第5話

   

 森のモンスターを狩りながら、僕も「気づかないふり」でレジーナに接していた。

 モンスターの気配は彼女が察知してくれるので、僕が周囲を警戒する必要はない。雑談を続ける余裕もあるほどだった。

「いや、だけどさ。レジーナの両親だって、騎士学院の入学は認めてくれたんだろ? だったら、卒業後は、騎士か冒険者になるのが当然で……」

 そう口にしたところで、別の可能性が頭に浮かぶ。

「あっ、それとも、冒険者になりたいけど騎士になるよう強要されてる、って話かな?」

 そうだとしたら、なんとも羨ましい話ではないか。

 騎士学院に通う以上、誰でも騎士を目指すものだが、その実現は難しい。いくら優秀な成績で卒業しても、コネがなければダメなのだ。だから妥協して、冒険者になるのが普通だった。

 しかし、レジーナの場合……。然るべき家柄のお嬢様だというなら、騎士になれそうな伝手や人脈もあるに違いない。それなのに、騎士よりも冒険者を望んでいるようなのだ。


「あら、ちょっと違うわ」

 僕の想像に反して、彼女は首を横に振る。苦笑いを浮かべていたけれど、その表情には、女の子らしいコケティッシュな雰囲気も感じられた。

「将来は私、家業を継ぐことが決まっているの。そのための修行の一環なのよ、この騎士学院で学ぶのも」

「へえ、そうなんだ」

 適当に相槌を打ちながら、僕は想像を膨らませていた。

 騎士学院における勉強が役に立ちそうな商売なんて、ちょっと思いつかない。ならばレジーナは庶民の金持ちではなく、貴族の家柄なのだろう。

 自分の家に仕える騎士たちの気持ちを理解するために、わざわざ騎士学院に入って、騎士の立場を一通りシミュレーションしてみる。それも貴族には必要なことなのかもしれない。

「でも、私が家を継ぐのは、あくまでも将来の話だから……。それまでの間、本当に冒険者をやってみたいの」

 遠い目で語るレジーナを見ながら、僕はさらに考えてしまう。

 騎士というものは、命懸けで主君に仕える身分だ。

 たとえ下級貴族とはいえ、たとえ一時いっときの話とはいえ、貴族が他の貴族に身を預けるのは抵抗があるはず。なるほど、貴族のレジーナならば、騎士よりも冒険者を目指すのは当然だった。

   

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