第2話 とりあえず、衣食住をなんとかしよう(with明日乃)

 神様が充電切れで電源が切れたスマホの画面ように消えてしまった。

 そして残された俺と明日乃あすの、すっぽんぽんの男女が二人だけ。

 

「なんか、ごめんな。もしかしたら俺のせいで巻き込んじゃったのかもしれない」

俺は明日乃あすのに背を向けたまま謝る。


「ううん、りゅう君のせいじゃないよ」

明日乃あすのも背中を向けたままそう言ってくれる。


「でも、元の世界に戻りたいだろ? 俺と、男と二人っきりなんて嫌だろうし」

俺は、聞きたくはないけど聞かなければならないことを明日乃あすのに聞く。


「元の世界に戻りたいけど、それはお母さんに会いたいだけ。お母さんのご飯が食べたいし、心配かけたくないし。それに、りゅう君がいてくれたのは逆に嬉しいくらいだよ」

明日乃あすのが少しだけ振り向いてそう言ってくれる。


「でも、さっきの神様の話だと、元の世界には、私の分身がいて、いつも通り生活している。というか私が魂の10分の1だったら私の方が分身かな? お母さんも気づかないで今まで通り幸せに暮らしているんだろうね」

明日乃あすのが少し寂しそうに言う。


「お、」

俺は、「俺が明日乃あすのを守る」と勇気づけようとしたが、その言葉に説得力も自信もなく、口ごもってしまう。何より、ここがどんなところで、これから暮らしていけるかもわからないのに、無責任な言葉は言えなかった。


「ふふっ、ありがと。りゅう君が一生懸命慰めたい気持ちは分かったよ。気持ちを入れ替えて、この世界で生きることも考えないとね」

そう言って明日乃あすのが首だけ振り返り笑う。

 まあ、お互い、すっぽんぽんの裸なのでまじまじと見ることはできないが、なんとなく振り向いているのは分かった。


「それにしても、こんな裸じゃ何もできないな。何より、恥ずかしくて明日乃あすのの顔も見られない」

俺は本当に困ってそう呟く。




 少し沈黙が続き明日乃あすのが、するり、草をかき分けて立ち上がる音。

「私はりゅう君に見られてもいいよ。最初は驚いちゃったけど、聖書に出てくるアダムとイブみたいで素敵じゃない?」

そう優しい声で俺にささやきかける明日乃あすの


「え?」

俺が驚いて振り向くと、一糸まとわぬ姿で立ち上がり笑う明日乃あすの

 とても綺麗だった。


「って、何!? その耳?」

俺は一瞬、明日乃あすのの裸体に見とれてしまったが、それ以上に彼女の頭の上から生えているもの、兎の耳のような、明日乃あすのの髪の色によく似た艶やかな黒い色の耳に驚く。


「と、いうか、りゅう君も変な耳生えてるよ。猫さん? ううん、ライオンさんかな? ライオンさんみたいな尻尾も生えているよ」

明日乃あすのがそう言うので俺は慌てて頭の上を触り、耳?らしきものを確認、そして目で自分の尻を確認すると確かにライオンのような尻尾、先に大きな毛玉のついたような尻尾が見える。しかも、意識すると動く。


「生えてるよね?」

「ああ、生えてる」

明日乃あすのと俺が声を合わせるようにそう言う。そして、ぶるん、と尻尾を動かしてみる俺。


明日乃あすのの耳? は兎の耳みたいだ。さ、触ってみてもいいか?」

俺は好奇心からそう聞いてしまう。


「い、いいよ。やっぱり生えてるよね?」

そう言って明日乃あすのもお尻のあたりに手をやって尻尾を確認する。


 俺はとりあえず、二人が丸裸なことを無視して立ち上がり、明日乃あすのに近づき、兎の耳のようなものを触る。最初は根元を確認して生えていることを確認、そして徐々に上に手を這わせ、隅々まで、痛くないように優しく触れてみる。


