第一章 最終話 ライブの行末



 ここは帝国劇場、ライブ開始まで2時間を切っても会場は騒ついて動揺と不安が渦巻いている。

それもそうだ、人々は今朝配られた新聞を握りしめてファン同士であれやこれやと議論している。本当に失踪してしまったのか、原因は何なのか、根も葉もない理論や噂が飛び交い会場は騒々しかった。

そんな会場裏のホテルの一室にて探偵たちはドアを蹴破り突入する。



「やっと会えたな、犯人。」


「お前が元凶って訳か!ギリギリだったぜ!」


「そんなっ!!……何でお前なんだよ!!どうしてだ!!!後輩!!!」


「ちょっ…なっ…なんなんすかあんた達!?いきなり押し寄せてきて!!誰なんすか!!!」


突然の来訪者に驚きと動揺を露わにする男。この男は少年の後輩バンドマンで今回のライブの前座を担当する「Ashe」ギター担当だった。

探偵一行はビデオ店員のメモを頼りにホテルへと辿り着き、この部屋へ突入したのだが、彼はちょうど荷作りの最中だった。


「後輩さんや、大事なライブ前だってのに大層な荷物持って何処へ行く予定だったのかな?」


「それは…もちろんっ…楽屋だ!!ライブ前に準備をしようとっ!」


「そんなら楽器だけでいいだろうが、ご丁寧に全部運ぶ理由じゃぁねぇよなぁ?」


「それはっ……」


ギャングが後輩に圧力をかけている隙をついて探偵は後輩が大事に抱えていたバックを奪い取った。


「なっ…!!!!何をする!!返せ!!!!」


「探せ。」


「うぃ。」


探偵は後輩の叫びに耳を傾けることなくギャングボスにバッグを投げ渡し、ギャングはバックを乱雑にひっくり返す。様々な雑貨や生活道具に紛れて一つのネックレスが落ちた。


「それはっ!?俺が付けてた!」


紛れもなく少年がつけていた木製の悪魔のネックレスだった。



「さて、結末を話してもらおうか。」



すると後輩は肩を震わせながら突如大声で笑い出した。



「ここまでバレちゃぁしょうがない!!そう!!そうだ!!先輩を子供の姿にしたのも!誘拐したのも!俺の仕業だ!!全ては先輩、アンタを引きずり落とすためのなぁ!!!」



後輩の告白に驚きを隠せない少年。ギターの彼と後輩は相当仲が良かったのだろう。顔をちらりと見るだけでショックが伺える。


「どうして…どうしてだ…こんなことを!!」


「どうしてぇ?……決まってんだろぉ!!アンタが憎いからだよ!!!いっつも俺はアンタと比較されてばかり!!!顔も!動きも!!演奏も!!!!!もううんざりだ!!!だから俺はアンタを貶めようとした!!アンタがファンからのアクセは絶対付けるのは知ってたからな。ファンのふりをして送って血が充填されるのを待った…そしてアンタを誘拐して計画を実行した!!こいつは血がMAXまで充填されていれば先輩がいずれ完全に子供の姿になり、俺が先輩の姿となって成り変われる道具なのさ!!それで俺はアンタの代わりにステージに立とうとしたのさ!!!」


「成る程、バンド乗っ取り計画か…後のことを考えないカスらしい計画だな。」


「だまれだまれぇ!!!!!俺は!!!!証明したいんだよ!!!!アンタを超えているって!!!!アンタの腰巾着じゃないって!!!……そうだ、そうだなぁ。そうだ!!ここで皆殺しにすれば真実は闇の中だなぁ!!!!そうだよなぁああああ!!」



後輩は突如ポケットから明らかに入らないサイズの刀を取り出した。それはギラリと照明の光を反射して鈍く光る、真剣のようだ。それに驚愕する少年。だが、探偵とボスは微塵も動揺しなかった。



「あれがもう一つの呪具…何処が護身用だよ…殺害用じゃねーか」


「…んで?帝国は正当防衛ってシステムあるっけか?


「ある。死なん程度にかましとけ」


「合点承知っ…オラいくぞぉ!!」



ギャングはやたらめったらブンブンと振り回す刀を華麗な動きで捌いていく。壁や家具が豆腐を切るようにスパスパと傷ついていくがギャングには傷一つ、汗すらかいていない。



「なんっ!でっ!!!当たらっ!ない!!んだ!!!」


「そりゃお前、ズブの素人が刀使って、しかも室内で長物って…舐めんなや!!!」



一瞬の隙をついたギャングの上段蹴りが後輩の側頭部の中央を捉えた。後輩は声を出す暇もなく紙くずのように壁に叩きつけられ、気絶した。ボスはズボンをはたいて一息つく。



「うしっ!…いっちょ上がりだな、……探偵さんや!こいつは貰ってくぞ。うちのシマで監禁した挙句俺に手を出してんだ。喜べ!!、今日の飲み会には花火大会が追加されるぞ!」


「絶対やだよ、見えねぇところでやれ。」



そう言いながら探偵は床のネックレスを踏み抜く、すると怨叫びが響き渡りネックレスが塵と化し、小さな血溜まりがカーペットへと流れ込んでいく。すると同時に少年の身体がみるみると伸びていき。服のサイズが丁度良い大きさで止まった。



「やったぁ!!!戻ったんだ!!!」



身体の隅々まで自分で調べ戻っていることを実感している元少年に探偵が話しかける。



「喜んでいるところ悪いんだが、そろそろライブなんだろ?お仲間達に謝ってきな。」


「っ!!はい!!ありがとうございました!!」



そう言われたギター担当は走り出そうとして急ブレーキをした。そうして近くにあった紙を掴んで何かを走り書きした。



「これ!!お礼と言ってはなんですが、この紙をバックステージ横の人に伝えて渡してください!!御礼になるかは分かんないですけど、最前席へご招待しましょう!!」



そう言うと彼は爽やかにウィンクをしながら走り去っていった。



「今日の飲み会は遅くなりそうだな。」


「あぁ、未来のスターを最前線で聴けんだ。いかねぇ手はねぇな。」



そう言うと探偵はおもむろに携帯をかけだした。ワンコールも経たないうちに電話が繋がれる。



「ちょっと探偵さん!!今どこn「秘書様に伝えておけ、ライブに遅れるぞってな。」っ?………!?分かりました!!!」



こうして騒がしかった夜は最高潮を迎えて行くのであった。





時は移り次の日の昼頃。宮廷内の一室に男達は集められていた。



「この度は本っっっっっ当にありがとうございました!!!!」



凄い勢いで頭を下げる秘書。顔には生気が満ちてキラキラしており、手には凄まじい分厚さの封筒が握られている。



「いいんだよ、報酬も貰えるし特にそれ以上はない。何かあれば頼んでくれ。」



そう言うと秘書の分厚い封筒と名刺を交換して部屋を去ろうとする。すると秘書の横の4人が一斉に頭を下げた。今回のライブを大成功で収めたmolgonnaのメンバーだ。



「「「「ありがとうございました!!!!!!!!」」」」


「また是非ライブ来てください!」


「絶対にもっとビックになるんで!!!!」



そう叫ぶ男達に対して探偵は一瞬だけ顔をこちらに向け、


「なんかあったらまた呼べよな、俺は探偵だ。」


一言残し名刺を乱雑に放り捨て、城を後にするのであった。






ひやりとした風が首筋を撫で去る夕暮れ、階段を登った先のドアが開かれる。



「もっと静かに上がってこいよ、無能か?」


ソウレス街は今日も霧に満ちているのだ。




                第一章 完

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