第21話 おすそ分け、白光の城

エレンが怖い人ではなくてひとまずアシュレイは胸を撫で下ろした。



しかも話してみて知ったことだが、エレンの声は市場では全く聞き取れなそうなくらいに音量が小さかった。


昨日のバトルでも見かけたエレンの胸元の深い青色のネックレスは照明の光に反射してキラッと光っていた。





エレンとアシュレイはすぐに仲良くなることが出来た。

会話を弾ませながら、任命式が行われるアンヴァンシーブル城へと向かった。




途中エレンが立ち止まり、会った時に購入したチョコが入った箱のリボンをシュルっと解いた。

「一つあげる」とエレン。「どれか一つ、選んで」


「えっいいよ、僕は大丈夫だから」


一度断ったが、エレンが箱を両手で持ち、アシュレイをじーっと見つめるので


「え、じゃあ一つ貰おうかな」


と言ったら

エレンはまたふふっと笑った。


どのチョコも側面に金のラメが付いており、濃い茶色の固体と薄い茶色の固体の四角いチョコがそれぞれ対角線上に箱の中で整列していた。




アシュレイは薄茶の一口サイズのチョコを手に取り口に入れた。

カリッ…とチョコレートを半分に噛むと中からキャラメルがとろ~と出てきた。


「ん!キャラメルだ、すごくおいひい」


とアシュレイがもごもごしながらグッドサインを出すとエレンがニコッと口角をあげた。


エレンもチョコを一つ食べたらしく、片手を頬に当ててうっとりとした表情を浮かべた。


そんなエレンを見ていると心が和んだ。

この女の子がこの国一番の魔術師とは思えなかった。







二人で話しながら歩いていたらいつの間にか国王一家が暮らすアンヴァンシーブル城に着いた。

外側の城壁は真っ白なレンガで出来ており、とんがった屋根は緑がかった深い青色で、てっぺんには光のような幾何学模様の国章が縫われた旗が風になびいていた。




城本体の前に庭園があり、そのまた手前に豪勢な門があり両脇に鎧を着てやりを持った門番が立っていた。


「あの~僕達四聖星になるんですけれども、早めに着いてしまったのですが…」


とアシュレイが堅苦しい見た目の門番におずおずと話しかけた。

門番は鋭い目つきで彼をギロっと睨んだ。

「暗号をどうぞ」


随分用心深いんだな、とアシュレイは思った。

暗号ね……暗号………暗号!?

てっきり今の時代、城も顔パスで行けると思ってた!!


「えっ暗号?聞いてないんだけど……」


アシュレイがおろおろと動揺していると、隣でその様子を見ていたエレンが真顔で

「イチヨンイチゼロロク」と答えた。


「えっなんで分かるの」


「昨日のバトルの後、任命式の概要を係の人から聞いた時に暗号も一緒に言ってたよ。何で一四一零六かは分からないけど、変装が得意な魔術師も多くてなりすましとかが続いていたから前の四聖星の頃から始まったシステムらしいよ」

とエレンが首を傾げながら言った。


「うっそ…そんなこと聞いた記憶全然無い…多分四聖星になれることに浮かれてた」


アシュレイは頭を軽く掻きながら答えた。


両脇に立っていた門番二人が

「どうぞお入りください。エレン様、アシュレイ様」

と言いながら深々とお辞儀をした。

すると、薔薇の花の模様があしらわれ、所々に宝石が散りばめられた豪華で大きいヨーロッパ風の門の扉がゴゴゴと鈍い音を立てて開いた。


エレンがその豪華さには謎に慣れた様子で、特に驚くことも無くすたすたと城の敷地内に足を踏み入れた。


「アシュレイも早く中に入りなよー」

と言い彼の腕を引っ張った。


アシュレイもエレンに促されるまま城の中へと入っていった。

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