閑話

同期

同じくクダンスター地区


スケトたちがヴィオへの歓迎会をした酒場からかなり少し離れて、夜の街に隠されている場所で静かに開店した隠れのバー飲み屋は今日も営業している。

この飲み屋は会員制であって、会員の紹介がなければ入れない店の仕組みであり、そのために訪れる客は大抵にはこの店の静かで上品な雰囲気を堪能する人が多い。

その静かな店の中に一人の男性が酒を嗜みながら、誰かの登場を待っているかのように何回も入り口の方を見つめている。


それを見たバーテンダー店員の一人がその男性に声を掛けた。

「お客様...どの方を待っている様子ですが、ご注文はいかがにいたしましょうか?」

「あ...これと同じモノで頼むよ...いつ来るか分からないから、とりあえず私はただ静かに飲んでいるだけなんだ。」

「かしこまりました。早く待ち人とお会いできるといいですね。」

「まあ、ありがとう...個人的には会いたくないけど、そろそろかと思う。とりあえず次の一杯をお願いね。」

と会話が終わった次の瞬間、入り口では一人の男性は入ってきた。


服装が素朴の上に、その男性の髪色と瞳色は店の中にいる人たちを少しざわめかせた。

受付役の店員も一瞬戸惑いながら、入ってきた男性に声を掛けた。

「いらっしゃいませ...お客様の会員証か招待状のご提示をお願いいたします。」

そこで、男性は「ああ...それなら、これでいいですかね?」と言って、何かの紙を見せた。

それを見た店員の顔はすぐさまに真っ青になり、「かっ!確認いたします!」と言って、店の裏に消えた。

店内もまたざわめきが増した雰囲気の中、待ち人を待っている男性は店員にこう言った。

「私の招待客だ...通してくれないか?」

「は、はい!」と返事をした店員も店の裏に消えて、その後は店員さんは突然態度を変えて、入り口で待っている男性を席で一人飲みしている男性の席まで恐縮しながら、案内した。

待ち人が来たということは良いことのはずだが、待っていた男性はため息をついて、来たばかりの男性にこう言った。


「お前...を使ったな。」

それを聞いた相手の男性は少し機嫌そうな顔で男性にこう言った。

「この店の会員証も招待状もないから、アレを使った方が手っ取り早いじゃん。」

「お・ま・え・な...あの貴重なモノを通行証みたいに使ってどうする。特にこういう場面は静かに済ませたいところで騒ぎを起こしたくない。」

「あ...大丈夫...俺はもうこれがなければ、いつもの目で見られるから...これで突き通すと決めた。」

「は...好きにしろ...」

「でも、待ってくれてありがとう。いや、待たせてごめんか...ちょっと後輩を宿まで送ってから戻ったんだ...あ、俺も注文していいのかな?」

「だから...好きにしろ...」

「つれないね...何を怒っているの?あ、すみません...この人と同じモノでお願いします。」と言ったが、店員の反応は少し過剰に敏感になって、「かっ...かしこまりました。」となんだか怯みながら、店の裏に消えた。


「あ...次は別の店にしよう...逆に目立つ。」

「え~?この店を選んだのはお前だろうが...」

「静かで秘密の話ができるところにするつもりだが、そもそもお前の容姿からはもうバレバレということを反省している。次はめっちゃうるさい居酒屋ホスポダにするわ。」

「まあ...エールが無尽蔵に飲めるなら、それでいいよ。」

「そこは問題じゃない!...というかお前、結構飲んでから来たよな。」

「ああ...新人の歓迎会で参加者全員と酒を交わしながら、帰るまで面倒を見て、あとはさっき言った通りに新人を宿まで送ってから、ここに来た。」

「本当に無尽蔵に酒が飲めそうだな、お前...前も思ったけど、どの仕組みでそこまで酔わないで飲めるの?...は...もういい...本題に入ろう。」

「うん」と突然相手の男性もからかうことをやめて、真面目に話しを聞いた。


そこで、待っていた男性は封筒を相手に差し出した。

それを受け取って、中身を確かめた後に、男性は説明をした。

「これはお前が欲しい情報だ。やはりあの入団試験にはなんらかの介入で全員不合格をさせたようだ。誰かまでは掴めないが、実在する。俺の権限ではそこまで届かないということはかなりの上級団員だ。どちらにせよ意図的なことには違いない...じゃなければ、お前が言っていたカミサカくんの能力で一人だけでも合格できるはず。同じパーティーメンバーが不合格したという理由で彼女を落としたとしか考えられない。」と言ってから、また次のように説明を加えた。

