黄金の戦士ダネカの過去回想
俺はダネカ。
ただのダネカ。
今はただの一町人。
だけどいつかは、世界を救う偉大な勇者になりたい男!
「うおおおおおおおおおおお! 俺はやるぞぉ! 世界中の誰からも尊敬されて世界中の誰からも好かれるような、史上最強の勇者にぃ! なるっ!」
「うるせぇぞダネカ! 今何時だと思ってやがる!」
「すんまっせーん! やべっまだ夜明け前じゃん」
普通に王都で生まれて、普通に両親に育てられて、冒険者を引退した近所のオッサンに剣と魔法を教わって、いつか俺は夢を見た。
最高の勇者になる!
御伽噺の中の勇者に!
俺は欲張りだ。
普通の家、普通の家族、平均くらいのお小遣い、一日一回のおやつなんかじゃ満足できねえ!
欲しいもんは全部手に入れてやる!
一日三回のおやつ!
一日一回のステーキ!
ぴっかぴかの剣!
ぴっかぴかの鎧!
でっかい家!
かわいいお嫁さん!
天才の息子!
ドラゴンとかの討伐!
滅亡する国を救って姫様とのラブロマンス!
夢の冒険者Sランク!
仲間の褒め!
友達の褒め!
女子の褒め!
絵本の主人公化!
街の皆の笑顔!
友達全部が安心して暮らせる世界!
何も悪い事してねえ人達が笑っていける明日!
平和!
やっぱ平和だろ平和!
でも一番欲しいのは、俺のことを全部分かってくれる親友の仲間!
全部!
全部だ!
全部ゲットする!
俺なら、やれるっ!
何故なら、俺はダネカだから!
他に理由は要らねえぜっ!
「親父ぃ! 俺、天下取ってくんぜ!」
「おう! 行って来いやダネカぁ! 夢叶えるまで帰って来んじゃねえぞ! だが夢が叶わなくて泣いて帰って来てもいいからな!」
「サンキュー親父!」
「ここがお前の家だって忘れんじゃねえぞ!」
行ってくるぜ親父ぃ! そうして、俺は旅立った。
そして俺は行き倒れた。
かっこ悪。
気付くと、俺は森に近い泉のそばで、誰かに介抱されていた。
たぶん、俺と同じくらいの歳の、茶髪、茶の眼、茶色い服の子供の男。
『穏やか』って言葉が人間になって歩いてる、みたいな印象があった。
「大丈夫かい?」
俺は倒れてから飲まず食わずが長すぎて、ろくに喋ることもできなかった。
普通に動かせるのは指先くらいのもんだった。
そんな俺に、そいつは根気強く優しく介抱してくれた。
「僕? 僕はまあ、君に似たようなもんかな。はじまりの街チカを目指してる冒険者志望の子供ってやつだよ。君も魔王軍に大人が殺されすぎて、冒険者になる年齢下限が撤廃されたのは知っているだろう? いやあ、世も末って感じだね」
こいつも冒険者志望だと聞いて、俺は俄然燃え上がった。
世界は広い。すっげえやつがいっぱい居る。それは知ってた。
だけど冒険に出ていきなり、俺と同い年くらいなのにこんなにしっかりしてて、大人の冒険者みたいな振る舞いができる、凄すぎるやつが居たなんて。
すげえぜ……世の中! 俺も負けてられねえなぁ!
「うん、冒険者になって勇者の後を追いかけたいんだ。最前線まで行ける実力が欲しい。信じられないかもしれないけど……勇者の幼馴染なんだよね、僕。でも弱っちくて、ついていくことを許されなかった。だから冒険者になって力をつけて、いつか勇者と同じ場所で戦える自分になりたい……はは、なんか情けないなこれ」
「い……いや……かっけ……えじゃねえか……」
「無理して喋らなくていいよ、ありがとう」
「にく……たべたい……」
「そんなことを無理して喋るんじゃない」
勇者の……幼馴染!!!
