第19話 ドスケベな2人

 俺と育実ちゃんは、まだ付き合って間もない。


 それなのに……いきなり、こんな形で引き裂かれるなんて……


『GWは家族で旅行に行きます♪』


『えっ』


『よっくんは?』


『いや、我が家もそんな話が出ているけど……でも、出来ることなら、育実ちゃんと一緒に過ごしたいなって』


『よっくん、わたしもそう考えていた時期がありました』


『えっ』


『でも、ごめんね……わたし、我慢できないの』


『な、何が……』


『だって、旅行先で、出会えるから』


『で、出会える? だ、誰と? まさか、公然と浮気宣言? いくら、君の性欲が強いからって……』


『違います、バイキングです』


『はい?』


『高級宿で高級バイキング~♪ 今回は、お父さんが奮発してくれるんだ~♪』


『バ、バイキング……つまりは、食欲ってことですか?』


『うん、そうだよ♪』


『性欲よりも、食欲が勝ったと』


『だって、よっくんのソーセージはいつでも食べられるけど、高級バイキングはもう食べられないかもしれないし』


『何だか、すごい敗北感だよ……この前、あれだけ気持ち良さそうに叫んでくれたのに』


『ふふふ、よっくん。会えない時間が、むしろ2人の絆を深めるんだよ』


『もう頭のなかバイキングのことでいっぱいでしょ?』


『もちろんだよ』


『はぁ……悔しいけど、仕方ないね。家族で過ごす時間を、邪魔はできないよ』


『えへへ、ありがとう』


『その代わり、お土産を期待しているから』


『オッケ、何が良い? 食べ物で良い?』


『いや、そうじゃなくて……』


『んっ?』


『美味しいバイキングを食べて、まるまると肉づいた育実ちゃんを……食べたいなって』


『よっくん、それ絶対にわたし以外の女子に言っちゃダメだよ?』


『いや、言わないし。俺の彼女は……育実ちゃんだけだから』


『やば、漏れそう』


『はっ?』


『あ、間違えた、濡れそう』


『同じような意味だけど……』


『もう、よっくんてば、本当に変態さんなんだから♡』


『育実ちゃんもね』


 そんな訳で、俺と育実ちゃんは付き合って早々、1週間ほど離れ離れになってしまう。


 正直、悲しいけど、落ち込んでいても仕方がない。


 この期間に、俺も家族と過ごしつつ、男を磨く。


 その方法は……オ◯禁だ。


 スマホで検索したのだけど、オ◯禁をすると、テストステロン、つまりは男性ホルモンなんだけど。


 その値が高まって、イケメンになれるらしい。


 まあ、たった1週間で、そんな劇的な変化はないだろうけど……


『じゃあ、1週間たっぷりと溜めたよっくんの……わたしに注いで、なんちゃって』


 ……やば、その文面を思い出しただけで、ちょっと漏れそうだ。


 いかん、いかん、今の俺は菩薩にも等しい。


 そもそも、家族の前でそんな、はしたない真似はできない。


「いや~、やっぱり混んでいるな~」


「仕方ないわよ」


 両親がそんなやりとりをしている。


 ちなみに、我が家は高級とまでは行かないけど。


 それなりに良い、温泉宿に行くことになっている。


 その時、ピロン♪とスマホが鳴る。


 育実ちゃんから、メッセが届いた。


 向こうはもう、高級ホテルに到着したのかな?


『え~ん、渋滞だよ~』


 泣き真似をしているくせに、思い切り笑顔のピースサイン。


 ちなみに、着ているのはTシャツだ。


 まあ、初夏だし、仕方ないけど。


 ちょっと、谷間が……見えそうじゃないか?


『育実ちゃん、ちゃんと羽織る服はある?』


『んっ? まあ、一応あるよ』


『じゃあ、外に出る時は、ちゃんと着てね』


『なになに、よっくん。そんなに心配なの?』


『いや、だって……いま写真で見たけど、育実ちゃんクソほどエロいし』


『あはは、エロいのはよっくんでしょ』


『そんなことは……』


『ていうか、そっちも渋滞だったりする?』


『うん、まあ』


『ふぅ~ん……じゃあ、暇つぶしにゲームしちゃう?』


『良いけど、何をするの?』


『ベタにしりとりは?』


『良いよ』


『じゃあ、リンゴ』


『ごま』


『マンゴー』


『あれ、この場合って、ゴで良いの?』


『うん』


『じゃあ、ゴム』


『え、どっちの?』


『いや、どっちのって……普通の輪ゴムのことだよ』


『本当かな~?』


『育実ちゃん、性欲が過ぎるよ』


『じゃあ、もういっそのこと、エロしりとりにしちゃう?』


『それ禁止用語ばかりにならない?』


『大丈夫、エロく聞こえるワードに留めるから』


『例えば?』


『そうだなぁ……ぎちぎち』


 写真が添えられる。


 育実ちゃんが、自撮りしつつ、もう片手で胸をギュッと押し寄せている。


 谷間が……!