「その試験の評価記録を見たら、すぐに分かる。彼女は十分すぎるぐらい素質がある。もしかしたら...入ったばかりのお前より素質があるかもな。」とここで皮肉っぽく相手の男性に言うつもりだったが、相手は怒る様子も見せずに少しどこかで寂しそうに微笑んだ。

「まあ...それは認めるよ。俺は才能がないというのは確かだ...努力するしか取り柄がないただの凡人だ。」という言葉になぜかこっちまで悪いと思ってしまった男性は、「確かにお前は天才じゃない...でも、お前は...」と言いかけたところで、相手は胸に秘めた気持ちを言葉にした。

「あ...そうだな...少なくとも昔はそうだった。今は違う...まずこの情報を探してくれてありがとうな。」となんだか自己完結したかのように見えた相手を見て、男性はこれ以上この話題には触れずに別の話に切り替えた。


「あと、俺をこき使った件だけど...冒険者でもなくか弱い俺を一人であのダンジョンに入って、百足センティピードの大好きな餌の...黒虫ブラックバグの死骸をばら撒いてもらうなんて無茶すぎるわ!駆除業者から大量をタダでもらったから、今それを考えるだけで食欲がなくなる...」と急に気分が悪くなった男性に対して、相手の男性はそれを構わなく、次のように言った。

「虫のことは悪かったと思うけど、か弱いとかって嘘をつくなよ!...あの超一流名門ギルドの【人事部】に所属しながら、その能力は初級の冒険者よりはマシだろ?教えた手順もクリアして、何の問題なく計画通りにジャイアント・センティピードをことも成功だったし...あとはな!俺はハイレベルモンスターからのドロップアイテム...巨大な鋭い牙シャープファングを2本上げたんじゃないか...それでいくらすると思っているの?お前の月収より高いよ!」という相手の男性の説明に対して、呆れそうな顔をした男性は反論をし始めた。

「冒険者所属じゃない人が急にあのレアアイテムを売りにいけるわけねーだろ?買取業者に任せるしかないし、手数料もかかるし、結局もらったお金はまあ...俺の月収じゃないけど...そこそこもらったよ。」と渋々言った

「それなら文句ねーだろ?」という言葉が起爆剤になったかのように男性はまた相手の男性を睨んで、こう言った。

「それでもまた借りだ。何回目の借りか数えたことがあったか、お前。」という言葉には全然動じずに相手の男性はこう答えた

「まあ...今日は俺の奢りだ...ならここにいる全員でもいいぞ。」

「ああ...そうさせてもらう。のときに王様からいただいた大金...それに比べたら、一人ところかこの店を貸し切るなんてもう減りもしないじゃないの?」という煽りに対して、相手の男性はこう答えた。


「そのお金?よ。」

「はあ?何に使った!!!」

「まあ..な...いろいろに...でも、お前を奢るお金ぐらいは自分で稼いでいるよ。」

「全く...お人好しでもほどがある...とりあえず今日はお疲れ様。」

「ああ...」

「次はソアルだそうだな。これは...ギルドにいたときのあの現場らしいけど、まあ...気をつけろよ。」

「俺は誰だと思う?魔王討伐団の誰も死なせなかった...伝説のヒーラー様だよ...ハハ」というなんだか自虐ネタにしか聞こえない言葉に男性は思わずふっと笑った。

「相変わらず皮肉屋だな、お前。」

「まあ...ある意味では事実だけどな.....」


その言葉が終わったときにはちょうど飲み物が運ばれた。

「まあ...今日の成果で乾杯しようか。」と相手の男性は琥珀色の蒸留酒が入っているガラスを上げた。

「あ...乾杯...」と男性も自分のガラスを相手のと軽くぶつけて、一口飲んだ。

「うん...美味い!しかし、本当に持つのは同期だよね...特に無茶ぶりでも助けてくれる同期を...なあ、

「お前な...問題を起こすなんてほどほどにしろよ、


ああ...さっき俺は一つ言いかけていた。

お前は天才じゃない...

でも、お前の努力はお前を【秀才】にした...

同期の俺だから、分かる...いや、保証するよ。


それからしばらく2人の時間になり、たわいのない会話とお酒を共に。

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