第6話 小悪魔な悠


 悠が、俺のクラスの一員となって三日が過ぎた。

 前世の悠とはまるで別人で、抜群のコミュ力を持つ今世の悠は、あっという間にクラスのカースト上位に上り詰めていった。

 清楚な容姿も含めて、人当たりの良さからか、既に何人かに告白されたとか、そんな噂まで。



 ……流石にこれは、俺の知ってる悠とは別人だ。

 と、言う事は、悠の記憶は消されているんだろう。

 

 最愛の彼女は目の前、しかし中身は別人。

 俺との関係は先生と生徒、俺だけ記憶があり、悠には無い。


 おまけに男性機能も、無い。


 ……詰んだな、これは。


 俺は最早、成美圭ではないし、悠の事は一生徒として無事に卒業させてやらないとな。

 今世で会えた事だけでも、感謝しないと。



 ……って、簡単に割り切れるワケないじゃん!


 俺だって中身は高校二年生だしっ?

 もうっ、今すぐ抱きしめて、このまま連れ去りたい。


 ……まぁ、そんな事したら、今度は世間的に抹殺されてしまうし。


 「ああっ、もうっ!」


 「どうしたのっ、先生っ?」

 悠が後ろから脇腹をツンツンしてきた。


 「ひゃうっ?」


 「ププッ、何それー? いいリアクションだねーっ!」


 もう、既に敬語など存在しない悠は、俺の気持ちを更にモヤモヤさせた。


 「困った事があったらいつでも言ってこいよ、私が守ってあげるから!」


 「それっ、俺が言ったヤツだろっ! 先生を揶揄うのはやめなさい!」


 「あははっ、はーい」


 すると、


 「……でもね、先生。先生のあの言葉で私、凄く勇気貰えたから、こんなにも早くみんなと仲良くなれたんだよ! だから、今度は、私が先生の力になれたらいーな」


 悠はまたも上目遣いで、俺の腕を掴んでそう言った。


 ……こんなの一体、どうすりゃいいんだ?


 でも、これ、……ワザとやってるよな?


 こんなん、前世の悠は、無意識にやってたけど、破壊力は今世の悠の方が上だ。


 「あっ、ありがとう。……それなら、悠に頼れる事があったらお願いするよ」


 「えっ? 今、悠って……」


 ヤバっ!


 「やったぁー! 先生、私の事『悠』って呼んでくれるんだー! えへへっ……じゃあ、私も『真沙樹っ』」


 「だっ、ダメだよ、赤西っ! 先生は友達じゃないんだからなっ!」


 「えーっ、だって他の人は『マサキチ』とか『まー君』とか言ってるじゃん?」


 「それは、そうだが、……呼び捨てはちょっとな」


 「意識しちゃう? ねぇ、意識しちゃった?」


 「とにかくっ、ダメなモノはダメだっ!」


 「えーっ、けちっ! じゃあ、『真沙樹さんっ』」

 「却下!」

 「真沙樹せんせっ」

 「それなら……いいが、下にハートはつけない事!」


 「ぶうーっ!」

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