第一章 3話 ガラクタの山



 帝国劇場から外れた裏路地の奥に入っていく探偵一行、大通りの賑やかな喧騒が嘘のように換気扇とボイラーの音だけがゴウゴウと鳴り響いている。



「こんなおっかないところに本当に手掛かりがあるんですか…?」


「口閉じて着いてくればいいんだよ。あてがあるに決まってんじゃん。」


「すっ…すみません……」


こんなやりとりをしていると、建物と建物の隙間に埋まるような形で店が建っているのが見えた。その形は不恰好でツギハギ、冗談でも綺麗とはいえない、ゴミを積み上げたかのようなその店に探偵は躊躇うことなく入っていき、青年はびくびくとしながらもおっかなびっくり後に続いた。

店内の天井から壁までを埋め尽くす棚に目を惹かれる。その棚を隙間なく所狭しと物が並べられており、アンティークの食器や怪しげなアクセサリー、おかしな形の楽器から巨大な石像まで、大小様々な何かよくわからないものが詰め込まれている。

店内に満ちた異臭とも言える不可解な匂いに思わず青年は顔をしかめた。探偵が奥にずんずんと進んでいくと不可思議なゴミ山の奥から一人の厳つい熊のような様相の顎髭を蓄えた男が出てきた。その姿は熊の毛皮を頭に被り、もっさりと言わんばかりの口髭を蓄えた遠目から見れば大体熊と間違えられそうなとても大柄な身体である。



「はぁいはい!おいらになーにか御用でって……おぉ!探偵さんじゃあないか!今日はどんなご用件で?」


「相変わらず妙ちきりんな香炊いてんなあんた…まぁそれは置いといて、ここ最近誰かに木製のネックレスを売ったろ?」



そう尋ねると今までおどけていた胡散臭い男が急に真面目な顔になった。



「…それは言えんよ探偵さん。いくらあんたやキングの頼みだとしてもこっちは客商売だ。顧客の個人情報は渡さんぞ?」


「それは分かってる。買ったのがいるかいないかしか聞いてないだろ?」



そう言うと探偵は懐から小さなコインを一枚カウンターに置く。コトリと置かれたそれを目にした店の男はその眼を一瞬だけ見開かせると顔をニヤリと歪ませ、


「何処で手に入れた?」


「数週間前に依頼客の倉庫から掻っ払った。依頼人から好きにして良いと言われてたんでな。」


「流石だな、そういう小狡い手は大好きだぜ?…結論から言うといるけど。確か……三日前だったかな?」


「そのネックレス、端的にいうと何のやつだ。」


「詳しいことは知らんが呪術。とだけ言っておきましょうかねぇ?」


「知ってるくせに…まぁ感謝。」



そう言って懐から札を束ねた物をカウンターに置いた。古物商はそれを眺めたあと商品を磨きながらおもむろに呟いた。


「…これは独り言なんだが…あいつは買った後ダステルへ向かうと言ってた。なんでも倉庫がそこにあるとかなんとか。」



探偵はニヤリと笑いながらカウンターを後にしようとすると、後ろから古物商に話しかけられる。



「気をつけな…あいつはネックレス以外にももう一つ買っていった、護身用の奴をな…またの利用お待ちしておりますぜ?探偵さんよ?」


「当たり前よ。」



こうして店を後にした探偵はおもむろに携帯を取り出して電話をしながら歩き出した。慌ててついていく青年。


「……もしもし…あぁ…そうだ…仕事を頼みたい…詳細はbarで伝える…それじゃあまた…あぁ…頼むわ…感謝します。」


携帯を仕舞うと一息ついて探偵は駅へ向かって歩き出す。



「あそこは何のお店なんですか…?」


「あ?あぁ、古物商だ。ガラクタばっかだけどな。」


「古物商…どうしてここに?」


「…聞いてお前が何かできんの?」


「えっ!?あっ……すみません。」


「あぁ…次はダステル電気街に行くからな。」


「ダステル電気街……ですか!?あの危険な街に?何しに行くんですか!!」



ダステル電気街、そこは帝国では無法地帯と噂の恐ろしい街である。行ったら戻って来れないだとか、飯を食べるぐらいの気軽さで人が死ぬとか、そんな噂が絶えないそのような場所に行くと聞かされた青年は腰が抜けそうになるも必死で探偵へと問いかける。しかし探偵の返答は短いものだった。



「そりゃあ簡単な話だ……あの街の悪の大将さんに来てもらうだけだ。」


探偵一行は次なる現場へと向かう。



             to be continued…

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