第三章 6話 泥沼ファイトクラブ

 突如目の前に現れた謎のドブネズミに呆気にとられた三人であったが、次第に周りの状況が飲み込めてきていた。自分たちを囲むように展開されている金網の奥には多くのネズミたちが所狭しと座り込み此方を伺っていた。金網越しに見るネズミたちはまるで何かを期待しているかのように騒ぎ立て、その様子はまるで…


「闘技場ってわけか…」


「って事は私達はこの状況ですと…」


「チャレンジャーって事か!?ふざけたネズミ野郎だな!お前が降りてこいデカブツ!」


そのやり取りを聞いていたドブネズミは立ち上がり大声でまくし立てる。


「ネズミ野郎とはなんだ無礼な!我輩のには”下水道魔王“という高貴な名があるのだぞ!!!」


「魔王だぁ!?なんだその大袈裟な名前は、ネズミ大将とかがいいとこだろお前。」


「ムガッ!?なんだ貴様…聞いていれば人間の癖に無礼にも程があるぞ!!!…おい!!!門を開けよ!!ショーを始めるぞ!!!出てこい!!」



ネズミ王が手を軽く2回ほど叩くと正面の鉄でできた扉のような物が重い音を立てて相手行く。すると奥の暗闇から二足歩行の槍や木槌で武装したネズミが5匹ほど出てきた。観客ネズミ達はヤジと思わしき鳴き声をあげたり、金網を揺らして煽ったりと場内は異様な熱気に包まれている。


「なんかもうよく分からんな…」


「まぁでもぶっ飛ばしゃあ解決なんだろ?単純そうで良いじゃねーかよ。」


「倒したとしてもあの魔王とかいうの倒さないとなんの解決にもならないじゃないですか…」


「だからそれもぶっ飛ばしゃ良いじゃんよ?」


「はぁ…呆れた…これだから男の人は…」


「お喋りはそこらにしな、とりあえずコイツらを捌いてからどうにか考えるしかないだろ。」


一行は飛びかかってくるネズミ達に向かっていった。




 あれから一時間程経ったであろうか。辺りは血と何の物か判別の出来ない臓器や肉片と死体が入り乱れていた。ひしゃげたネズミの死体や先程の通路にいた犬のような化け物の死体も散らばっており、正に其処は死屍累々となっていた。そしてその中心に三人は立っていた。三人は身に纏う服の大部分をを血で汚しながら、息を荒らすことも無く立っていた。一人はコートについた血に顔をしかめながら、一人は大鎌についた血を払いながら、一人はめんどくさそうに首を鳴らしながら。

チャレンジャーだった筈の人間達の強さに次第に恐れをなしたネズミ達は今や恐れから静まり返りつつある。


「雑魚でもこんだけ多いと流石に面倒だなマジで。」


「白衣…捨てた方が良いですねここまで汚れちゃうと…」


「マージで最悪だな本当…シャワー浴びたいな冗談抜きで。」


充満する異臭と血の匂いにうんざりとした三人に対して下水道魔王魔王は慌てるように叫ぶ。


「何故だ…何故だ!!!貴様ら何者だ!!!何故そんなに強いのだ!!!!」


「ただの探偵。」


「ごく普通の一般ギャングだが?」


「普通のギャングって何ですかそれ…私はただの医者です。」


「なんだ!?なんなんだ!!!!こうなれば仕方ない…アレを出せ!!!」



魔王の一言に静まり返っていたネズミ達が騒ぎ出す。中には急いで逃げ出そうとするネズミも見受けられる。しばらくすると地響きのような微かな揺れを感じることができた。次第にそれは大きくなり、次の瞬間目の前の鉄の扉が強く開かれた。

そこに現れたのは4メートルはあろうかという程巨大な二足歩行ネズミであった。しかしそれはあまりにも大きく、ネズミというよりかトロールや鬼と言われた方が納得がいく程であった。両手両足には枷と鎖が付いているがいずれも千切れており、片手には鉄パイプを強靭な力で無理矢理捻り纏めた鉄の棍棒を携えている。



「でっっけぇ!!!なんだアイツ!!!」


「最悪。」


「やばそうなんですけど…」


「ギャーシャッシャッシャァ!!!本当は地上侵略の奥の手の最終兵器としてとっておきたかったが仕方があるまい!!やれ巨人よ!!奴らを捻じ伏せろ!!」



巨大ネズミが大地を揺らす咆哮を上げこちらに突進してくる。棍棒を一振りするだけで旋風が巻き起され、地面が砕け付近に散らばっていた死体が飛散し飛び散っていく。そんな暴風雨の様な攻撃をかわしながら彼らは少しずつ攻撃を加えていった。しかし巨大ネズミの肉体は非常に硬く、ボスや探偵の打撃は勿論のこと、大鎌の斬撃でも表面を削る程度にしかならなかった。


「くそっ!!バカ硬てぇなぁコイツ!!!こりゃキリがねーぞ!!どうすんだ!?」


「これだけのパワーの攻撃…当たったら終わりだと流石に近づきにくいですね…」


「奥の手使うにはまだ惜しいしな…どうすっか…」


三人が攻めあぐねていると、突如として後ろの鉄の扉が吹き飛んだ。三人が咄嗟に避けると分厚い扉はそのまま巨大ネズミに激突した。自動車が正面衝突したような鈍い音が響きその巨体が宙に舞い倒れる。

扉を吹き飛ばした元凶の方へ目を向けてみるとそこには奇妙な人型が立っていた。全身を鋼鉄に覆ったその姿は、青を基調としたシャープなデザインが施されており、目の部分にあたるバイザー部分は紅く輝いている。いわゆるパワードスーツに身を包んだその人間はこちらへ歩み寄り、ヘルメットを外した。


「お前ら!!待たせたな!!正義執行だ!!!」


そこには民間人を助けに向かっていた万屋が立っていたのであった。


to be continued…

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