第12話 育実視点⑤

 夜。


 ベッドに寝転がりながら、わたしはウズウズとしていた。


 放課後、彼と2人きりで、プチデートみたいなことをして。


 彼のことを、しっかりと好きだと自覚して。


 芽生えるこの感情は……


「…………」


 ベッドの上で起き上がると、おもむろに自分の体に目を落とす。


 相変わらず、ぽっちゃりしている。


 しかも、今日はドーナツをたくさん食べちゃって。


 好きな人の前なのに……恥ずかしい。


 でも……そんなわたしのことを、君も……なんて。


 よくよく考えると、ちゃんと彼に好きって言ってもらっていないんだ。


「……峰くん」


 切ない、もどかしい……会いたい。


 明日になれば、また学校で会えるのに。


 たった一晩が、我慢できなくなっている。


 どうしよう、おかしな気持ちになっちゃう。


 また、ふしだらな自己処理にふけっちゃうかも……


「……そうだ」


 わたしはおもむろにスマホを手に取る。


 そして、ベッドの上で、自撮りをした。


 パシャリ、と。


 ピースサインを決めて。


「……はずっ」


 すぐ我に返る。


 全く、何をやっているんだか。


 大した美少女でもない、ブタ女のくせに……みっともない。


 けど、そんなわたしのことを……


「……えいっ」


 思い切って、送ってみた。


『……あたしって、太っているかな~……なんて』


 ていうか、ロクにオシャレもしていない。


 パジャマ代わりのラフなTシャツ姿のショット。


 これ、ちゃんと需要あるのかしら?


 でも、こういう生っぽいのが、1番ウケるかな~って。


 ちょっと不安だけど、彼に送ってみたのだ。


 ドキドキ……


 ピロン♪


 ビクッ。


 き、来た。


『まあ、失礼ながら、決して痩せてはいないと思う』


 こ、この野郎ぉ~。


『うう、やっぱりデブなのかなぁ?』


 わたしは胸の内でシクシクと泣きながら、また問いかける。


『いや、違う……その、怒らないで聞いてね?』


『なに?』


『……正直に言って、たまらないボディだよ』


 一瞬、ポカンとしてしまう。


 直後、ボカンと頭が爆発しそうになった。


『女子は、細い方が良いって思うだろうけど。男目線から行くと、むしろ、俵田さんくらいのボディが……最高です。だから、自信を持って』


 あぁ、峰くん……


 この文章からもう、君のスケベ心が……


 ううん、わたしに対する情熱が、伝わって来る。


 ねえ、これってもう……そういうことだって、受け止めても良いんだよね?


『峰くんって……実はエッチだよね?』


『うっ……ごめん』


 ふふ、可愛い。


『……まあ、嫌いじゃないけど、そういう男子のこと』


『ほ、本当に?』


『うん、まあ……あたしのこと、少しは魅力的に思ってくれている……ってことだよね?』


『いや、ちょっとどころじゃない。だいぶだよ』


『ふふ、何よ、それ』


 あぁ、もう……たまらない。


 峰くん、絶対にわたしのことを……だよね?


 そして、わたしも君のことが……


『ねえ、あのさ……今日の買い出しって、何かちょっと……デ、デートみたいだったよね?』


 我慢しきれず、わたしの方から攻めてしまう。


『えっ? ああ、うん……そうだね』


 この反応は……どうなんだろう?


 ええい、もう行くしかない。


『でも、どうせなら、もっとちゃんとしたいよね~……なんて』


 言っちゃった……


 さて、峰くんのアンサーは?


『じゃあ……しちゃう?』


 おっ?


『……良いの?』


『うん。ご存知の通り、俺って友達がいない、ボッチだから。休日はいつだってヒマだし』


 ああん、もう。


『ふふ、またそんなこと言っちゃって……じゃあ、約束通り、あたしの胸……貸してあげようか?』


 わたしは自分で胸を揉みながら言う。


『そんな優しいこと言われると、俺……本気にしちゃうよ?』


 やだ、この子ったら。


『もう、峰くんってば、意外とチャラくない?』


『おい、それは聞き捨てならない。俺をそんな連中と一緒にするな。俺は……』


『俺は……なに?』


『……いや、今はやめておくよ』


『え~、気になるぅ~』


『じゃあ、今度のデートまで……楽しみにしておいて』


『……うん、分かった』


 そして、わたしは最後に、またサービスをしちゃう。


 大好きな彼に。


 いつもジッと見ている、このおっぱいに手を置いて、悩まし気なカメラ目線で。


 パシャリ。


 送信……っと。


『……ドキドキして、眠れないかも』


 素直な気持ちを添えて。


『……俺の方こそ』


『ふふ、やっぱり、チャラい。隠れチャラ男め。確か、峰くんみたいな人、ロールキャベツ男子って言うんだっけ?』


『俺はそんな肉の塊ではない』


『こら、誰に向かって言っているの? あと、どこを見ているの?』


 責める口調ながらも、わたしは終始ニヤついている。


『いや、見ているというか、見せつけらているというか……』


 バレたか☆


『もう、峰くんのバカ……おやすみ』


 そして、やりとりを終える。


 何だか、ドッと疲れた。


 すごく楽しかったけど……好きな人と話すって、こんな感じなんだ。


 初恋だから……ようやく知った。


 わたしは再び、ベッドに寝転がる。


「……ちょっと、スッキリしないと」


 峰くんも、さっきのわたしの写真をオカズにしていたりして……


 そんな彼のことを思い浮かべながら、わたしも声を我慢しながらスッキリした。





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