「り、りゅう君、さ、触り過ぎだよ、く、くすぐったいよ」

とろんとした目で恥ずかしそうに抗議する明日乃あすの。息も少し荒く、なんだかエロイ気持ちになる。

 そしてお互い目が合い、確認し合うように見つめ合うと、無意識に顔が近づき、唇が重なる。



☆☆☆☆☆



「とりあえず、何か隠せるものを探すか」

少し休憩してから、俺は照れながら、裸のままじゃ不味いだろうからときょろきょろと周りを探す。ありがたいことに、まだ陽は登り始めたばかりのようで周りは明るい。

 とりあえず、耳や尻尾の事は忘れよう。神様も声かけても返事ないし。次に会った時に聞けばいい。


「ふふっ、本当にアダムとイブみたい。禁断の実を食べて恥ずかしくなっちゃったみたいに」

明日乃あすのが能天気な感想を言う。


「まあ、神様の話じゃ、神様の力が溜まったら俺たちの知り合いを降臨させるとか言っていたし。その時に二人とも裸じゃまずいだろ?」

 俺はそう言って、とりあえず、少し先の木の下に落ちている大きな葉っぱ、面積も広いうえに腰に二巻き巻いてもまだ余るくらいの葉っぱを何枚も拾い、明日乃あすのの元に帰る。


 明日乃あすのはそれを受け取り、葉の真ん中にある太い葉脈に沿って上手に半分に折り腰に巻く。そしてもう一枚も同じようにうまく折って胸に巻いていく。

 なんかお洒落な南国ファッションみたいな感じになった。

 俺も明日乃あすのを真似るように葉っぱを折り腰に巻き恥ずかしいところを隠す。これならお尻も見えないな。

 そして、明日乃あすののお尻も見られなくなり少し残念な気持ちになる。


「ふふっ、少し残念そうな顔しているよ、りゅう君」

少し意地悪そうに、そして、何か嬉しそうにそう言う、明日乃あすの


「でも、なんかそういう仕草、意外かな? 元の世界だったら私の裸なんか興味なさそうな顔すると思ったのに」

明日乃あすのが少し悲しそうにつぶやく。


「そんなことない。元の世界でも見たいし、見たかった。でも見ちゃいけないというか、見ないのが当たり前というか、あー、なんて言ったらいいか、とにかく、今も昔も見たい気持ちは変わらない」

俺は言い訳するように、そして本心を伝えるように試行錯誤して答える。


「また、見たくなったら見せてあげるからね」

冗談か本気か分からない笑顔で、少し前かがみの可愛い仕草で覗き込むように俺の顔を見て、そう言う明日乃あすの。俺はドキドキしてしまい目を逸らす。


「ふふっ、なんかこっちの世界にきて、りゅう君変わった? ちょっといいかもね」

明日乃あすのが訳の分からないことを言う。


「???」

変わったのは明日乃あすのの方だろ? なんか積極的過ぎる。


「と、とりあえず、服はなんとかなったな。次は家か食料、衣食住は最低限なんとかしないとな。あと飲み水の確保も必要か」

俺は照れを隠すようにそう言い、もう一度、葉っぱの落ちていた森の方に進む。

 明日乃あすのも服の代わりの葉っぱを身に着けることができて、安心したのか、俺の後ろをついてくる。


「あれ、ヤシの実じゃない? ヤシの実の中に飲める水が入っているかもしれないよ」

そう言う明日乃あすの


「そうなのか?」

俺が知らない知識に明日乃あすのに再確認をする。

 そして振り向きながら明日乃あすのの顔を覗く。そして見とれてしまう。

艶のある黒髪のストレート。背中まで伸びた髪が本当に美しい。学校でもみんなが気にする美少女だ。しかも頭も良くて学校のアイドル。ただし、運動音痴でインドア派なので学校のアイドル手前っていった感じか? 人付き合いも少し苦手みたいだしな。でもそんな明日乃あすのの弱点も含めて俺は好きだ。


