第6話 放課後の悲劇

「あちゃー…雨か…」


 放課後の時間、急に雨が降りだした。

 傘を忘れたとぼやく生徒もちらほら。

 僕は折り畳み傘を鞄に忍び込ませているから問題はない。

 ただ普通の傘よりは小さめだから不便ではあるが、ないよりはマシだ。


「あっ…忘れた」


 隣の席の枋木こぼのきさん、どうやら傘を忘れたようだ。

 どうしようと困り顔である。

 ちょっと話してみよう。


「枋木さん」

薮木やぶき君…」


 なんだか助けを求めている感じがする。

 だから僕はこう言った。


「一緒に帰ろう?」

「えっ」


 キョトンとした枋木さん。

 みるみる頬を赤くする。


「いや、でも」

「大丈夫」


 逡巡して「よろしくお願いします」と枋木さんは僕を頼ることにした。

 なるべく傘を枋木さんに向けていこう。

 僕の制服なんかどうにでもなれ。

 風邪引いたりされたら大変だから。



 玄関で靴を履き替えを終えて、外の様子を2人で見る。


「少し雨あし強いけど、大丈夫だろ」

「うん」


 とは言ったものの、緊張してきた。

 傘をさして、枋木さんが中に入った所で、ゆっくりと歩き出した。

 周りの生徒達の視線は、特に男子からの視線は殺意を感じた。

 これは一体どういうことだろう。

 枋木さんの様子は、ほんのりと頬を赤らめていた。

 緊張しているのだろうか。


「枋木さん、ごめん」

「どうして謝るの?」

「初めての相合い傘が僕で申し訳ないなと」

「ううん、そんなことないよ」


 だと良いけど。

 枋木さんのペースに合わせて歩きつつ、彼女が濡れないように傘をなるべく隣に向けた。

 自分の肩はずぶ濡れになってはいるが気にしない。

 駅まで着くと「ここで大丈夫」と枋木さんは言った。


「んじゃ、また」

「ありがとう薮木君」


 枋木さんは深々と頭を下げて、駅の構内に入って行った。


「さて帰りますか」


 また傘をさして帰宅するのだった。

 それにしても、相合い傘をしたから気づけたことは、枋木さんがモテていたことだ。

 あの、殺意の視線は痛かった。

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