SS-2 姉の闘い①

 尋常に勝負。


 などと生易しいことは通用しない。


 剣閃が先程まで居た場所を無慈悲に切り裂いてみせる。



「他にも仲間が居ないとも限らん。すぐに済ませるのはこちらこそ望むところ!」



 一息で二回、いや三回の斬撃が見舞われる。


 通常の片手剣よりかは幾分細身。


 ある程度は軽量化されてもいようが、振り回すのではなく斬撃を見舞えるのだから中々のものだ。


 とは言え、当たるはずも無い。


 ローブに届かぬ寸前を見切り躱す。


 追い縋るように斬撃が執拗に続く。


 そのどれもが掠ることすら無い。



「僅かに当たらない、いや、見切られているのか。相当に強いらしい」


「ただ避けただけよ?」


「容易くやってのけるから脅威なのだ」



 攻撃が変わる。


 線から点へ。


 斬撃は刺突へと変じ、速さも数も段違いに。


 ほぼ同時にすら思える突きの連撃。



「これも避けるか」



 届かない。


 それすらもまた、この身には届き得ない。


 僅かな距離の間には、埋められない隔たりが存在する。



「高位の魔族らしいな」


「自分を買いかぶり過ぎじゃない? それほど強くないわよ、アナタ」


「この聖都において、魔物も魔族も、力は減衰する」



 そんな力まであるの?


 精霊だけでなく、魔物や魔族にまで影響を与える存在。


 本当に何が居るのかしら。



「剣では不足か。なら――」



 剣を鞘に納めると、何を思ったか鞘ごと地面に置き捨てた。


 突然の奇行。


 何かをするつもりではあるのだろう。


 でも準備が整うのを待ってあげる筋合いはない。


 背に隠した六角鉄棒を握り、相手の動きを待たず胴体を突く。



≪召喚≫



 いや、突きが途中で止められた。



「互いに得手は長物か」



 いつの間に?


 相手の手には金と銀で精緻な意匠が施された円錐状の槍が握られていた。


 その穂先で棍が押さえ込まれている。


 先程までとは速さが違い過ぎる。


 不意の一撃。


 それをアタシよりも後から応じてみせたのだ。



「少しは驚いたらしいが、まだ力の一端も披露はしていない」



 大した力量、そして技量だ。


 押すことも引くこともできない。


 ならば手放すまで。


 力の均衡が崩れ、相手の身体が手前側へと倒れ込む。


 迎えるように蹴りを合わせる。



突撃チャージ



 相手が選択したのは、回避や防御ではなく攻撃。


 棍を弾き飛ばし、穂先を突き立てんと迫る。


 だが見えている。


 蹴りの下を掻い潜っての一撃。


 蹴りの角度を調整。


 槍を下へと叩きつける。



「クッ、何て動きを」


「想像は超えてた。でも力不足ね」



 今度こそ胴体を蹴り飛ばす。


 一歩目で棍を拾い上げ、二歩目で相手へと迫る。


 僅かの隙にチラリともう一つの闘いを見やる。


 騎士たちが勇者を庇い、吹き飛ばされてゆく。


 優勢。


 加勢は不要そうだが。


 これは実戦。


 万が一にこそ備えておくべき。


 視線と意識を戻す。


 相手は未だ宙を舞っている。


 余分を挟んだため、僅かに届かない。


 三歩目、地面が割れる。


 これで決める。


 大跳躍。


 鉄棒を打ち出す。


 狙い違わず。


 女騎士が近くの建物へとめり込んで消えた。



「今のにも合わせてくるとは、ね」



 衝突する寸前、槍を盾代わりにしてみせた。


 人族にこれほどの猛者が居るとは驚きだ。


 魔法が使えなくとも、力を技を鍛えてみせたのか。


 母の語る父の姿のようでもある。


 少し誇らしい。


 と、そんなことより弟君を。






 時間切れ。


 魔装化まそうかには魔力を消費する。


 ブラックドッグと弟君の魔力が枯渇したのだろう。


 勇者の剣が弟君へと迫る。


 鉄棒でそれを受け止める。


 アタシが居る限り、弟君には傷を負わせはしない。


 今すぐにでも勇者を叩き伏せたい衝動に駆られる。


 抑える。


 堪える。


 決着は弟君の手で。


 そうでなくば、きっと心が壊れてしまう。


 でもやっぱり頭にきたので、地面へと叩き伏せておくことにした。





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