 ん? って感じで首をかしげる明日乃あすの。俺は心を見透かされたような気がして、恥ずかしくなってそっぽを向く。


「うん、お父さんの本に書いてあった。最近のお父さんの本、そう言う内容ばっかりだったから」

明日乃あすのが仕方なさそうな、残念そうな顔をしてそう言う。


「そう言えば、明日乃あすののお父さんは小説家だったもんな。結構有名な恋愛小説を書いた作家さんだっけ?」

俺は思い出すようにそう言う。明日乃あすののお父さんが書いた小説を原作にしてつくられたドラマや映画、そしてアニメなどもありそれを思い出す。


「うん、まあ、そうなんだけど、最近は、恋愛小説が書けなくなった、とかって、執筆を諦めちゃって、無人島を買って、ナイフ1本持って、一人で暮らしているらしいわ。そして、たまに家に帰るとその体験記を書いているみたいだけど、売れてないみたいね」

明日乃あすのがさらにがっかりした顔でそう言う。


「うちの親父もそうだったけど、明日乃あすののお父さんもキャンプとか好きだったもんな。言われてみると確かに、急にうちの親父がキャンプに行かなくなったのはそういう事だったのか。なんか、明日乃あすののお父さんのキャンプレベルについていけなくなったみたいなこと言っていたな」

俺が幼少期の記憶を思い出しそう言う。


「そう言えば、子供のころはりゅう君の家族と一緒にキャンプとかよく行ったもんね。お母さん達は一度っきりで行かなくなったけど」

明日乃あすのが思い出し笑いをしながらそう言う。

 そう言えば明日乃あすののお母さんも、うちのお袋も親父たちの道楽に付き合うのを心底嫌がっていたもんな。キャンプ場での料理なんてまっぴらだ。みたいな。

 子どものころの話だが、キャンプに行くときは大抵、俺と親父、明日乃あすの明日乃あすののお父さんの4人が定番だった。まあ、お袋たちは女二人で自由を謳歌できて、いい家族サービスだったのかもしれないな。


「まあ、うちのお父さんは、恋愛小説が書けなくなったころから急に、俺には野生の獣の心が足りない!! とか言い出してナイフ1本持って山に籠ったりするようになっちゃったから、誰もついていけなくなったけど」

明日乃あすのがそう言って、はぁ、とため息をつく。

 

「大丈夫なのか? その家計の事情とか?」

俺は明日乃あすのが見つけたヤシの木をぺしぺしと叩いたり、表面に足をかけるところがあるか確認したりしながら、明日乃あすのの生活が心配になって聞いてみる。


「ああ、それは大丈夫。お父さんも昔は超売れっ子の小説家だったし、映画とかアニメの利権とか著作権とか色々あって無人島1個買ったうえで、私とお母さんが暮らしていけるくらいの貯蓄や収入はあったし、お母さんも仕事しているし」

明日乃あすのが俺を安心させるように笑いながらそう答えてくれる。


「そういえば、明日乃あすののお母さんって、バリバリ働いているんだっけ? 会社の社長さんとか聞いたことあったかも」

俺はお袋の話を思い出し聞いてみる。


「そそ、女性下着の会社の社長さんなんだよね、うちのお母さん。だから、お父さんが遊んでいても困らないと言えば困らないかも?」

明日乃あすのがそう言い、俺は明日乃あすののお父さんが少し可哀想になった。そして笑ってしまった。少し言いすぎだろ。

 そして明日乃あすのは露知らずと嬉しそうに走り回り「他にもヤシの木あるよ」とはしゃぐ。


「そういえば、明日乃あすのも本読むの好きだったよな? 父親の影響か?」

俺は明日乃あすのを追いかけるように、明日乃あすのと雑談しながら、明日乃あすのが見つける他のヤシの木も調べてみる。なるべく上りやすい物を探す為に。



「本読むのは好きだね。一応、文芸部だし。地味で活動してるのか分からないような部活だけど」

明日乃あすのはそう言って俺を真似するようにヤシの木を見て回る。はしゃぎながら。

 

「文芸部? そう言えばそうだったな。ということは、知識の方は期待していいのか? 俺は逆に体しか動かせないから、知的なアドバイスは頼むぞ」

俺はそう言って明日乃あすのに笑いかける。


「りゅう君はバスケット部、バリバリの運動部だったもんね。責任重大だね。恋愛小説とか純文学しか読まないんんだけど、まあ、最近のお父さんの著書のおかげでよく分からないサバイバル知識はあるかもしれないね」