『……参りました』


『はやっ! ちょっとくらい、がんばってよ』


『そんなこと言われても……』


 俺はう~ん、と唸る。


善和よしかず、どうしたの? もしかして、トイレに行きたいの?」


「いや、母さん、これは……」


 確かにいま、ある意味でめっちゃトイレに行きたいけど。


「……へ、平気だよ」


「次のパーキングで休憩しよう。まあ、いつたどり着くか分からないけどな、ハハハ」


 父さんは愉快そうに笑う。


 俺も愛想笑いをしつつ……


 ふと、自分の股間に目が行く。


 性欲が強い彼女のせいで……


『……ギンギン』


『……って、しりとりになってないでしょ』


『じゃあ、直接に表現しちゃっても良いの? 『ち』からでしょ?』


『うっ……ちなみに、写真とか送れる?』


『え、もしかして、見たいの?』


『べ、別に、そこまでじゃ……』


『じゃあ、やめておこうか。いくらカップル同士のやりとりとはいえ、最近は流出が怖いし』


『まあ、そうだけど……』


 表情は見えないけど、育実ちゃんは明らかに、物欲しそうにしている。


 その表情が、俺には手に取るように伝わって来た……


『……企業秘密だよ』


 俺はこっそり写真を撮って送った。


『うわ、すご……これ、もしかして、わたしのせい?』


『うん、そうだよ』


『やばぁ……何cmあるか、今度計らせてよ』


『えぇ~、恥ずかしいな~』


『良いじゃん、わたしは胸のサイズを教えてあげたんだから』


『まあ、そうだね。でも、俺たちは成長期だからさ。育実ちゃんのも、改めて計らせてよ』


『ド変態』


『そっちもね』


『はぁ……ちょっと、後悔しているかも』


『えっ、この一連のやりとり? 確かに、流出したら黒歴史が確定するけど……』


『そうじゃなくて……やっぱり、家族旅行に来ないで、よっくんと……ううん、何でもない』


『育実ちゃん……お互い、いっぱい溜めておこうね』


『うん……でも、正直、ちょっと自信ないかも』


『まあ、ぶっちゃけ、俺も……既に爆発しそうだし』


『ちょっと、車の中ではやめなよ? 親に迷惑がかかっちゃうし』


『分かっているよ……でも、次のパーキングエリアのトイレで、個室に駆け込みたい自分がいる。


『このエロ助め。混んでいるんだから、ご法度だよ』


『そうだね。旅館でも、何だかんだ家族の目があるし……』


『リラックスするための旅行のはずが、何だか……禁欲修行みたいだね』


『うん、お互いに』


『本当に漏れたら、どうしよう』


『その時は……後で慰めてあげるよ』


『やっぱり、よっくん、ド変態だわ』


『何で? 今のはまっとうな優しさでしょ?』


『ううん、やらしい。色々な意味でね』


『何だよ、もう』


『あ、そろそろ車が動きそうだし、酔うと悪いからこの辺で』


『うん、そうだね。これ以上、ドスケベな育実ちゃんと話していると、本当に爆発しそうだよ』


『うるさいよ、ドスケベなよっくんめ♡』


 俺はようやく、スマホをポッケにしまう。


「よーし、動いたぞぉ」


「やっとだわ~。善和、トイレは大丈夫?」


「うん、まあ……ギリギリ」


「まあ、いっぱい溜めた方が、勢い良く出て気持ち良いだろ、ワハハ」


「ちょっと、お父さん。下ネタはやめてちょうだい」


「いや、別に下ネタじゃないだろ。なあ、善和?」


「あはは……」


 育実ちゃんのエロさで暴発寸前だったけど、父さんの寒いギャグで鎮火した。


 センキュー。




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