第三章 3話 マンガン王国


 探偵、ギャングボス、女医の三人が汽車を乗り継いでたどり着いた場所は大陸の北側にある娯楽の国、マンガン王国の首都テンホーである。

食と娯楽の王国であるこの国は、オルガムートに次ぐ大国である。国の至る所に飲食店街が形成され、ありとあらゆる美食を味わうことが出来る。

また、娯楽面も凄まじく、カジノやサーカス、レース会場に闘技場などなんでもある。まさにこの世の娯楽を掻き集めたようなテーマパークのようなこの国は今日も人々でごった返していた。



「しっかし此処はすげーなぁ!!ダステルとはまた違ったどんちゃん騒ぎだ!観光で来れたら最高なんだがなぁ…」



そう言いつつも片手にはちゃっかりと露店で買った揚げ巻きを持ち、ガツガツと食べている。そんなボスを横目に観ながら地図を確認している探偵は周りを見渡す。人混みに紛れながらも地図を辿っていくと、一際目立つ豪華な屋敷で指が止まった。周りの煌びやかな店や施設の中でも異彩を放つ豪華絢爛なその屋敷は、この街の中央にそびえ立っていた。

巨大な鉄の門の横に備えられている呼び鈴を鳴らすと監視カメラの無機質な目がこちらを見定める、しばらくするとスピーカーから声が聞こえてきた。



「お客さんかね?」


「オルガムート帝国秘書よりこちらに来るように伝えられました。」


「おぉ!チミ達が秘書君の言っていた者か!今そちらへ向かう、少し待ってくれ。」



そうやり取りすると、門がひとりでに開き、しばらくすると遠くからでもはっきりと判別できる異様に大きな男が歩いてきた。



「いやいや、待たせてすまないねぇ…私がこの屋敷の主人だ、よろしく頼むよ。」


「でっけぇ…山みてぇだな…」


「なんでさらっと失礼な事言ってるんですか…」


目の前に現れた男は一言で表すならば「山」であった。服越しでも分かるほどの肩や腕の筋肉もさながらだが、何よりも身長が高かった。横で驚いているギャングのボスが190cm前後なのを考えてもそんな彼が見上げる形になる程である。

そんな男の壁のような背中についていきながら、一行は部屋へと誘われた。大理石の床で出来た部屋は豪華な雰囲気を感じさせる作りになっていて、壁や棚には色んな物が飾られていた。革張りのふかふかのソファーに腰を掛けた三人に目の前の巨漢は話し出す。



「自己紹介が遅れてすまないね、僕はこの王国で地主兼土地貸しをやっている者でね、この国でひと旗挙げたいなら僕のところにくると良い。」



そう言って名刺を交換した。その後土地貸しは懐から葉巻を取り出して尋ねる。


「チミ達は煙は大丈夫かね?」


「支障無い。」


「大丈夫です。」


「かまわねぇぜ。」


「ありがたい、こんな状況だから吸わないと落ち着かなくてね…」



そうして高級そうなラベルが巻かれていた葉巻の先端を切り落とし、火を着けてゆったりと吸い味わうように吐き出した。部屋内に芳醇な香りが漂いだす、そして地主は煙を吐き出しながら説明した。


「──そろそろ本題に入ろうか、今回行方不明者として確認されているのが5人。この道をなぞるように攫われている。」


地主が卓上の地図をなぞりながら示す。


「目撃者もなし、現場には少し異臭がする。秘書君から聞いていた他の街の事件内容と一致するねぇ…行方不明者の共通点は特に見出せない…しかも僕の古くからの友人も行方不明になっている…彼が無事か心配なんだ…」


心配そうに語る彼を見た三人は彼が疲労している事が容易に見て取れた。全員で思う限りの案や犯人像を絞り出してみるも、いかんせん材料が少なすぎて話が発展しない。そんなこんなで一時間程が経過しようという時にふと、屋敷に呼び鈴の音が鳴り響いた。地主は少し駆け足でモニターに近づき対応していた。しばらくすると地主は三人の元へ戻ってきて内容を告げる。



「今から来るのはこの街の万(よろず)屋の男だ。コレとは別の件で何日か前に依頼を出していてね、彼も古くからの友人なんだ。彼もこの事件については知っているから隠す必要はないよ。」



地主は三人に新たに人が来るという小さな謝罪にそれぞれ軽く答える。少しして部屋のドアが大きな音を立てて開け放たれる。



「地主のおっさん!あいつらは見つかったか!?って……んお?この人達は客か?」


今しばた入ってきた黒髪のツンツン頭の男は入ってくるなり知らぬ人が居るのに気がつき言葉の勢いを急速に落とした。


「彼らは他の街でも同様の事件が発生していたために集まって話し合っていたのだ。隠す必要は無いから大丈夫だよ。」


「なんだそうだったのかよ…俺はこのおっさんの知り合いでこの王国で万屋をやってるもんだ!よろしくな!」



万屋はテーブル前で思考していた三人の前に行き、握手を交わした後名刺を渡した。



「…と挨拶はこの辺にしておいて万屋君、別件の調査依頼はどうだったかね?」


「あぁ、調べたんだがあの周辺にやっぱり魔物が通った跡があった、近くに住み着いてる可能性が高いな。」


「魔物?」


「おや?チミ、生まれは?」


「え?はい、オルガムート帝国南部の宿場街です。」


「なるほどな、帝国生まれならあんまり聞くことはないのかもしれん。」


女医の返答に、うむと小さく唸り、納得をした。


「若者には馴染みが無いかも知れぬなぁ…名の通り人ならざる魔の物、かの時代、『魔王時代』より続く、獣や悪魔などの人に害をなす類の者だ。」


「街や国の間を往来出来る汽車が完成してからそれなりにはお目に掛からなくなったらしいが、それでも人里離れた場所や治安の悪い街なんかには未だにゴロゴロいるだろうな。」



 魔物とは凶暴な獣や、なんらかの要因によって生み出された自立兵器、魔法生物の事を指す。基本的には人間に対して被害を及ぼす者なので、国や地主などが依頼を発注し、冒険者などに任せるのだ。



「ダステル街にもたまに出てくっから俺らで駆除したりしてんだ。」


「街の近くで発生されると住民に危険が及ぶ可能性があるからね、我々で駆除してるんだ。」


「なるほどぉ…」


「…彼処に魔物が住み着いてるとなると…めぼしいのはあの用水路ぐらいだな、また調査に行ってくれるか?」


「マジかよ!?あそこ臭ぇし汚ねぇし入りたくないんだよ…私兵に頼めよ…」


「まぁ今度旨い店連れてってやるから頼むよ…」



魔物についてやり取りをしていた時、ふと探偵は地図をなぞり出す。そして探偵の頭に電流が走った。そしてすぐさま他二人と地主に指示を出す。


「医者は秘書にソウレスとオルガムートの地図を用意してもらってくれ。大将は部下にこないだの掃除作戦で使った地図を持ってきて貰ってこい。地主さんは今から言う地図を用意できたらしてほしい。」


「??…分かりました!」


「分かった、用意しよう。」


「おっおう?一体何がわかったんだ??」


「犯人の居場所が分かった可能性が高い、今から説明しよう。」




to be continued…

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