外に出て父さんと母さんの前に立つ。


「お、カルも気になるのか?」

「だって父さんと母さん以外の人と会えるんだよ?気になるに決まってるよ」


 さすがに10歳にもなったら普通に話せる。

 そんなことよりも俺はすっごいワクワクしてる。10年ぶりに誰かと話すのだ、ワクワクするに決まってる!

 もしかしたら魔法を教われるかもしれないしね!

 ニコニコッと頬を緩ませながら待つこと5分。俺たちの前に馬車が止まった。


 御者が馬車のドアを開けると中からは大人の女性1人と子供の女の子1人が出てきた。

 俺は思わず一歩下がってしまう。

 なぜって?この2人がありえないぐらい可愛いからだよ。

 女性は透き通るような白い髪の毛を腰までおろしており、その髪をさらに引き立たせるような綺麗な緑色な眼。

 さらにこのスタイルよ。胸はでかくてウエストは細く、ケツはスラッとしていて綺麗だ。

 前世にこんな人いたら男全員やられてるぞ……。

 そして女性の後ろからちょこんと顔を出している女の子も女性と同じ髪色で、ショートボブと可愛さを引き立たせている。だが、眼は水色と少し大人っぽさをだしている。これは将来、すごい綺麗な女性になるな。

 それにしてもこの子の顔よ、マジで可愛い!真ん丸な顔、そしてほっぺは見るだけで分かるほどにぷにぷにしてる。あー可愛い。ずっと見てられる。


「なに頬緩めてるのよ」


 あー危ない危ない。危うくあのほっぺた目掛けて飛びつくところだったよ。

 母さんの言葉に我に返った俺は母さんの方を見る、が母さんが見ているのは俺じゃなくて父さんだった。

 母さんの視線に気づいたのか父さんも我に返る。


「いや、あの、あれだ。いい馬車乗ってるなーって」

「うそつき」


 母さんはムッとした顔でみんなにバレないように父さんの服の裾を掴む。

 悪い、俺見えてんだそれ。俺の身長だとそれギリ見えるんだわ。てかここでイチャつくな。

 父さんも満更でも無い顔で母さんを抱きしめるな。相手が困ってるだろ。


「あ、あの、すみません。うちの親が」


 久しぶりに人と話すのに緊張しながらも俺は口を動かす。


「いい家族ね、微笑ましいわ」

「あ、ありがとうございます」


 女性の笑顔を向けられてまた一歩下がってしまう。母さんもかなりの美人だけど、この女性は次元がちげぇ……。

 父さんも冷静に戻ったのか、質問を投げる。


「我が家になにか御用が?」


 なんだよその言葉使い。敬語なのか?いや違う気がする。

 父さんも母さん以外と話すのは久しぶりなのか、あまり慣れて無さそうだ。


「長旅の帰りでして、少し休憩をさせて頂きたいのです」

「そういう事ですか、でしたらお好きなだけお休み下さい」

「ありがとうございます」


 長旅の帰りでこの道を通るのはかなり珍しいと思うが……。まぁいいか、何かあったら父さんと母さんが何とかするだろう。

 女性は御者の方に向いて問いかける。


「あなたはどうします?今ぐらいは休んでいいですよ」

「では、少し睡眠をとらせていただきます」

「あら、そうなの?では、ハイロ。行きましょうか」


 コクっと頷いて少女は女性の隣につく、そして手を繋いで歩き出す。

 母と娘かな?仲のいい家族だなぁ。

 この辺りの魔物は父さんと母さんが潰し回ってるから多分、襲われることは無いだろうな。

 自然も豊かだから楽しんで欲しい。

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