第5話 私にしか聞こえない

 何度も言うが、私には霊感というものがまったくない。

 けれどもなぜか、得体の知れないものに関わることはよくあった。


 あれは私が中学生の頃。


 その日は友人の家に遊びに行っていた。友人の家には、いつも住んでいる母屋の隣に、納屋として使っている旧家があった。


 私が友人の家に着くと、いつも閉まっている旧家の扉や窓が全部開いていた。掃除でもしているのだろうかと思いながら、あまり気にせずに友人を訪ねた。


 しばらくは母屋で遊んでいた記憶がある。けれども突然、友人が「探し物がある」と言い出して、私たちは旧家へ行くことになった。


 古い木造の旧家へ入った途端、私はあることに気がついた。どこからか、音楽が流れてくるのだ。家の中で、友人の家族がラジオでもつけているのだろうと思い、その時は気にとめなかった。


 旧家の中を探検気分で、友人と私は探し物をしていた。なにを探していたかまでは忘れてしまったが、結局その探し物は見つからなかった。


 探している間も、音楽は鳴り続けていた。しかも、聞いていると、ずっと同じ曲が流れているようだった。ラジオではなく、だれかが音楽を流しているのだろうか。


「ねぇ、この曲、なに?」


 何の気なしにそう尋ねた瞬間、友人の顔が固まった。


「えっ、なにも聞こえないよ?」


 その答えを聞いた瞬間、私も固まった。


「えっ?」

「えっ?」


 お互いに顔を見合わせて。


「「えぇーーーっ!?」」


 私にははっきりと聞こえていた。女性が歌うゆったりとしたメロディーの曲だった。


 でも、友人には聞こえないらしい。


 私は音を頼りに、出所を探すことにした。たどり着いたのは、小さな部屋。その片隅から確かに音は流れていた。


 けれども、その部屋に入ろうとした途端、友人が私を強く止めてきた。


「この部屋は、昔、人が……」


 それ以上は、言わなかったと思う。

 部屋の中は、床に新聞紙が敷かれていて、他の部屋とは様子が異なっていた。


 結局、音の正体はわからないまま、私は友人に引き戻されるようにして、旧家を後にしたのだった。


 それからしばらくして、私は帰ることにした。母屋を出て、隣の旧家を見ると、開けっ放しだった扉や窓が全部閉まっていた。だれかが閉めたのだろうか。友人の家族を、私はその日一度も見ていなかったのだが。


 ほんとに、あの音楽はなんだったんだろう……。

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