いや、すっげえな! たまげた。
そういう人間って本の中でしか見たことないから、実際に見るとめっちゃくっちゃにビックリしてしまう。
はぇー。
すげえんだなあ。
俺も世界一凄い勇者を目指してるからな、ちょっとワクワクすんぜ。
「ぱわー……もどって……きたぜ……!」
「ご飯作ってあげるから大人しくしてなさい」
本当に、丁寧な看病をするやつだった。
いや違うな。
この言い方は正しくねぇわ。
他人の扱いが丁寧なやつなんだ、こいつは。
介抱してない時でも他人を丁寧に扱うやつなんだ。たぶんそんな感じ。
水をちょびちょび飲ませてくれた。
塩をちょくちょく口に含ませてくれた。
足の擦り傷とかの手当てもしてくれた。
俺が回復してくると、すっげーやーわらかくしたお粥を食べさせてくれた。
固形物が食べられるようになってからも、気遣ったご飯を作ってくれた。
まっとうに喋れない俺の小さい声を拾って、ずっと俺を助けてくれた。
ああ、こいつに出会わなかったら俺ここで死んでたなあ、とか。
こいつ本当に見ず知らずの相手に親切だなあ、とか。
人を助けること自体好きなんだろうな、とか。
そんなことを思ってた。
「じゃあ、もう寝ようか。たぶん明日には近くの街まで歩いていけるくらいまで回復してると思うよ。うん。君は飢えて疲れて、その上でよく頑張った。偉いよ」
うん。
おやすみ。
ということで、だいぶ回復してからぐっすり眠った、翌日の朝。
「はぁーっ! 完全復活! 足向けてねらんねえなあいつに。ん……?」
俺は、気付いてしまった。
「お、おい、どうした? 倒れてんのか?」
「う……だ、大丈夫、ちょっと立ちくらみしただけで……」
「大丈夫って顔色じゃねえぞ。ちょっと待て、何か食……」
俺は気付いちまったわけだ。
ぐぅ、とそいつの腹が鳴る。
空っぽの食料箱。何も入ってない袋。食料なんて残ってないバッグ。
大きめの水筒も空っぽで、こいつの荷物には食べ物も水も残ってなかった。
俺はそいつをじっと見た。
かっさかさの唇。
悪い顔色。
かすれた声。
立たない足腰。
なあ、おい。
こりゃ、ちょっと前の行き倒れる前の俺の症状そのまんまじゃねえのか?
考えてみりゃ分かる話だった。
二人分の食料を持って一人旅するやつがいるわけねえ。
荷物の重さが倍になるだけだ。
一人旅のやつは、一人分の食料しか持たないで旅してるもんだ。
なら。
こいつは、何を俺に食わせてた?
「お、お前っ……自分が食べる分の食料も水も全部俺にやって、飲まず食わずで俺を看病し続けて、そのせいで倒れたってのか!?」
「いや、ははは。いけると思ったんだけどなあ。でもほら、食料だけ置いてっても君は動けそうになかったし……他に選べる方法って無いなって思ったから……元気になって良かったなぁって思えたから、まあ、いいかな」
気付いて気付いたわけだ、俺は。
こいつがマジのマジのホンモノだったということに。
いや、すげえわ。
「……」
「バッグに地図が入ってるから、持って行って。地図を頼りに行けばはじまりの街チカまで迷わない、はず。僕は一休みしたら大丈夫だから、先に行ってて」
「……お前な……」
「君が心配するようなことはないから、大丈夫」
「……」
その時俺は、ビビっと来たのだ。
こいつが、運命だと。
こいつが、最高だと。
俺の伝説の1ページ目は、こいつと出会うところから始めてえと。
「うん、決めた! いや違えな! お前しかねえ! お前がいい!」
「え、何? 何々何の何?」
「お前が俺の相棒だ! 頼むぜ相棒、俺のダネカ伝説の1ページ目に載ってくれ!」
「生まれて始めて聞くタイプの勧誘文句なんだけど何!?」
「俺の名前はダネカ! 9歳! お前の名前はなんだ!? 教えろよ、相棒!」
「……はぁ。キタ、9歳。これでいい? というか突然仲間って君ね」
俺はキタを背負い、荷物を全部持って、走り出した!
