ホラー嫌いなオカルト好き

宮草はつか

第1話 私の前世はトリケラトプス

 あれは私が五歳くらいの頃。

 私は家族とともに恐竜の博物館へ訪れた。

 詳しいことはほとんど覚えていない。雨で化石発掘体験が中止になりガッカリしたことと、館内にあった動くティラノサウルスがめちゃくちゃ怖くて大泣きしたこと、そして、お土産コーナーに行ったことくらいしか覚えていない。


 お土産コーナーの棚には、恐竜たちのおもちゃが並べられていた。手のひらよりも大きめの、わりとリアルなフィギュアだったと思う。

 そのなかでトリケラトプスを見た時、自分がこう言ったのを記憶している。

 

「これ、むかしのわたしだった!」


 好きとか嫌いとかほしいとかではない。

 なぜか私はトリケラトプスを見た瞬間、「これは昔の私だ」「私は昔これだった」と思った。

 もちろん当時は、「前世」という言葉なんて知らなかった。ただ、なぜかトリケラトプスには親近感を持たずにいられなかったのだ。


 以上のことから、私は今も、自分の前世はトリケラトプスだと思っている。


 しかし、あの頃のように純粋でなくなった私は、自分がトリケラトプスだったということに、ひとつの疑問を抱いている。


 「転生するまでの期間、長くね」問題である。


 トリケラトプスは中生代白亜紀に生きていた恐竜だそうだ。白亜紀は今から約一億四五〇〇万年前から六六〇〇万年前くらいらしい。前世でトリケラトプスだったとして、隕石の衝突を目の当たりにして亡くなったとしても、今世で私に転生するまでの間、およそ六六〇〇万年ほどの期間があるのだ。


 ……長くね? 魂、その間なにしてたの?


 いや。ひとつの仮説として、「魂に時間軸は無効」説がある。

 私たちは三次元にいて、時間軸については一秒一秒進んでいくことしかできない。しかし、魂はどうだろうか? 魂は私たちに知覚できないから、もっと高次元の存在なのかもしれない。時間軸を飛び越えて、六六〇〇万年前だろうが一億年前だろうが、案外すぐに転生されるのか……。


 いや。二つ目の仮説として、「別世界のトリケラトプス」説もある。

 異世界転生よろしく、私は別世界の、いまだ恐竜が生きている世界のトリケラトプスから転生した、という可能性もある。


 だが、それは本当にトリケラトプスなのか? 数千万年も経てば、トリケラトプスも進化しているだろう。もはやトリケラトプスと同種扱いはできないかもしれない。


 そもそもトリケラトプスが一番メジャーだからおもちゃとして売られていて、目に入っただけで、もしかしたらプロトケラトプスかもしれない、カスモサウルスかもしれない。


 私は結局、自分の前世はトリケラトプスだと思っている。としか、書けないのである。


 ほんとに、私の前世は、なんだったんだろう……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る