▼断章

 神経接続装置、リンクス。


 それは、私が、あるいは人類の約三割が脳に埋め込んだ、小さなチップの名前だ。


 チップと言っても、大きさは米粒の半分よりはるかに小さい。電子顕微鏡で見れば確かに板状をしているかもしれないが、どちらかと言えば、『脳に埋め込むのはマイクロチップである』という概念でチップと呼ばれている、らしい。


 神経に噛み付いたリンクスは、脳が発生させる曖昧ファジー過剰ビジーな電気信号を、機械が理解できる形に翻訳する。逆に、機械がもたらす厳格デジタルな電流を、脳が受け入れられる形に翻訳する。


 脳と機械をつなぐブレイン・マシン・インターフェース技術の目的のひとつは、『義肢を動かす』ことだった。脳機能の解析とともに進んできた技術は、ある時、ひとつの発見で飛躍する。


 脳は、フィードバックを受けることで、学習する。


 言語も、運動も、そうやって成長するのだから、当然といえば当然のこと。だが、本来の神経活動とは異なる機械からの信号すら学習できるほどに、人間の脳は柔らかかった。


 接続の複数形リンクスとは、脳から義肢への接続と、義肢から脳への接続を意味した。今や、接続は二つでは収まらない。義眼や義耳といった神経再建。神経操作ナックによる拡張現実A R。Webへの接続による有機端末化。噂レベルだけど、他者のリンクスと直接接続する『魂の接続セックス』は、帰ってこられなくなるほどの快感だそうだ。


 ありとあらゆる存在と、脳を、接続する。


 私に、義足あしをくれた技術。私と世界をつなげる技術だ。

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