明日に向かって! とかそういうのは特に無く。はじまりの街に向かって。
「ちょ、何!?」
「大人しく乗ってろ! 街の医者のとこまで連れてってやる。助けてくれてありがとうな! はじまりの街カチカチまで一直線だ!」
「はじまりの街チカだよ!」
「全力疾走だ、街まで一回も休まねえぞぉ!」
「方向逆逆! そっちは荒野と海しか無いって!」
「俺の上に乗ってんだからナビしろや! 地図持ってんだろ!」
「あーもう!」
そう、こいつが! 俺がキタを背負って走るこの姿が!
俺とキタの超究極伝説的英雄譚第一巻の表紙になるシーンだ!
うおおおおおお!!!
「速い速い速い! なにこれ!? 君って僕と同い年の子供だよね!? 二人分の荷物と僕を抱えてこの速さってうわっ怖い怖い怖い! 木の枝がすごい勢いでめっちゃ肌かすった! なんだこの身体能力、カイニみたいなっ……!」
「なぁキタぁ! お前、勇者を守りたいんだよなぁ!」
「そ、そうだけど! 僕はまだ全然弱くて、だから強くならないといけなくて」
「でもよ、追いかけようと思って村飛び出したんだろ!? 男だよ、お前!」
「……そうだよ!」
「俺もしてぇなぁ、たった一人の女のために無茶するってやつ!」
始まりの日に、俺はあいつを尊敬したんだ。
「かっけぇって、誰も言わなかったのか! 村のやつとかよ!」
「『無理だからやめろ』って言われたよ! 僕も割とそうだと思った!」
「じゃあ俺が言ってやるよ! お前、かっこいいぜ!」
「……ありがとう!」
だってよ。弱っちいくせに女のために頑張る男と、そいつのヒロイン。
まるで主人公じゃねえかって、そう思ったんだ。
俺は英雄譚が好きだ。主人公が好きだ。勇者が好きだ。かっけえからだ。
かっけえやつらは、まず踏み出すところから始めるからだ。
「女がよ、『世界を救ってくるから故郷で待ってて』って言って、言う通りに故郷で待ってるやつは男じゃねえよなぁ! やっぱ追いかけねえといけねえよ! 俺だったらよ、惚れた女が俺の知らないところで死んでるなんて耐えられねえ! どっかで運悪くくたばっちまう可能性があっても、惚れた女を追いてえよな!」
「言い過ぎだろ! 大抵の人はそこで待ってていいんだよ! 普通は!」
「じゃあお前は普通じゃねえんだろ! 俺の相棒にふさわしいぜ!」
「……うっさいな!」
「光の女神ってのはよ、伝承だと進み続けるやつに特別な運命を与えるって話らしいぜ! お前もしかしたら、光の女神に気に入られてるかもしんねえぞ! 女を追って無様に死んだ男が十人中九人いてもよ、お前みたいなやつだったら、女に追いつける最後の一人になれたりするかもしれないぜ!」
「御伽噺だろ、そんなの! ……確証なんてないから、不安なんだ! 追いかけたって追いつけるのか、僕にできるのか、そんな風に考えたらいつも……」
「違え! 御伽噺じゃねえ! 伝説だ! 英雄譚だ!」
あいつが俺を助けてくれて、俺もがむしゃらにあいつを助けて。
「俺とお前で、そいつを作るんだよ、これから! 魔王でも倒しに行こうぜ!」
「はぁっ!?」
「そういやよ、今のはじまりの町にはカエイちゃんっていうすんげえ美少女が居るらしいぜ!? 告ったら俺のお嫁さんになってくれると思う?」
「話が無軌道! っていうかはじまりの街の名前は覚えてなかったのにはじまりの街に居るっていう美少女の名前は覚えてるってどういうことだよ!」
「一回名前聞いたら覚えるだろ、可愛いっていう女の子の名前なんて」
「そんな流れで覚えたことないんだよ……!」
俺とあいつの、二人の
俺達は、あそこから始まったんだ。
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