明日乃あすのが呆れた顔でそう言う。

 明日乃あすのはやっぱりお父さんには恋愛小説を書き続けて欲しかったんだろうな。


「まあ、俺のバスケは趣味みたいなもんだけどな。うちの学校、大会で勝ち進めるような強豪校じゃないし。明日乃あすのはお父さんみたいに小説家志望か?」

俺の部活は遊びだ。バスケは暇な時に3on3で仲間と戯れるぐらいが一番楽しいんだよ。


「うーん、私も趣味? というか読むの専門かな? それに、元の世界に戻れないなら小説家になりたかったとしても、なるのも無理だろうし」

明日乃あすのが最後は寂しそうに口ごもる。やっぱり、現実世界には未練があるんだろうな。


 俺は、重くなってしまった空気を取り払うように、とりあえず、ヤシの木をいくつか見て回り、斜めに傾いた、比較的背の低いヤシの木に狙いをつけて木に登る。


「りゅう君、気を付けてね」

明日乃あすのが心配そうに声をかけてくる。


 ヤシの木が傾いているおかげで木登りというか木渡りといった感じで上をたどるだけで何とかヤシの実のなるところまでたどり着く。ヤシの木に跨ってひょこひょこと進んでいく。まあ、ちょっとカッコ悪いけど、木登りで滑り落ちて怪我したらそれどころじゃないし。


 そして、ヤシの実を掴み、取ろうとするがうまく取れない。初めての事だし、引っ張ったり揺らしたり、回したり。回しているとなんかいい感じに動き出したので、さらに回すとなんとかとることができた。結構時間かかっちゃったな。


 とりあえず、明日乃あすのに当たらないように気をつけながらヤシの実を4個取り地面に落とす。


「すごい、すごい。りゅう君、すごいよ」

明日乃あすのが木の下で嬉しそうにはしゃぐ。

 ただ、問題は、どうやってヤシの実を割るかだな。


「リュウ君、あっちにはバナナみたいな木もあるよ」

明日乃あすのが森の方を指さして嬉しそうにしている。

 とりあえず、ヤシの実を二つずつ持って、バナナの木にも行ってみる。

 バナナの木は背が低く、背伸びすれば届く高さだった。

 手に持ったヤシの実を一度おいてバナナに手をのばす。

 ただ、バナナもヤシの実同様、取れない。取ったことが無いし、道具がないからだ。

 とりあえず、無理やり引っ張ったり左右に揺すったりして何本かもぎ取る。房ごと取りたかったのだが思いのほか茎が硬く、引っ張っても切れない。道具が必要だな。


「うーん、ナイフでもあれば、だいぶ、サバイバル生活も楽になるんだろうけどな」

俺はバナナの収穫に苦戦して愚痴を漏らす。


「そうだねえ」

明日乃あすのも頷く。


「で、このバナナ食べられるのか? 青いし、硬いぞ?」

なんとかもぎ取ったバナナを確認したが、熟していないのか青く、もぐのを失敗して途中で折れてしまったバナナの中を見ても固そうで、あまり美味しそうではない。


「ああ、日本で食べていたバナナと品種とか違うのかも? 焼いたり茹でたりして食べる国もあるらしいから焼いてみる?」

明日乃あすのがバナナを覗き込みながらそう言う。

 確かに普段食べるバナナより小さいし皮が硬いし、生で食べられる気がしないな。


「とりあえず、さっきのところに戻ろう」

俺はそう言って、バナナとヤシの実2個を持って歩き出す。

 

「りゅう君大丈夫? 少し持つよ?」

そう言って手をのばしてくる明日乃あすの。ヤシの実2個持っているだけでぎりぎりな感じの明日乃あすのの厚意に優しくお断りを入れる。


 とりあえず、飲み水と今日の食事は確保できたかな? 食べられるか分からないけれど。


 次話に続く。

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